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終わったら電話して


金曜日。


午後六時。


雀荘『オリオン』。


週末だけあって店内はかなり賑わっていた。


卓はほぼ満卓。


待ち客までいる。


沙月も忙しそうに店内を走り回っていた。


「お待たせしましたー!」


「ありがとうございます!」


「飲み物お願いしまーす!」


看板娘は今日も大人気だった。


悠也はいつもの卓に座っていた。


今日は絶好調というほどではない。


だが。


負ける気もしない。


トップ。


二着。


トップ。


二着。


そんな感じ。


大勝ではないが、いつも通りしっかり勝っている。


「相変わらずだなあ」


常連のおじさんが言う。


「もっと負けろよ」


「無茶言うな」


「少しは俺たちに優しくしろ」


「麻雀で優しさ求めるな」


卓が笑う。


その時。


スマホが震えた。


LINE。


沙月だった。


『疲れた〜』


悠也は少し笑う。


数秒前まで飲み物を運んでいたはずだ。


『仕事しろ』


すぐ既読。


『してるもん』


『今三秒休憩』


絶対嘘だ。


『店長に言うぞ』


『ひどい』


『味方だと思ってたのに』


悠也は苦笑しながらスマホをしまった。


十分後。


またLINEが届く。


『さっきの局かっこよかった』


『見てたの?』


『見てた』


『あれリーチした瞬間分かった』


『本当か?』


『たぶん』


『たぶんか』


『雰囲気』


全く信用できなかった。


午後九時。


本来ならそろそろ帰る時間だ。


沙月もあと一時間で上がり。


いつもの流れなら健でご飯だった。


だが。


今日は少し違った。


「悠也さん」


佐藤店長がやってくる。


「ん?」


「お願いがあるんですけど」


嫌な予感がした。


「何?」


「客の流れ悪くて」


「うん」


「閉店まで打ってもらえません?」


やっぱり。


「二十四時まで?」


「助かります」


佐藤が両手を合わせる。


「分かった」


断る理由もない。


「神!」


「大げさだな」


午後十時。


沙月の上がり時間。


スマホが震える。


『終わった!』


『お疲れ』


『まだ打ってるの?』


『打ってる』


『えー』


続けてメッセージが届く。


『今日は健行けないじゃん』


『店長のせい』


『店長のせいだ』


即同意だった。


『今度文句言っとく』


『やめろ』


そこで卓が始まった。


返信は止まる。


午後十時半。


『暇』


午後十一時。


『まだ終わらない?』


午後十一時半。


『つまんない』


悠也は少し笑う。


『あと少し』


するとすぐ返信が来た。


『終わったら電話して』


『なんで』


『いいから』


『強引だな』


『知ってる』


いつもの返事だった。


午前零時。


閉店。


「助かりました!」


佐藤が深々と頭を下げる。


「お疲れ」


「沙月ちゃん先にあがりましたよ」


「知ってる」


「それでも打ってくれるんですね」


「麻雀しにきてるからね」


「ほんとですか?」


佐藤はニヤニヤしている。


「店長」


「はい」


「その顔やめろ」


「無理です」


帰宅。


シャワーを浴びる。


時計は一時前。


スマホを見る。


少し迷ってから電話をかけた。


一回も呼び出し音が鳴らないうちに繋がる。


『あ、出た!』


嬉しそうな声だった。


「もしもし」


『お疲れさま』


「ありがとう」


『大変だったね』


「まあそんな日もある」


少し沈黙。


そして。


『今日ちょっと寂しかった』


沙月がぽつりと言った。


「そんなに?」


『そんなに』


即答だった。


『いつもならご飯行けるのに』


「ごめんごめん」


『仕方ないのは分かってるけど』


少し拗ねた声。


「今度埋め合わせするよ」


『ほんと?』


「ほんと」


『やった』


すぐ機嫌が直る。


単純だな。


そう思った。


しばらく話した後。


沙月がふと思い出したように言う。


『そういえばさ』


「ん?」


『この前の人』


「この前の人?」


『LINE聞いてきた人』


「ああ」


自然に答えていた。


電話の向こうで少し沈黙。


『覚えてたんだ』


「まあ」


『ふーん』


なんだその反応。


少し嬉しそうだった。


そして。


また少し間が空く。


『そういえばさ』


「うん」


『悠也さんってモテそうだよね』


「急にどうした」


『いや別に』


絶対別にじゃない。


『だから』


「うん」


『彼女いるのかなーって』


悠也は苦笑した。


「いないよ」


『ほんと?』


「ほんと」


『なんで?』


「なんでって」


少し考える。


そして笑った。


「いたら沙月ちゃんと健行かないだろ」


数秒。


沈黙。


そして。


『それはそうか』


どこか安心したような声だった。


すると今度は沙月が言う。


『あたしもいないよ』


「聞いてないぞ」


『一応報告』


「そうですか」


『そうです』


二人とも笑う。


そして。


『そういえば』


「ん?」


『さっき埋め合わせするって言ったよね?』


「言ったな」


『じゃあさ』


少しだけ間が空く。


『今度ご飯じゃなくて遊び行こうよ』


悠也は少し意外だった。


「遊び?」


『うん』


「どこに」


『まだ決めてない』


「決めてないのか」


『これから考える』


相変わらずだった。


悠也は苦笑する。


「いいよ」


すると。


電話の向こうで明らかに声が明るくなった。


『ほんと!?』


「ほんと」


『やった!』


少し大きな声。


そして慌てて小声になる。


『あ、ごめん』


「そんな嬉しいのか」


『だって埋め合わせだもん』


「そうか」


『そう』


少し照れたような声だった。


「じゃあ考えといて」


『任せて』


「ちょっと不安だな」


『失礼だなー』


二人とも笑った。


そこからまたどうでもいい話が続いた。


大学の話。


麻雀の話。


店長の話。


常連の話。


気付けば三十分近く経っていた。


『そろそろ寝る?』


「そうだな」


『また明日LINEする』


「仕事中はやめろよ」


『善処します』


「やらないやつだ」


『バレた』


最後に二人で笑う。


電話が切れる。


静かになった部屋。


今日はご飯へ行けなかった。


だから少し物足りなくなると思っていた。


でも。


電話を切った今は、そんな気分でもなかった。


不思議だな。


そう思いながら悠也は目を閉じた。


そして沙月も。


ベッドの上で小さく笑う。


「彼女いないんだ」


そう呟いた後、もう一つ思う。


「遊び行ける」


その声は少しだけ弾んでいた。


――第六話 終わり。

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