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異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~  作者: いたちのこてつ


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第28話 影の軍師の業務完了

三日間の強制休暇が明け、アヴァロン国政改革室の扉が再び開かれた。


戻ってきた職員たちの顔には、かつての悲壮なまでの緊張感はなく、どこか晴れやかで自信に満ちた色が宿っていた。ジンは無言でそろばんの埃を払い、ミナは市場の最新状況をまとめた報告書を鼻歌混じりに整理している。


仕組みが自走し始めたことを確信した組織には、もはやリーダーの細かな指示を待つ必要のない、自律した活気が生まれていた。


「……さて。アルフォンス、準備はいいか」


「ええ、俊殿。陛下もお待ちかねです」


俊は、あえて仕立てのいい、しかし動きやすい実務服を選んだ。これから向かうのは、単なる報告の場ではない。この国における自分の役割に、最後の区切りをつけるための儀式だ。


王城の謁見の間。そこにはライオネル陛下が、重臣たちを従えて待っていた。かつては改革室を疑いの目で見ていた貴族たちも、今や提携商会からもたらされる莫大な税収と、アヴァロンが握った経済的覇権の前に、沈黙と敬意をもって俊を迎えた。


「陛下。アヴァロン中央公認取引所の全面稼働、および周辺諸国との『信頼の規格』の統一。すべての土台が整ったことを報告いたします」


俊が静かに頭を下げると、ライオネル王は玉座から立ち上がり、ゆっくりと俊のもとへ歩み寄った。


「俊がこの国に持ち込んだのは、ただ新しい知識ややり方ってだけじゃなかったんだな。それは、立場や育ちが違う人間たちが、互いに『これなら公平だ』って背中を預け合えるための確かなモノサシ……どんな権威も口を出せない、真っ当な筋道だったんだ」


王の言葉は、静かだが確かな重みを持って広間に響いた。


「北方の脅威を武力ではなく『必要性』で抑え込み、ちからによる支配を『数字』という公平なルールへと書き換えた。……思えば最初に『開国を手伝ってくれ』なんて、俺もだいぶ適当な誘い方をしたもんだが、俊は俺の想像以上のものをこの国にくれたよ。……だが、その瞳に宿る光は、すでにこの地のさらに先を見据えているようだな」


俊は、王の鋭い洞察にわずかに目を見開いたが、その瞳に迷いはなかった。


「……ええ。アヴァロンの仕組みが独り歩きを始めた今、俺の視線はすでに、まだ『理』を知らない次の地平に向いています。お見通しの通りですよ、陛下。俺の仕事は『仕掛け』を作ること。そして今、アヴァロンという商品は、俺の手を離れても大陸中で輝き続けるだけの力を持ちました。あとは、この国の民がそれを守り、育てていく番です」


ライオネル王は不敵に笑い、俊の肩に力強く手を置いた。


「わかっている。……お前のような男を一所に留めておくことが、どれほど不可能なことかもな。だからこそ、お前が言い出したあの強制休暇の三日間、俺は裏で城の連中を総動員して準備をさせておいたんだ。今宵、この国の『開国』と、お前の功績を称える盛大な夜会を催す。主役はもちろんお前だ。たっぷり付き合ってもらうぜ」


王の宣言と共に、王城の鐘が鳴り響いた。それは、新しい時代の幕開けを祝う音だった。


その夜。王城の中庭から大広間にかけて、アヴァロンが誇る最新の魔石灯が、昼間のような輝きで世界を照らしていた。招待されたのは王族や貴族だけでなく、現場を支えたバートランドたち認定官や、改革室の若い役人たちも含まれていた。


「俊さん! こっちこっち! このお肉、すごく美味しいよ!」


ミナが豪華な料理を前に、ジンを引っ張り回している。ジンは困り顔ながらもアヴァロン特産の飲み物を口にし、満足げに喉を鳴らしていた。


アルフォンスは、パートナーであるオリヴィエを伴い、優雅に談笑の輪の中にいた。


「……いい夜だな、アルフォンス」


俊がグラスを持って近づくと、アルフォンスは親愛の情を込めてグラスを掲げた。


「ええ。あなたが作った『信頼』が、これほどまでに豊かな笑顔を生むとは。……俊殿、ヴェリディアへ帰る準備は、すべて私が完璧に整えておきますよ。あなたは、最後までこの夜を楽しんでください」


「ああ、頼むよ。最高の相棒パートナーに恵まれたことが、この国での一番の収穫だったかもしれないな」


二人は短く笑い合い、杯を乾かした。


夜会の喧騒から少し離れたテラス。俊はティアと共に、宝石を散りばめたような王都の夜景を見下ろしていた。


「……本当に、終わるんだね」


ティアの静かな問いに、俊は頷いた。


「ああ。でも、これは終わりじゃなくて、新しい始まりだ。俺たちが遺した仕組みは、これからもこの街を、この人たちを守り続ける。……ティア、ヴェリディアに帰ったら、あっちでもこの光を灯そう。もっと多くの人が、安心して笑えるように」


「うん。……俊さんとなら、どこへ行っても大丈夫。私は信じてるから」


ティアが俊の手を握り、二人の未来を祝福するように輝いている。


夜会の最中、ライオネル王が再び俊のもとを訪れた。王は従者に命じて、小さな木箱を持ってこさせた。


「俊よ。これは私からの、個人的な贈り物だ」


箱の中には、アヴァロン王家がこの日のために意匠を凝らした、一点ものの徽章が入っていた。


「お前がどこへ行こうとも、アヴァロンは常にお前の背中を支える盾であり、帰るべき港である。この徽章を持つ者は、アヴァロンの王と同等の権限をもって、大陸中のアヴァロン公認取引所の支援を受けることができる」


「陛下……。これは、あまりにも重い贈り物です」


「受け取れ。これは報酬ではない、我々の『信頼』の証だ。……俊。また新しい仕掛けを思いついたら、いつでも来い。俺たちは、友人なんだからな」


俊は、その重みのある徽章を胸に当て、深く、深く頭を下げた。


夜会は、アヴァロンの歴史に永く刻まれるほど華やかで、かつ温かなものとなった。魔法の光が夜空を焦がし、人々の笑い声が風に乗って大陸へと広がっていく。


策士として、マーケターとして。一人の男が異世界に打ち込んだ「信頼」という名の楔は、今、揺るぎない絆となって、新しい世界の形を創り上げていた。


宴の終わりは、旅立ちの始まり。俊の瞳は、夜の帳の向こう側、待っている仲間たちのいる空へと、真っ直ぐに向けられていた。

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