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ただ、君を愛してる

夜の公園。


少し前まで泣いていた沙月と俺は、以前誤解を解いたあのベンチに並んで座っていた。


雨は降っていない。


静かな夜だった。


しばらく沈黙が続く。


先に口を開いたのは俺だった。


「なぁ、さっちゃん」


沙月が顔を向ける。


俺は夜空を見上げたまま話し始めた。


「最初はさ、コロコロ表情が変わる面白い子だなって思ってたんだ」


沙月が小さく笑う。


「失礼だなぁ」


「実際そうだっただろ」


「否定できない」


二人で少し笑った。


「毎日連絡も来るしな」


「うっ」


「正直、少しめんどくさいと思った日もある」


「えぇぇぇ!?」


「最後まで聞け」


「はい……」


しゅんとなる。


その姿に苦笑しながら続ける。


「でもな」


「いつの間にか連絡が来ない方が気になるようになった」


沙月の表情が変わる。


「今日何してるんだろうとか」


「元気かなとか」


「また変なこと言ってるんだろうなとか」


「変なことって何!?」


「自覚ないのか」


「ない!」


即答だった。


思わず笑う。


本当に笑わせてくれる子だ。


「さっちゃんが笑ってるとさ」


「俺まで楽しくなるんだ」


沙月の目が大きくなる。


「でもずっと悩んでた」


「俺と君は年齢も違う」


「今はなんとか生活できてるけど、俺の将来だってどうなるかわからない」


「さっちゃんにはこれからたくさんの可能性がある」


「だから何度も考えた」


「こんな男で本当にいいのかって」


沙月は何も言わず聞いていた。


「合コンの話を聞いた時もそうだった」


「本当は行ってほしくないと思った」


「他の男と笑ってるところなんて見たくなかった」


「隣で笑うなら俺の隣がいいと思った」


「今日も」


「お前から『助けて』って来た瞬間」


「気付いたら走ってた」


静かな夜。


少しだけ息を吐く。


「年齢も」


「将来も」


「全部考えた」


「それでも」


「俺の答えは変わらなかった」


沙月の目から涙がこぼれる。


俺はまっすぐ沙月を見た。


逃げずに。


誤魔化さずに。


「さっちゃん」


「俺は」


「ただ――」


「君を愛してる」


静かな公園にその言葉だけが響いた。


沙月は俯いたまま肩を震わせている。


ぽろぽろと涙が落ちる。


「ずっと……」


声が震える。


「ずっと不安だった……」


俺は黙って聞く。


「好きになったの、あたしだけなのかなって……」


「毎日連絡して迷惑じゃないかなとか……」


「年下すぎるかなとか……」


「りなちゃんのこととか……」


「合コンの時も……」


「もうダメなのかなって思った……」


涙を拭う。


それでも止まらない。


「でも……」


ぐしゃぐしゃの顔で笑った。


「ゆーやさんってずるいよ……」


「最後の最後で全部持っていくんだから……」


思わず苦笑する。


「そうか?」


「そうだよ!」


泣きながら怒る。


その顔があまりにも沙月らしくて。


俺はまた笑ってしまった。


沙月は深呼吸を一つした。


そして。


真っすぐ俺を見る。


「大好きだよ」


「最初はちょっと顔がいい麻雀の強い人だと思ってた」


「ご飯行ってもっと好きになって」


「家に泊まった日はもっともっと好きになって」


「今は……」


もう一度深呼吸。


「世界で一番好き」


胸の奥が少し熱くなる。


そして。


沙月は少し照れながら言った。


「だから……」


「これからも隣にいていい?」


俺は立ち上がった。


「こちらこそよろしく」


◇◇◇


沙月は数秒固まっていた。


本当に?


夢じゃない?


そんな顔だった。


そして。


みるみるうちに涙が溢れる。


「抱きつきたい」


「やめろ」


「彼女なのに?」


「彼女だからだ」


「意味わかんない!」


頬を膨らませる。


本当に忙しい。


泣いたり笑ったり。


怒ったり甘えたり。


少しだけため息をついて。


俺は言った。


「……少しだけだぞ」


「えっ」


「ほんとに!?」


次の瞬間には飛びついていた。


「おい危ない!」


「えへへ……」


幸せそうな声だった。


大型犬か。


そう思った。


数秒後。


肩を軽く押す。


「ほら終わりだ」


「……もう終わり?」


上目遣い。


反則だろそれは。


「外ではしない」


「けち」


「そういうもんだ」


「むぅ」


不満そうな顔。


でも嬉しそうだった。


◇◇◇


「帰るぞ、さっちゃん」


「はーい!」


いつもの返事。


でも少しだけ違う。


今は恋人としての返事だった。


並んで歩き始める。


出会った頃と同じ帰り道。


ふと。


隣を見る。


沙月もこちらを見ていた。


目が合う。


照れたように笑う。


そして。


俺はそっと手を差し出した。


沙月が目を丸くする。


「……いいの?」


「嫌ならやめる」


「嫌なわけないじゃん」


嬉しそうに笑って。


その手を握る。


初めて繋ぐ恋人としての手だった。


温かかった。


少しだけ震えていた。


きっと俺も同じだ。


出会った頃と同じ帰り道。


でも。


あの日とは違う。


今は隣に、大切な人がいる。


俺はその手を少しだけ握り返した。


沙月も握り返してくる。


その温もりが心地よかった。


二人の物語は終わらない。


これからも。


ずっと。


――Fin.

こんにちは、ヘロイズムです。

二人の物語はまだまだ続きますがこの物語は一区切りとなります!

初めての作品で至らない箇所も多かったと思いますが読んでいただきありがとうございました!

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