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知らないところで

十一月に入った。


沙月ちゃんはテスト期間らしく、最近はオリオンにもほとんど顔を出していない。


家に遊びに来ることも減った。


……とはいえ。


『勉強やだー』


『褒めて』


『自撮り送るから褒めて』


『今なにしてる?』


連絡だけは相変わらずだった。


むしろ増えている気もする。


今日は特に予定もない。


買い物でもするかと街を歩いていると、聞き覚えのある声がした。


「あれ? 悠也さん?」


振り返るとりなちゃんだった。


「お、りなちゃん」


「珍しいですね。オリオン以外で会うなんて」


「そっちこそ」


「弟の誕生日プレゼント探してたんです」


そう言いながら困ったように笑う。


「もし時間あったら一緒に選んでもらえません?」


「俺でいいの?」


「男の人の意見聞きたくて」


断る理由もなかった。


二人でショッピングモールを歩く。


大学生の弟らしく、財布だのイヤホンだのを見て回った。


結局プレゼントはシンプルなカードケースに決まった。


「ありがとうございました!」


りなちゃんが満足そうに笑う。


「俺は何もしてないけどな」


「そんなことないですよ」


少し間を置いて。


「よかったらご飯どうです?」


と言った。


「お礼です」


「じゃあお言葉に甘えようかな」


案内された店を見て思わず足が止まった。


「ここって……」


暖簾には見慣れた文字。


健。


「知ってるんですか?」


りなちゃんが笑う。


「まぁね」


絶対わかってて言ってるだろ。


そんなことを思いながら暖簾をくぐった。



「いらっしゃ――」


健二が顔を上げる。


「……また変な組み合わせだな」


「まったくだ」


カウンターへ座る。


料理が運ばれてきた頃。


りなちゃんが突然切り込んできた。


「単刀直入に聞きます」


嫌な予感しかしない。


「悠也さんって沙月ちゃんのことどう思ってるんです?」


やっぱりか。


「急だな」


「急じゃないです」


りなちゃんは真顔だった。


「わたし、あの子好きなんですよ」


「知ってる」


「だから傷ついてほしくないんです」


箸を置く。


簡単に答えられる質問じゃなかった。


可愛いと思う。


一緒にいて楽しい。


会えないと少し寂しい。


連絡が来ると嬉しい。


でも。


「妹みたいとは思ってないな」


それだけは迷わず言えた。


りなちゃんが少しだけ表情を緩める。


「じゃあ恋愛対象?」


今度は答えに詰まった。


沈黙。


「……わからない」


正直な気持ちだった。


「年齢差もあるしな」


「そんなに離れてないじゃないですか」


「当人は気になるんだよ」


りなちゃんはしばらく黙っていた。


そして小さく笑う。


「なるほど」


「?」


「逃げてるだけじゃなさそうなので、今日は許します」


「なんだそれ」


「でも」


りなちゃんは真っ直ぐこちらを見る。


「沙月ちゃん、本気ですよ」


その言葉だけは妙に重かった。



食事を終えたりなちゃんは先に帰っていった。


店内には俺と健二だけが残る。


「お前の周り、おせっかいばっかりだな」


「お前もその一人だろ」


「否定はしない」


健二は笑った。


そしてビールを飲みながら続ける。


「りなちゃんまで巻き込んだか」


「俺は巻き込んでない」


「向こうから来たんだろうけどな」


健二は肩をすくめる。


「まぁ、それだけみんな気にしてるってことだ」


「余計なお世話だな」


「そうか?」


珍しく真面目な声だった。


「そろそろ向き合う時期なんじゃないか?」


答えは返さなかった。


返せなかった。



店を出る。


夜風が少し冷たい。


スマホを見る。


いつもなら何十件も来ている沙月ちゃんからの連絡が今日は一件もなかった。


勉強で忙しいだけだろう。


そう思いながら歩き出す。



――少し前。


ショッピングモール。


沙月視点


参考書を買い終えた帰りだった。


ふと視線の先に見覚えのある後ろ姿が見えた。


「あれ?」


立ち止まる。


間違えるはずがない。


悠也さんだった。


その隣には。


背の高い女性。


「……」


楽しそうに話しながら歩いている。


一瞬。


頭が真っ白になった。


「りな……ちゃん?」


なんで。


どうして二人で?


胸の奥がちくりと痛む。


二人は並んで歩いている。


自然に。


楽しそうに。


それが妙に苦しかった。


自分でも理由は分かっている。


分かっているけど認めたくなかった。


「……」


足が止まる。


声をかけようかと思った。


でもできなかった。


二人はそのまま歩いていく。


そして――


健の方向へ消えていった。



沙月は知らない。


その夜。


自分が初めて味わう感情に振り回されることになるなんて。



――第二十八話 終わり。

こんにちは、ヘロイズムです。

読んでいただきありがとうございます!

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