独占する権利
居酒屋「健」。
誤解も解け。
沙月ちゃんも元気を取り戻し。
いつもの賑やかな日常が戻ってきていた。
いや――
むしろ前より元気になっている気がする。
「さっちゃんを二日間独占する権利をあげます!」
開口一番だった。
「いや、別に……」
「裕也さんはさっちゃんがいないと寂しくて心にくるもんね〜❤️」
まだ言うのか、それ。
「根に持つタイプだったんだな」
「違うよ〜。嬉しかったから何回も言いたくなるだけ❤️」
悪びれもなく笑う。
こいつ、本当に調子がいい。
いや。
元気になってくれたならそれでいいんだけど。
「それでね、それでね!」
沙月ちゃんは身を乗り出してくる。
「来週の火曜日と水曜日ね、授業が休講になったの!しかもバイトも入ってないの!」
「へぇ」
「つまり!」
バンッ!
テーブルを叩く。
「二日間ずっと遊べます!!」
周囲の客が少しだけこちらを見る。
恥ずかしいからやめてほしい。
「だからね!」
「うん」
「お泊まりもさせてほしい!」
「前回は災害だったから仕方なくだぞ」
「今回は自主的です❤️」
「言い方がおかしい」
沙月ちゃんはケラケラ笑う。
本当に楽しそうだ。
「俺、平日の午前中は仕事してるんだけど」
「可愛いさっちゃんのためにたまには休んでよ〜❤️」
「ずいぶん偉くなったな」
「でしょ!」
胸を張るな。
そこでカウンターの向こうから健二が苦笑した。
「沙月ちゃん、それお願いじゃなくて命令だろ」
「違いますー!」
「これは愛情表現です!」
「余計たち悪いな」
健二が呆れる。
俺も同意見だ。
だが――。
こんな強引さも悪くないと思っている自分がいた。
「いいぞ」
「え?」
一瞬。
沙月ちゃんが固まる。
「この前みたいに勝手に落ち込まれても困るしな」
そう言うと。
さらに固まった。
「やったぁぁぁぁ!!」
店中に響くような声。
「うるさい」
「裕也さん大好き❤️」
「はいはい」
すると健二が酒を置きながら笑った。
「お前もう告白されてるようなもんだろ」
「されてない」
即答だった。
「してるようなもんだよ❤️」
沙月ちゃんも即答だった。
「本人の認識が軽すぎる」
健二が呆れる。
俺も同意見だった。
「じゃあ火曜日は前と違う遊園地!」
「ほう」
「夜は二郎系ラーメン!」
「誕生日の鉄板焼きとの落差がすごいな」
「それで裕也さんの家でスマブラ!」
「聞いてない」
「次の日はお昼までゆっくりしてショッピングモール!」
「聞いてない」
「裕也さんの服を選ぶの!」
「聞いてない」
「あとあたしの服も選んでほしい!」
「聞いてない」
「あとねあとね――」
止まらない。
全く止まらない。
健二が笑った。
「お前、もう全部決まってたんだな」
「もちろん!」
「裕也さんが断るなんて考えてなかったもん!」
「すごい自信だな」
「だって優しいもん❤️」
まっすぐな笑顔。
そんな顔で言われると弱い。
「体力持つかな……」
思わず本音が漏れる。
「大丈夫!」
沙月ちゃんは即答した。
「疲れたら手つないであげるから❤️」
「それで回復するのか?」
「するでしょ?」
「しないだろ」
「じゃあ腕組む?」
「もっとしない」
「じゃあ肩貸す!」
「俺の方が背高いだろ」
「じゃあ頑張れ❤️」
「結局精神論かよ」
健二が吹き出した。
「裕也、お前最近よく笑うようになったな」
「そうか?」
「そうだよ」
健二はニヤニヤしている。
沙月ちゃんもニヤニヤしている。
なんだその連携は。
「ほらほら!」
沙月ちゃんがスマホを取り出す。
「あと十二日!」
「何が」
「お出かけまで❤️」
「まだそんなにあるのか」
「毎日カウントダウンするから!」
「やめろ」
「無理です❤️」
――――――――――
店の中に明るい笑い声が響く。
やれやれ。
騒がしくて。
強引で。
よくわからないことばかり言う。
でも――。
少し前までなら。
二日も付き合うなんて面倒だと思ったはずだ。
なのに。
今は違う。
何をするのか。
どこへ行くのか。
少しだけ楽しみにしている自分がいる。
その事実に気付いて。
俺は小さく苦笑した。
隣では沙月ちゃんが相変わらず騒いでいる。
その声を聞きながら。
悪くないな、と。
そんなことを思うのだった。
⸻
――第31話 終わり
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