初めての場所
ペンギンが特徴の24時間営業の量販店へ。
深夜。
外は土砂降り。
こんな時間でも営業している。
この店は従業員のことを考えているのだろうか。
……まぁ。
今日の俺たちにとってはありがたい。
我が家には当然、
女性が泊まるために必要な物など何もない。
だから買い出しに来たのだ。
「金額は気にしなくていいから必要なものは買えよ」
カートを押しながら言う。
沙月ちゃんは少し申し訳なさそうな顔をした。
「家に行くだけでもありがたいのに、なんかごめんね」
「いいさ」
俺は笑う。
「今日オリオンでめちゃくちゃ勝ったからな」
沙月ちゃんの目が輝く。
「すごい!」
そして。
悪戯っぽい笑顔。
「じゃあ常連さんからの贈り物ってことで受け取ろうかな♪」
「好きにしろ」
「悠也さんにはいっぱい甘えることでお礼するね❤️」
「はいはい」
「どんなコスプレグッズ買おうかな❤️」
ゴツン。
軽く頭を小突く。
「馬鹿なこと言ってないで買い物してこい」
「あー!」
沙月ちゃんが頭を押さえる。
「DVだ〜!」
「違う」
「家庭内暴力だ〜!」
「まだ家庭じゃない」
「そこ否定するんだ!」
店内でケラケラ笑いながら走っていく。
本当に元気だな。
⸻
十分後。
戻ってきた沙月ちゃんのカゴを見て俺は固まった。
「……」
「えへへ」
「何買ったんだ?」
「秘密♪」
怪しい。
非常に怪しい。
「コスプレか?」
「違うよ!」
「本当か?」
「女の子には秘密があるの」
さらに怪しい。
しかも。
沙月ちゃんはレジへ向かう途中も、絶対にカゴの中を見せようとしなかった。
結局そのまま会計へ。
レジを通しながら思う。
女性って大変なんだな。
見たこともない商品が大量に並んでいた。
⸻
買い物を終える頃には。
袋がいくつにも増えていた。
「何をこんなに買ったんだ?」
「だから女の子はいろいろ必要なの!」
「はいはい」
俺は荷物を持つ。
「じゃあ帰るぞ」
「はーい」
⸻
車を走らせる。
雨は相変わらず激しい。
ワイパーが忙しく動いていた。
最初は元気だった沙月ちゃんも。
だんだん静かになっていく。
珍しい。
横を見る。
窓の外を眺めている。
「どうした?」
「え?」
「寒いか?」
「大丈夫」
「疲れたか?」
「それも大丈夫」
少し沈黙。
そして。
沙月ちゃんが小さく笑った。
「なんかさ」
「うん」
「冷静に考えたら」
窓に映る自分を見つめながら続ける。
「男の人の家に行くって凄いことしてる気がしてきた」
「今更だな」
「だよね」
少し照れたように笑う。
「勢いで行く!って言ったけどさ」
「うん」
「今になって緊張してきた」
それはそうだろう。
二十一歳の女の子だ。
普通の感覚だと思う。
そして。
沙月ちゃんは少しだけ声を小さくした。
「友達に言ったら絶対怒られる気がする」
「言うなよ」
「言わないよ」
「なら大丈夫だ」
すると。
沙月ちゃんは少しだけ安心したように笑った。
俺は少し考えてから言った。
「健二のいない健だと思えばいいんじゃないか?」
「……え?」
沙月ちゃんがこっちを見る。
「飯食って話して」
「うん」
「だらだら過ごして」
「うん」
「いつもと変わらないだろ」
数秒。
ぽかんとしていた。
そして。
ぱっと笑顔になる。
「あ!」
「?」
「わかった!」
「何が」
「リラックスして過ごすね!」
「そうしてくれ」
沙月ちゃんは嬉しそうに頷いた。
そして心の中で思う。
――この人は本当に不思議だ。
さっきまで緊張していたのに。
今はもうほとんど消えている。
いつもそうだ。
不安になっても。
落ち込んでも。
焦っても。
この人と話していると気持ちが軽くなる。
だから。
会いたくなるんだろうな。
⸻
しばらくして。
車が地下駐車場へ入る。
「着いたぞ」
「おお〜」
車を降りる。
エレベーターへ向かう。
そして。
建物全体を見上げた沙月ちゃんが固まった。
「……」
「どうした」
「いや」
「うん」
「いいマンションすぎない?」
思わず笑った。
「普通だよ」
「普通じゃない!」
即答だった。
「めちゃくちゃ綺麗なんだけど!」
「そうか?」
「そうだよ!」
沙月ちゃんは周囲を見回している。
オートロック。
広いエントランス。
ホテルみたいなロビー。
確かに。
大学生から見れば驚くかもしれない。
「投資家怖い……」
「怖くない」
「お金持ち怖い……」
「お金持ちでもない」
「絶対嘘!」
元気に騒ぎながらエレベーターへ乗り込む。
その姿を見て。
少し安心した。
さっきまでの緊張はどこかへ消えたらしい。
そして俺は思う。
問題はここからだ。
この子はまだ知らない。
俺の部屋が、
男一人暮らしとは思えないくらい生活感がないことを。
そして。
筋トレ器具と本とモニターだらけだということを。
だが。
こんな部屋に招いていいんだろうか‥?
――第二十二話 終わり。
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