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見たくないもの(Side沙月)

家に着く。


玄関のドアを閉めた瞬間。


張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。


靴を脱ぐ。


鞄を置く。


そのままベッドへ倒れ込んだ。



テスト期間というものは本当に嫌いだ。


朝から大学。


家に帰ればレポート。


勉強。


勉強。


勉強。


スマホを見る。


返信は来ている。



『頑張れ』


『無理』


『頑張れ』


『無理』


『頑張れ』


『鬼か』



そんなやり取りをしているだけで少し元気になるのだから単純だと思う。


でも。


会えない。


それが嫌だった。


だから。


今日も本当なら。


参考書を買った帰りに。


『勉強終わったー❤️』


とか。


『褒めて❤️』


とか。


いつもみたいに送るつもりだった。


でも。


送れなかった。


思い出してしまう。


ショッピングモールで見た後ろ姿。


悠也さん。


そして。


その隣を歩くりなちゃん。


楽しそうだった。


少なくとも。


あたしにはそう見えた。


二人は並んで歩いていた。


自然に。


当たり前みたいに。


そして。


健へ入っていった。


「……」


胸の奥が痛い。


別にいい。


悠也さんは誰とご飯を食べようが自由だ。


あたしの彼氏じゃない。


付き合ってもいない。


だから。


本当は何も気にする必要なんてない。


なのに。


気になる。


健は。


あたしにとって特別な場所だった。


最初に助けてもらった日。


何度もご飯を食べた場所。


たくさん笑った場所。


その場所へ。


りなちゃんと行った。


たったそれだけ。


本当にそれだけなのに。


心がざわざわする。


りなちゃんは綺麗だ。


落ち着いている。


空気も読める。


優しい。


悠也さんとも自然に話せる。


あたしみたいに騒がない。


子供っぽくない。


年齢だって近い。


「……やだ」


小さく呟く。


こんなこと考えたくない。


スマホを開く。


トーク画面。


一番上には悠也さん。


『勉強終わったー❤️』


入力する。


でも。


送れない。


今。


何してるんだろう。


そんなこと考えてしまう。


もし。


健にいるよ。


りなちゃんと。


そう返ってきたら。


笑える自信がなかった。


結局。


全部消した。


スマホを閉じる。


しばらくして。


震えた。


悠也さんだった。



『勉強どうだ?』



いつもなら秒で返す。


今日は返せない。


『ちゃんと飯食えよ』


また通知。


胸が苦しい。


既読も付けられない。


スマホを伏せる。


しばらくして。


また震えた。


『珍しいな』


『寝たか?』


ごめん。


本当は返したい。


声も聞きたい。


会いたい。


でも。


今は無理だった。


顔を見たら。


きっと泣いてしまう。


ベッドに転がる。


枕を抱きしめる。


自分でもわかる。


嫉妬だ。


そんな資格もないのに。


「……ばか」


誰に向けた言葉なのか。


自分でもわからなかった。



その頃。


――悠也視点


自宅。


スマホを見る。


既読が付かない。


珍しい。


テストで忙しいのか。


体調でも悪いのか。


少しだけ気になった。


いつもなら。


うるさいくらい返事が来る。


『寝たか?』


を送っても反応はない。


「本当に寝たのか?」


小さく呟く。


なんとなく落ち着かない。


だが。


理由はわからない。


悠也はまだ知らない。


沙月から返信が来ない理由を。



――第二十九話 終わり

こんにちは、ヘロイズムです。

読んでいただきありがとうございます!

もし少しでも楽しんでいただけたならブックマーク、評価いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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