みんな気づいてる
ある平日の夕方。
雀荘オリオンの自動ドアを開くと、いつも聞こえるはずの元気な声が聞こえなかった。
代わりに聞こえてきたのは――
「悠也さんいらっしゃいませ〜!」
佐藤店長だった。
「店長か」
「なんですかそのガッカリした顔!」
「いや、別に」
「今ちょっと間がありましたよね!?」
店内を見回す。
「あれ? 今日女の子誰もいないの?」
「そうなんですよ〜」
佐藤店長は大げさに肩を落とした。
「今日は女子会らしくてですね。女の子全員休みです」
「全員?」
「全員です」
「じゃあ今日は野郎雀荘か」
「悲しい言い方しないでくださいよ!」
「全然魅力ない雀荘だね」
「僕に魅力感じてくださいよ!」
「無理だな」
「即答!?」
⸻
そういえば。
昨日の夜、沙月がLINEでそんなことを言っていた気がする。
【明日ねー!女子会なんだー✨】
【いいな】
【でしょー!】
【楽しんでこい】
【浮気しないでね?o(`ω´ )o】
【何に対してだよ】
【オリオンの女の子に!】
【他にもいるの?】
【いるよ!】
⸻
「女の子って何人いるんだっけ?」
悠也が聞く。
「今は四人ですね」
「沙月ちゃんとりなちゃんしか知らない」
「ひどい!」
店長が頭を抱えた。
「残り二人もいるんですよ!?」
「そうだったのか」
「悠也さんは可愛い子しか見てないですもんね」
「失礼な」
「特に沙月ちゃん限定で」
「もっと失礼だな」
「はいはい。卓の準備できたんでどうぞ」
⸻
まぁ今日は沙月もいない。
飯もない。
家にも来ない。
のんびり麻雀でも打つか。
そう思いながら卓へ向かった。
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最近は少し不思議だった。
台風の日以来。
沙月は時々家に遊びに来るようになった。
本当に時々だ。
泊まるわけではない。
ただ――
なぜか家に可愛いクッションが増えた。
謎のうさぎのぬいぐるみが増えた。
冷蔵庫にプリンが入っていた。
全部犯人はわかっている。
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【寂しかったらうさちゃん抱いて寝てね❤️】
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抱くか。
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一方その頃。
女子会会場。
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「かんぱーい!」
グラスがぶつかる。
沙月も楽しそうにジョッキを掲げた。
「何気にみんなでご飯行くの初めてだよね」
弥生が言う。
「だね〜」
ゆかも頷く。
「店長が全員休みなかなか認めてくれないし」
「わかるー!」
盛り上がる女子たち。
店長の愚痴。
常連客の話。
大学の話。
恋愛の話。
話題は尽きなかった。
⸻
やがて二人が帰り。
残ったのは沙月とりなだけ。
りなが笑った。
「沙月ちゃん、もう一軒行かない?」
「行きます!」
即答だった。
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十分後。
二人がやってきたのは居酒屋『健』。
暖簾をくぐる。
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「いらっしゃいませー」
健二が顔を上げる。
「あれ、沙月ちゃん」
「こんばんはー!」
「珍しいね?」
「そう! バイトの先輩連れてきた!」
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りなが店内を見回す。
落ち着いた雰囲気。
居心地が良い。
「いい店だね」
「でしょ!」
沙月が自慢げに胸を張る。
「沙月ちゃん、このお店よく来るんだね」
その一言に。
沙月の肩がぴくっと動いた。
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「え?」
「お気に入りのお店なんだ?」
「う、うん!」
「へぇ〜」
「ご飯おいしいし!」
「うん」
「雰囲気もいいし!」
「うん」
「だから来てるだけ!」
「そうなんだ〜」
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りなはニコニコしている。
健二はカウンターの奥で笑いを堪えている。
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その時。
健二が皿を置いた。
「はい、ポテトサラダ」
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沙月が目を丸くする。
「え?」
「今日は新しい客を連れてきてくれたご褒美だ」
「そんなの初めて聞いた!」
「今日から始まった」
「適当!」
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健二は小さく笑った。
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りなはポテトサラダを食べながら頷く。
「おいしい」
「でしょ!」
「でも私、沙月ちゃんと恋バナしたかったんだよね」
「ぶっ」
沙月がむせた。
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「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない!」
「なんで?」
「急だから!」
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りなは楽しそうだった。
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「だって気になるじゃない」
「何が?」
「沙月ちゃん」
「うん」
「好きな人いるでしょ?」
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固まった。
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「い、いないよ?」
「いる」
「いない」
「いる」
「いない!」
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りなは笑う。
⸻
「だってさ」
「うん」
「好きな人を見る顔してるもん」
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心臓が止まりそうになった。
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「え?」
「バレてないと思ってた?」
「え?」
「結構バレてるよ?」
「えええええ!?」
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店内に悲鳴が響く。
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「店長は気付いてないと思うけどね」
りなが笑う。
「でも私はわかる」
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沙月は観念した。
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「……好き」
「うん」
「すごく好き」
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りなの笑顔が優しくなる。
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「そうだと思った」
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少しだけ。
胸のつかえが取れた気がした。
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「でもなかなか振り向いてくれないんです」
「うん」
「子ども扱いされてる気がして」
「うん」
「全然進展しないし」
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りなはグラスを置いた。
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「大丈夫」
「え?」
「ちゃんと見てると思うよ」
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沙月は少しだけ顔を上げた。
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「応援してる」
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その言葉が嬉しかった。
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やがて店を出る時間になる。
りなが会計を済ませるため席を立つ。
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「全部知ってて聞いてたな」
健二が笑う。
「職業病みたいなものかな」
りなも笑った。
「でも助かるよ」
「何が?」
「アイツら、進みそうで進まないからな」
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りなは少し考えた後。
ふっと笑った。
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「確かに」
「だろ?」
「面白い二人だね」
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「また来てもいいですか?」
「もちろん」
「今度は一人で来ます」
「歓迎する」
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そんなやり取りをしている間に。
外では沙月がスマホを取り出していた。
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【悠也さん大好きだよ〜❤️】
【今日ずっと悠也さんの話してた❤️】
送信。
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数秒後。
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【またネジ飛ばしてるな】
【ちゃんと帰れよ】
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即返信だった。
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「もう!」
沙月は笑う。
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それでも。
返信が来るだけで嬉しかった。
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足取り軽く夜道を歩く。
その表情は、恋をしている女の子そのものだった。
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一方その頃。
メッセージを見た悠也は。
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「……いつものことだが」
頭を抱える。
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「本当に何なんだ、あの子は」
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そう呟きながら。
少しだけ口元が緩んでいた。
⸻
第二十七話 終わり
こんにちは、ヘロイズムです。
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