第28話 「昇格と現実、そして足りない刃」
拠点に戻っても、畑の様子は変わらなかった。
いや――むしろ、悪くなっている。
葉は垂れ、色は抜け、土の魔力は薄くなっていた。
まるで、何かに吸い尽くされているような感覚。
シルヴィアが静かにしゃがみ込み、土に触れる。
「……止まっていません」
その声は落ち着いていたが、確信があった。
リックは腕を組む。
「核が残ってる以上、当然だな」
エレノアが続ける。
「拠点は複数。ひとつ潰しただけでは意味がありません」
リリアが不満げに言う。
「じゃあもう一回行けばいいじゃん」
短い沈黙。
あの“未完成”の存在。
あの圧力。
今のままでは――
リックははっきりと言った。
「無理だ」
空気が重くなる。
「まずは報告だ」
⸻
ギルドは、以前よりも明らかに騒がしかった。
人の動きが多く、空気も張り詰めている。
リックとエレノアがカウンターに立つと、すぐに職員が応じた。
「報告を」
内容は簡潔だった。
結社の拠点。
魔力核。
未完成の存在。
そして、撤退。
話が進むにつれて、周囲の空気が変わる。
「……そこまで確認したのか」
「極めて重要な情報です」
短い沈黙の後。
「リック様」
「あなた方のランクを引き上げます」
エレノアが静かに視線を上げる。
「……昇格ですか」
「はい。DからCへ」
当然の結果だった。
だが――
「しかし」
その一言で、場の空気が変わる。
「現状の戦力では、結社への対抗は困難です」
はっきりと言われた。
リックは表情を変えない。
「……分かってる」
職員は続ける。
「核は複数存在します」
「また、個体の強化も確認されています」
「規模が違います」
事実だった。
「他パーティとの連携、または上位冒険者の――」
「必要ない」
リックは遮る。
「自分たちでやる」
短く、迷いのない言葉。
職員はそれ以上は言わなかった。
⸻
ギルドを出た後。
エレノアが静かに言う。
「戦力差は明確です」
「ああ」
「どう補いますか」
リックは少しだけ考え――
「ザクトのところに行く」
⸻
ザクトの店は、いつも通り静かだった。
「……昇格、おめでとうございます」
入った瞬間に言われる。
リックは無視して本題に入る。
「結社の情報だ」
ザクトは軽く肩をすくめる。
「活発ですよ」
「特に“輸送”が」
エレノアが反応する。
「輸送……?」
「ええ。素材や核を運んでいます」
リックの目が細くなる。
「固定じゃないのか」
「むしろ逆です」
ザクトは薄く笑う。
「流れている」
空気が変わる。
「ルートもあります」
「狙うなら、そこですね」
リックは頷いた。
「使う」
⸻
拠点に戻ると、全員が揃っていた。
リリアがすぐに駆け寄る。
「お兄ちゃん!どうだった!?」
「ランクは上がった」
「おお!」
「Cだ」
リリアが嬉しそうに笑う。
「やったじゃん!」
だがリックは続ける。
「……ただし」
空気が変わる。
「このままじゃ勝てない」
静かな断言。
シルヴィアが頷く。
「……同意します」
エレノアも続く。
「戦力差は明確です」
リリアが腕を組む。
「じゃあどうすんの?」
その時――
シルヴィアが立ち上がった。
「……戦い方を変えます」
全員の視線が集まる。
彼女は腰の二振りの剣を抜いた。
「薬を使います」
リリアが首をかしげる。
「いつも使ってるじゃん」
「違います」
静かな声。
「塗布し、拡散し、制圧します」
エレノアが即座に反応する。
「……風で拡散すれば」
シルヴィアが頷く。
「範囲制圧が可能です」
空気が一変する。
「眠り、麻酔、毒」
淡々と並べる。
「三段階で制圧します」
⸻
その場で実演が行われた。
小さな魔物を一体、拘束する。
シルヴィアが刃に薬を塗る。
軽く斬る。
同時に、エレノアが風を起こす。
白い霧が広がる。
数秒後――
魔物が崩れ落ちた。
完全に眠っている。
リリアが目を見開く。
「なにこれ……強すぎない?」
エレノアが冷静に言う。
「面制圧が可能です。戦術として成立します」
リックは短く言う。
「採用する」
⸻
ルナが小さく言う。
「……閉じる」
視線が集まる。
「分断して、逃げ場なくす」
シルヴィアが頷く。
「……完璧です」
⸻
エレノアが整理する。
「戦術を再構築します」
⸻
・ルナ:分断
・シルヴィア:汚染
・リリア:火力
・リック:制圧
・セレスティア:回復
⸻
完成だった。
⸻
リリアがぽつりと言う。
「でもさ……武器も足りなくない?」
少しの沈黙。
「……師匠」
空気が変わる。
リックが見る。
「バルドか」
リリアは頷いた。
「行く?」
リックは即答する。
「ああ」
⸻
夜。
畑はまだ弱っている。
だが――ほんのわずかに。
回復の兆しがあった。
シルヴィアがそれを見て呟く。
「……まだ間に合います」
リックは空を見上げる。
「準備する」
短く。
「次は壊す」
⸻
遠くで、何かが動いていた。
それが何かは分からない。
だが確実に――
次の戦いは、近づいていた。




