帰れない夜
今日は沙月ちゃんが休みだった。
友達とご飯に行くらしい。
昨日の夜からずっとLINEが来ていた。
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【明日友達とご飯行ってくる!】
【オリオンで浮気しないでねo(`ω´ )o】
【りなちゃんと仲良くしすぎたら許さないo(`ω´ )o】
【ていうか悠也さんも来たらいいのに!】
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相変わらずである。
ここ最近は毎日のように顔を合わせていたせいか。
休みだと少し静かに感じた。
俺は苦笑しながらオリオンへ向かった。
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「いらっしゃいませ!」
出迎えたのはりなちゃんだった。
今日は沙月ちゃんがいない。
それだけで店の雰囲気が少し静かに感じる。
「今日は沙月ちゃんお休みですね」
「友達とご飯らしいよ」
「聞いてます」
りなちゃんが笑う。
「沙月ちゃん、悠也さんの話ばっかりですから」
嫌な予感がした。
「どんな話?」
「悠也さん今日来るかな〜とか」
「うん」
「悠也さんまた勝つかな〜とか」
「うん」
「悠也さん何してるかな〜とか」
「うん」
「悠也さん悠也さん悠也さんです」
俺は頭を抱えた。
「迷惑かけてない?」
「全然」
りなちゃんは楽しそうだ。
そして。
少しだけ探るように聞いてきた。
「本当に店の外では何もないんですか?」
危ない質問だった。
俺は平静を装う。
「何もないよ」
「へぇ〜」
絶対信じていない顔だった。
「沙月ちゃんが聞いたら怒りますよ」
「何で」
「私と話してたからです」
「理不尽だな」
そのまま卓へ向かった。
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そして。
なぜか今日は異常にツイていた。
配牌がいい。
ツモがいい。
待ちも刺さる。
自分でも引くくらい勝っていた。
そして。
事件は起きた。
五巡目。
配牌から見えていた夢が完成する。
国士無双。
「えぇぇぇぇ!?」
卓内が騒然となった。
「五巡目!?」
「勘弁してくれ!」
「やられた方はたまったもんじゃねぇ!」
俺も同意だった。
今日は何かがおかしい。
結局。
二十一時過ぎに終了。
大勝ちだった。
佐藤店長ですら苦笑いしていた。
「今日は本当にヤバかったですね」
「俺もそう思う」
「沙月ちゃんいない方が強い説あります?」
「本人に言うなよ」
絶対面倒なことになる。
今日は健にも寄らない。
真っ直ぐ帰宅した。
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風呂に入る。
本を少し読む。
時計を見る。
二十三時。
そろそろ寝るか。
そんな時だった。
スマホが震える。
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【今から帰るよ〜❤️】
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さらに。
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【オールしなかったでしょ?】
【エライ?】
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そして。
自撮り。
さらに。
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【雨ヤバすぎる笑】
【前髪大変なことになってる笑】
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俺は思わず笑った。
「前髪ヤバいのに自撮り送るってどんな考えなんだよ」
静かだった部屋に。
急に嵐が吹き込んできたみたいだった。
俺は返信する。
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【雨ひどいから気を付けろよ】
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数分後。
また通知。
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【悠也さん】
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珍しく文章が短い。
嫌な予感がした。
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【電車止まりそう・・・】
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さらに。
数分後。
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【止まった】
【駅で降ろされた】
【どうしよう】
【駅人だらけ】
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その瞬間。
俺は立ち上がっていた。
クローゼットから服を出す。
財布。
車のキー。
準備しながら考える。
嫌な予感しかしない。
再び通知。
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【どうしよう】
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俺はもう玄関にいた。
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【迎えに行くから駅で待ってろ】
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即返信が来る。
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【ほんとに!?】
【申し訳ないけど・・・ありがとう!】
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そして。
いつもの沙月ちゃんに戻る。
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【悠也さんに会えるし】
【お得な電車運休だ❤️】
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「はいはい」
俺は笑った。
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【屋根あるところにいろよ】
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車を走らせる。
雨は想像以上だった。
ワイパーが忙しく動いている。
道路もかなり危ない。
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駅に着く。
そこには大勢の帰宅難民がいた。
駅員に詰め寄る人。
電話している人。
途方に暮れている人。
そんな中で。
彼女はすぐ見つかった。
少し大きめのパーカー。
雨で少し乱れた前髪。
両手でスマホを握っている。
そして。
俺を見つけた瞬間。
満面の笑顔になった。
「あっ!」
まるで。
この場所だけ雨が降っていないみたいな笑顔だった。
「ゆーやさん!」
車に駆け寄ってくる。
「ありがとう!」
乗り込むなり元気な声。
「帰るか」
「うん!」
そう言った直後。
沙月ちゃんの顔が曇る。
「あのね」
「ん?」
「道路も冠水で通行止めなんだって」
「……は?」
俺は言葉を失った。
ナビを見る。
確かに。
通行止めだらけだった。
遠回りすれば行ける。
でも。
相当時間がかかる。
しかも。
沙月ちゃんはかなり濡れている。
このまま何時間も移動させるのは危険だ。
俺は考えた。
ホテル。
いや。
二十一歳の女の子を一人で泊まらせるのも違う。
漫画喫茶。
この雨じゃ移動が危険だ。
タクシー。
道路が死んでいる。
結論。
選択肢はほぼ一つだった。
「……仕方ない」
「?」
「うち来るか?」
「!?」
一瞬だけ目を丸くして。
次の瞬間。
「行く!!」
即答だった。
「返事早っ!」
「やったー!」
「警戒心はどこいった」
「悠也さんだもん」
それで済ませるな。
俺は頭を抱えた。
「ちゃんと親御さんには連絡しとけよ」
「はーい!」
スマホを取り出しながら。
沙月ちゃんは満面の笑顔で言った。
「今日はお泊まりだね❤️」
「お前なぁ……」
本人は何も考えていない。
だから困る。
俺だけが変に意識しているみたいじゃないか。
そう思った瞬間。
沙月ちゃんが首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや」
「?」
「なんでもない」
そう答えながら。
悠也は今日一番大きなため息を吐いた。
雨はまだ止まない。
そして。
これから起きるであろう面倒ごとを思うと。
頭も痛くなりそうだった。
――第二十一話 終わり。




