恋をしている証拠(Side 沙月)
――二日前
「最悪~……」
ホームのベンチに座りながら空を見上げる。
雨。
雨。
雨。
とにかく雨。
今日は大学の友達とご飯だった。
もっと早く帰ればよかったのに。
気付けばこんな時間になっていた。
原因はわかっている。
⸻
「だってさ~!」
あたしは友達に力説していたのだ。
悠也さんがどれだけ優しいか。
悠也さんがどれだけ面白いか。
悠也さんがどれだけかっこいいか。
悠也さんがどれだけ――好きか。
最後の部分は言ってない。
言ってないけど。
たぶんバレてたと思う。
だって。
気付けばずっと悠也さんの話ばっかりしていたから。
その結果がこれだ。
電車運休。
完全に自業自得である。
「うぅ……」
スマホを見る。
もちろん連絡する相手は一人。
【電車止まりそう】
送信。
数秒後。
返信。
【迎えに行くから待ってろ】
「……」
あたしは思わず顔を覆った。
なんなのこの人。
優しすぎない?
⸻
しばらくして。
見慣れた黒いワンボックスが見えた。
「ゆーやさーん!」
思わず手を振る。
車に乗り込んだ瞬間。
さっきまでの憂鬱が全部吹き飛んだ。
「ありがとう!」
「気にするな」
「気にするよ!」
「そうか」
相変わらずである。
でも。
そんなところも好きだ。
⸻
家まで送ってもらえる。
そう思っていた。
その時だった。
道路冠水。
通行止め。
スマホに流れるニュース。
「あ……」
「マジか……」
悠也さんも珍しく困った顔をしていた。
少し沈黙。
そして。
「仕方ないな」
そう言って。
あたしを見る。
「うち来るか?」
「行く!!」
即答だった。
我ながら早かったと思う。
でも仕方ない。
好きな人の家だ。
行きたいに決まっている。
⸻
お母さんには連絡した。
【友達の家泊まるね】
送信。
数秒後。
【気を付けなさい】
返信。
友達。
友達かぁ。
画面を見ながら少しだけ寂しくなる。
恋人じゃない。
まだ。
友達。
でも。
嘘ではない。
きっと。
たぶん。
……たぶん。
⸻
途中で24時間営業の量販店へ寄った。
「必要な物買ってこい」
「お金払うよ?」
「いいよ」
「でも……」
「今日めちゃくちゃ勝ったからな」
そう言って笑う。
本当に格好いい。
だからつい。
「体で返すね❤️」
なんて言ってしまう。
もちろん冗談だ。
……半分くらい。
「馬鹿なこと言ってないで行け」
頭を軽くこつかれた。
「DVだ~!」
「早く行け」
笑いながら店内へ向かう。
⸻
歯ブラシ。
化粧水。
シャンプー。
コンタクト用品。
ヘアゴム。
その他いろいろ。
気付けばカゴはいっぱいだった。
別に深い意味はない。
本当にない。
……たぶん。
きっと。
次も使えるなとか思ってない。
たぶん。
⸻
車へ戻る。
さっきまで浮かれていたのに。
急に静かになってしまった。
好きな人の家。
男の人の家。
人生初。
それを意識した途端。
心臓がうるさくなった。
「どうした?」
「え?」
「静かだから」
鋭い。
「いや……」
少し迷って。
正直に言う。
「今さら緊張してきた」
「今さらだな」
笑われた。
「だって!」
「俺なんかより雷の方が危険だったろ」
「それはそうだけど!」
「健二のいない健だと思っとけ」
「……」
思わず笑った。
そう言われると。
少し安心する。
本当にずるい。
この人はいつも。
自然に緊張をほどいてくれる。
⸻
そして。
到着。
マンションを見上げる。
「……」
「どうした?」
「いいマンションすぎない?」
思わず口が開いた。
でかい。
本当にでかい。
中に入る。
もっと驚いた。
広いリビング。
大きなソファ。
綺麗なキッチン。
寝室。
仕事部屋。
仕事部屋は覗いてない。
でも。
ふと思った。
ここで毎日暮らしてるんだ。
朝起きて。
投資をして。
筋トレして。
麻雀に行って。
夜は本を読む。
そんな生活をしてるんだ。
なんだか少しだけ。
嬉しかった。
あたしの知らない悠也さんを見つけた気がしたから。
⸻
お風呂へ入る。
「広いなぁ……」
浴槽で一人つぶやく。
「二人で入れるなぁ……」
言った瞬間。
顔が熱くなる。
無理無理無理。
絶対無理。
死ぬ。
⸻
風呂上がり。
すっぴん。
悠也さんのTシャツ。
なんだろう。
これ。
彼シャツってやつ?
いや違う。
違うけど。
違わない気もする。
「ほぼ普段と変わらないな」
とか言われた。
もっと何かないの?
可愛いとか。
綺麗とか。
少しくらい言ってもいいじゃん!
⸻
そして。
悠也さんがお風呂へ。
一人になったリビングでソファに座る。
ふと周りを見渡す。
本棚。
筋トレ器具。
整頓された部屋。
どこを見ても悠也さんらしい。
無駄な物がない。
派手な物もない。
なのに不思議と落ち着く。
「……」
たぶん。
あたしはもう知っている。
優しいところも。
不器用なところも。
照れ屋なところも。
たくさん知っている。
でも。
まだ知らないこともたくさんある。
もっと知りたい。
もっと一緒にいたい。
もっと近くにいたい。
そんなことばかり考えてしまう。
⸻
「何してるんだ?」
後ろから声。
振り返る。
風呂上がりの悠也さんだった。
「あっ」
「寝ないのか?」
「まだ眠くない」
「そうか」
悠也さんは呆れたように笑う。
その顔を見るだけで。
胸が少しだけ温かくなる。
ああ。
やっぱり好きだな。
そう思った。
⸻
――第二十五話 終わり。
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