第11話 「深部調査と、影の気配」
1部の採掘を終えて数日後、リックたちは再びギルドへ中間報告に向かった。
職員は前回の成果を褒めながら、依頼書を指差して言った。
「1部は本当に素晴らしい出来栄えでした。
それでは、予定通り2部……深部調査に移っていただいてもよろしいでしょうか?
深部は特に危険ですので、十分に準備を整えてからお願いします」
リックは頷き、改めて3人で相談した結果、深部調査に進むことを決めた。
「了解した。深部調査、しっかりやってくるよ」
準備を整えた3人は、再び鉱山へと向かった。
【遠征2部:深部調査】
鉱山の深部への道は、これまで以上に過酷だった。
中層を越えると通路は急に狭くなり、天井が低く、足元はぬかるんだ泥と崩れた岩で覆われていた。
空気は重く淀み、微かな硫黄のような臭いが混じり、息をするだけで胸がざわついた。
エレノアが風の加護を強く展開し、3人の周囲を柔らかく包み込んだ。
彼女は目を閉じて集中し、風の流れを細かく読み取った。
「前方に毒ガスが溜まっています……少し迂回しましょう。
あと、80メートルほど先に大きな空洞がありますが、空気の流れが不自然です。
何か……魔力の乱れを感じます」
リックは大地同調を常に発動させ、地面の微かな揺れや亀裂を敏感に感じ取っていた。
小さなゴーレムを3体出現させ、危うい壁を支えながら慎重に進んだ。
「この岩層……脆いな。
少しでも力を加えると崩れそうだ。ゴーレム、しっかり押さえてくれ」
リリアはランタンを高く掲げ、炎を少し強くして周囲を照らした。
彼女はハンマーを握りしめながら、時折地面を軽く叩いて音を確かめていた。
「お兄ちゃん、こっちの壁……なんか変な響きがするよ。
中が空っぽみたい……それに、寒い……」
3人は慎重に空洞へ入った。
そこは広大な地下空間で、天井からは巨大な鍾乳石が垂れ下がり、壁面にはこれまで見たことのない美しい青白い鉱脈が複雑に走っていた。
鉱脈は微かに光を放ち、まるで生きているかのように脈打っているように見えた。
リックは鉱脈に手を触れ、大地同調で質を確かめた。
「これは……かなり高純度の魔鉱石だ。
普通の鉄鉱石とは違う……強い魔力を帯びている。
これだけ集められれば、バルドさんの工房でも喜ばれるはずだ」
エレノアが風で周囲の空気を分析しながら、表情をわずかに硬くした。
「魔力がとても濃いです。
この空間自体が、何かの儀式に使われた痕跡があるかも……
風の流れが、まるで何かに吸い込まれているようです」
リリアは興奮と不安が入り混じった顔で、輝く鉱脈を指差した。
「お兄ちゃん! これ、すごい量……!
でも……なんか、背中がぞわぞわする……」
作業を進めながら、3人はさらに奥へと進んだ。
突然、エレノアの表情が凍りついた。
「……待ってください。
人間の気配が……複数います。
しかも、暗い魔力を強く帯びています。
低く呪文のようなものを唱えています」
リックは即座にゴーレムを大きく出現させ、3人を守るように配置した。
深部のさらに奥、薄暗い岩陰から、黒いローブをまとった人影が数人、怪しい魔法陣を描いているのが見えた。
彼らは低く呪文を唱え、何かを儀式のように行っていた。
暗い紫色の魔力が渦を巻き、空間全体を不気味に染め上げていた。
さらにその奥には、鎖で繋がれた一人の女性の姿があった。
黒い髪に紫の瞳、角のようなものが少し見える……
彼女は明らかに弱っており、結社の者たちに監視され、力なくうなだれていた。
リリアが小さく息を飲んだ。
「お兄ちゃん……あの人、誰……?
鎖で繋がれてる……」
リックは目を細めてその女性を見た。
その瞬間、何かが胸に引っかかった。
(……あの肌の色、紫の瞳、そして微かに感じる……冷たい魔力の波動。
まさか……ヴァンパイア……?)
リックは直感的に気づいた。
彼女はただの人間ではない。ヴァンパイアの気配を、はっきりと感じ取っていた。
しかし今は名前も知らない。
ただ、彼女が極めて弱っていること、そしてこの秘密結社に捕らわれていることは明白だった。
リックはすぐに低い声で判断した。
「今は深入りせず、証拠だけ確保してギルドに報告しよう。
深部の魔鉱石は少しだけ採って、すぐに撤退だ。
あの連中……ただの盗掘者じゃない。あの女性は……ヴァンパイアかもしれない」
エレノアがわずかに息を飲んだが、すぐに冷静に頷いた。
リリアは少し震えながらも、強く頷いた。
3人は静かに高純度の魔鉱石を数個採取し、気配を悟られぬよう細心の注意を払って撤退した。
拠点に戻った夜、焚き火を囲む頃。
リックは今日の出来事を振り返りながら、重い口調で言った。
「深部調査は予想以上に危険だった。
あの秘密結社のような連中……そして鎖に繋がれた女性……
彼女は……どうやらヴァンパイアのようだ。
これはギルドにすぐに報告しないと」
エレノアは穏やかに、しかし真剣な目で頷いた。
「リリアの採取と戦闘支援もとても役に立ちました。
あの女性を放っておくわけにはいきませんね」
リリアは少し震えながらも、強く頷いた。
「うん……私も、あの人を助けたい。
お兄ちゃん、どうしよう?」
その夜、3人は焚き火のそばで静かに寄り添うように過ごした。
しかし、誰もが心に深い影を抱えたままだった。
深部調査の初回を終えた夜、
遅咲きの物語は、暗い影が忍び寄る予感と共に、次のページをめくり始めていた。




