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助けて

大学の学食。


昼休みの賑やかな時間だった。


「で、どうなの?」


向かいに座る友達がニヤニヤしながら聞いてくる。


「何が?」


「悠也さん!」


沙月は思わず飲み物を吹きそうになった。


「急に名前出さないでよ!」


「だって気になるじゃん。最近ずっとその人の話ばっかりだし」


「そんなことないもん」


「ある」


即答だった。


周りの友達もうんうんとうなずいている。


「で?付き合ったの?」


「まだ」


「えぇぇぇ!?」


大合唱だった。


沙月は肩をすくめる。


「でもいい感じなんだよ?」


「いい感じで何ヶ月経ってるの?」


「うっ」


痛いところを突かれた。


「だから一回合コンでも行ってみなよ」


「行かない」


即答だった。


「好きな人いるし」


「だからこそだよ」


「は?」


「本当に好きなのか確認できるじゃん」


「確認する必要ないもん」


「予約済み」


「えぇぇぇ!?」


こうして沙月の意思とは無関係に合コン参加が決定したのだった。


――――――――


その日の夜。


健。


「合コン行かなきゃならなくなった!」


席に着くなり沙月が叫んだ。


「なんで俺に言うんだ?」


悠也は冷静だった。


「悠也さんはあたしが合コン行ってもいいの!?」


「俺には行くなって言う権利はないからな」


沙月の表情が固まる。


「へぇ」


嫌な予感がした。


「そうなんだ」


かなり嫌な予感がした。


「別にどうでもいいんだ」


非常に嫌な予感がした。


「沙月ちゃん」


「何?」


「怒ってる?」


「怒ってないよ❤️」


怒っている。


めちゃくちゃ怒っている。


「もう知らない!」


沙月は立ち上がった。


「今日は帰る!」


店を出ていく。


静かになる店内。


健がため息をついた。


「怒らせたな」


「そうみたいだな」


「行くなって言ってほしかったんだろ」


「でもなぁ」


悠也は苦笑する。


「俺にそんな権利ないだろ」


健は焼酎を口に運ぶ。


「じゃあ聞くけど」


「何だ?」


「合コン行くって聞いて何も思わなかったか?」


悠也は答えなかった。


――――――――


金曜日。


夕方。


スマホが震えた。


沙月からだった。


『合コン行ってきますo(`ω´ )o』


『止めるなら今だよo(`ω´ )o』


悠也は画面を見る。


数秒考えた。


そして。


『楽しんでこい』


送信。


すぐに既読が付く。


返信は来なかった。


――――――――


合コン会場。


盛り上がる友達たち。


男たち。


笑い声。


酒。


沙月も会話には参加していた。


だが。


全然楽しくない。


笑っていても。


話していても。


頭の中にいるのは一人だけだった。


(悠也さんに会いたいな……)


そんな中。


一人の男がやたらと距離を詰めてくる。


「沙月ちゃん可愛いね」


「ありがとう」


「今度二人で遊ぼうよ」


「ごめん、好きな人いるから」


「付き合ってるの?」


「まだ」


「じゃあ問題ないじゃん」


問題大ありだった。


何度断っても食い下がってくる。


そして。


解散後。


男が当然のように言った。


「じゃあ二人で飲み直そう」


「行かない」


「なんで?」


「好きな人いるから」


「付き合ってないんでしょ?」


「それでも嫌」


男は笑った。


「大丈夫だって」


そして腕を掴んだ。


ぞわり。


背筋が冷える。


怖い。


悠也とは全然違う。


沙月は震える指でスマホを開いた。


そして。


場所を送信する。


続けて送る。


『助けて』


――――――――


その頃。


健。


スマホが震えた。


悠也は画面を見る。


『助けて』


そして位置情報。


その瞬間だった。


椅子から立ち上がる。


「おい」


健が笑う。


「行くのか」


「ああ」


「会計は?」


「あとで払う」


「ツケかよ」


悠也は苦笑した。


「悪い」


健は頷く。


「行ってこい」


そして。


少しだけ笑った。


「後悔するなよ」


悠也は何も言わず店を飛び出した。


――――――――


駅前。


沙月は腕を掴まれたままだった。


「だから少しだけでいいって」


「嫌です」


「そんな警戒しなくても」


「してません」


している。


明らかにしている。


その時だった。


「沙月!」


聞き慣れた声。


一番聞きたかった声。


沙月が振り返る。


そこには。


息を切らした悠也が立っていた。


「悠也さん……!」


男が怪訝そうに見る。


「誰ですか?」


悠也は男を見る。


「知り合いです」


「彼氏ですか?」


「違う」


沙月の胸が少しだけ痛む。


だが。


悠也は続けた。


「でも」


一歩前へ出る。


「その子は俺にとって大事な子なんです」


男の表情が変わる。


「大事な子?」


「嫌がってるでしょう」


静かな声だった。


だが。


妙な迫力があった。


数秒の沈黙。


やがて男は手を離した。


「……わかりました」


そのまま去っていく。


――――――――


男の姿が見えなくなった瞬間。


沙月は反射的に悠也の後ろへ隠れた。


「悠也さん……」


「大丈夫か?」


「怖かった……」


悠也は優しく頭を撫でた。


「もう大丈夫だ」


その一言だけで泣きそうになる。


「でも何でここに……?」


悠也は少し困ったように笑う。


「助けてって来たからな」


「うん」


「放っておけるわけないだろ」


胸がいっぱいになる。


―――


少しだけ沈黙。


夜風が吹く。


沙月は無意識に悠也の服の裾を掴んでいた。


離したくなかった。


悠也は何も言わない。


振り払うこともしない。


ただ。


隣に立っていてくれた。


「沙月ちゃん」


「なに?」


「少し話する時間くれないか」


何かが変わる。


そんな予感がした。


「……うん」


二人はゆっくり歩き始める。


沙月の手は。


まだ悠也の服の裾を掴んだままだった。


――――――――


第32話 終

こんにちは、ヘロイズムです。

次回で最終回となります!

拙作を読んでいただきありがとうございます。

最後まで楽しんでもらえたらと思いますので

よろしくお願いします。

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