第29話 「鍛冶師バルドと、足りない強さ」
町外れの道を抜けると、空気が変わった。
乾いた鉄の匂いと、熱。
遠くから、規則的な金属音が響いてくる。
――カン、カン、カン。
リリアの足が、わずかに止まった。
「……ここ」
目の前にあるのは、岩場に半ば埋め込まれたような鍛冶工房。
外壁は煤で黒く染まり、炉の熱が外まで滲み出ている。
リックはそのまま扉を押した。
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中は、さらに熱かった。
炉の炎が揺れ、鉄が赤く光る。
その前に立つ男が、ゆっくりとこちらを振り返る。
「……来たか」
低い声。
バルドだった。
視線が、真っ先にリリアへ向く。
「鈍ってねぇか?」
いきなりだった。
リリアが眉をひそめる。
「なってないし」
バルドは鼻で笑う。
「そう思ってるうちは、なってるな」
空気が少しだけ張り詰める。
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リックが前に出る。
「装備を見てほしい」
バルドは一瞬も迷わず言った。
「必要ねぇ」
即答だった。
「足りてねぇ」
リックの目が細くなる。
「どこがだ」
バルドは全員を順に見る。
「お前」
リックを指す。
「技はある。だが刃が追いついてねぇ」
次にリリア。
「力任せだ。精度が甘い」
シルヴィアへ。
「面白ぇことやろうとしてるが、制御が雑だ」
エレノアへ。
「完成度は高ぇ。だが決め手がねぇ」
ルナへ。
「……異質だな。だがまだ扱いきれてねぇ」
最後にセレスティアを一瞥する。
「支えとしては十分だ」
沈黙。
核心を突かれていた。
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リリアが一歩前に出る。
「……強くなってるよ」
バルドは即座に返す。
「なってねぇ」
「なってるって!」
「なってねぇ」
言葉がぶつかる。
バルドは一歩近づいた。
「それは“使ってるだけ”だ」
リリアが止まる。
「力を“借りてる”だけだ」
静かな一言だった。
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その空気を切ったのは、シルヴィアだった。
「……戦い方を変えました」
バルドが視線を向ける。
「ほう」
シルヴィアは二振りの剣を抜く。
「薬を塗布し、拡散し、制圧します」
エレノアが続ける。
「風で拡散させます」
バルドの目がわずかに細くなる。
「……面制圧か」
「眠り、麻酔、毒」
シルヴィアが淡々と並べる。
「三段階で制圧します」
短い沈黙。
そして――
「……面白ぇ」
初めて、興味を示した。
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「だがな」
バルドが炉の方へ歩く。
「それでも足りねぇ」
振り返る。
「強化はしてやる」
リリアの目が少しだけ明るくなる。
「ほんとに!?」
「だが――」
間を置く。
「素材がねぇ」
リックが即座に聞く。
「何がいる」
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バルドは指を三本立てた。
「一つ目」
「黒鉄山の鉱石だ」
エレノアが反応する。
「……魔力鉱」
「そうだ。そこらの鉄とは別物だ」
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「二つ目」
「霧深の森の結晶」
「自然に魔力を溜め込んでる」
シルヴィアが小さく頷く。
「……精製に使えます」
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「三つ目」
バルドの声が少し低くなる。
「結社の素材だ」
空気が変わる。
「輸送してる」
リックの目が細くなる。
「ルートは知ってる」
ザクトの情報が繋がる。
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バルドが言う。
「結社に勝ちてぇならな」
少し間を置く。
「同じ土俵に立て」
その一言は重かった。
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そして、リリアを見る。
「お前」
「……なに」
「打て」
リリアが固まる。
「自分で作れ」
「……!」
「使うだけじゃ、超えられねぇ」
拳が握られる。
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「見せてみろ」
バルドが言う。
「今の戦いを」
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その場で簡単な実演が始まる。
リックが前に出る。
ルナが位置を取る。
エレノアが風を整える。
シルヴィアが刃に薬を塗る。
「……いきます」
風が吹く。
霧が広がる。
動きが止まる。
リリアが叩き込む。
一連の流れは、無駄がなかった。
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沈黙。
バルドが一言。
「……悪くねぇ」
リリアが少しだけ顔を上げる。
だが、続く。
「だがな」
「殺し切る力がねぇ」
静かな断言だった。
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リックが言う。
「素材を集める」
即決だった。
エレノアも頷く。
「輸送ルートが最優先です」
シルヴィアが続ける。
「結社素材が鍵になります」
ルナが短く言う。
「……閉じる」
リリアは、バルドを見たまま言った。
「……超えてやる」
バルドは何も言わない。
ただ、炉に鉄を戻した。
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外に出ると、空気が冷たかった。
だが、やることは決まっている。
リックは短く言う。
「次は奪う」
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遠く。
街道の向こうに、わずかな気配があった。
結社の輸送部隊。
それが、次の標的だった。




