雨の日の帰り道
金曜日。
夜。
外は小雨が降っていた。
本降りではない。
だが傘がないと少し困る程度には降っている。
雀荘『オリオン』。
「ロン」
悠也が牌を倒す。
「はい終了ー」
常連が苦笑する。
今日はいつも通り。
大勝ちでもない。
大負けでもない。
気付けばしっかりプラス。
そんな日だった。
午後九時半。
卓が終わる。
悠也が席を立つと、沙月が近付いてきた。
「お疲れさまです」
「お疲れ」
「今日勝った?」
「ちょっとだけ」
「また勝ったんだ」
「またって何だ」
「いつも勝ってるじゃん」
沙月は笑う。
「今日は健?」
「その予定」
「やった」
「勝手に決まってるな」
「当然です」
午後十時過ぎ。
居酒屋『健』。
「いらっしゃい」
健二が苦笑する。
「最近ほんとによく来るな」
「美味しいから」
沙月が答える。
「お前は?」
健二が悠也を見る。
「巻き込まれてる」
「嘘つけ」
三人とも笑った。
食事の途中。
沙月がふと聞いた。
「そういえば悠也さん」
「ん?」
「今日飲まないの?」
いつもならビールを一杯だけ飲む。
だが今日は違った。
「今日雨だから車なんだ」
「え?」
沙月が顔を上げる。
「車持ってるの?」
「持ってるよ」
「知らなかった!」
「聞かれてないし」
「どんな車?」
「大きめのやつ」
「それ説明になってない」
悠也は笑った。
「見たいなら後で見ればいい」
「見る!」
即答だった。
店を出る頃には。
沙月はすっかり車を見る気になっていた。
雨はまだ降っている。
駐車場へ向かう。
「あれ」
悠也が指差す。
「おー」
沙月が嬉しそうな声を出した。
「思ったより大きい」
「そうか?」
「うん」
車の周りを見ながら楽しそうにしている。
そして助手席を見た。
「乗っていい?」
「今?」
「うん」
「別にいいけど」
沙月は嬉しそうに乗り込んだ。
「すごーい」
「普通だろ」
「普通じゃない」
内装を見回しながら笑う。
そして。
ふと思い付いたように言った。
「ねえ」
「ん?」
「家まで送って」
悠也は少し眉を上げた。
「いいけど」
「やった」
「でも大丈夫か?」
「何が?」
「男と密室」
沙月はきょとんとした。
「大丈夫だよ?」
「警戒心なさすぎじゃない?」
「そうかな」
「そうだよ」
すると。
沙月は少しだけ笑った。
「だって」
「うん」
「悠也さんだもん」
あまりにも自然な答えだった。
「それ理由になる?」
「なる」
即答だった。
「なんで」
「優しいし」
「うん」
「変なことしないじゃん」
悠也は苦笑した。
「信用されてるな」
「してる」
また即答。
車が走り出す。
雨粒がフロントガラスを流れていく。
大学の話。
麻雀の話。
店長の話。
いつもの話。
他愛もない話ばかりだった。
それなのに不思議と時間が早い。
気付けば家の近くまで来ていた。
「着いた」
「えー」
沙月が少し不満そうな声を出す。
「もう着いたの?」
「結構走ったぞ」
「早かった」
本気でそう思っているようだった。
悠也は少し笑う。
「また乗ればいいさ」
その言葉に。
沙月の顔がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「ほんと」
「約束だからね」
「はいはい」
沙月は満足そうに笑った。
車を降りる直前。
ふと思い出したように言う。
「今度遊び行く時も車?」
「その予定」
「やった」
満面の笑みだった。
「じゃあ楽しみにしてる」
そう言って車を降りる。
雨の中を小走りで帰っていく後ろ姿を見ながら。
悠也は少しだけ笑った。
どうやら次の休日は。
思っていたより賑やかな一日になりそうだった。
――第七話 終わり。
初めまして!
ヘロイズムといいます。
まったく初めての投稿で右も左もわからないまま投稿していますが、少しでも読んでいただければ幸いです。
朝と晩の一日2回投稿予定ですので是非ともよろしくお願いします。




