表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/35

偶然じゃない再会

金曜日の夜。


雀荘『オリオン』はいつも以上に賑わっていた。


「ロン」


悠也が牌を倒す。


「あー終わった!」


「また悠也さんかよ!」


「今日は無理だって!」


卓を囲む常連たちが笑う。


悠也も苦笑しながら牌を崩した。


「今日は出来すぎだな」


「出来すぎで済ませるな」


「こっちは財布が軽くなってるんだから」


「ご利用ありがとうございます」


「店員か!」


卓は笑いに包まれた。


そこへ佐藤店長がやってくる。


「調子いいですねー」


「今日は珍しくツイてる」


「珍しく?」


「毎回勝ってるって言われそうだけど」


「言いますね」


佐藤はニヤニヤしながら店内を見回した。


「でも今日は沙月ちゃんいませんよ?」


「いないな」


「残念ですねえ」


「何が」


「会いたかったんじゃないですか?」


「店長さ」


「はい」


「面白がってるだろ」


「そりゃもう」


「正直だな」


「悠也さん反応いいんで」


二人とも笑った。



午後十一時前。


その日もプラス収支。


気分は悪くない。


「今日は飯でも食うか」


向かった先は居酒屋『健』だった。


暖簾をくぐる。


「おっ、悠也じゃねえか」


健二が顔を上げる。


「よー」


「珍しいな。二週連続か」


「たまたま」


「その言葉信用してない」


「なんでだよ」


カウンターへ向かう。


そして。


「あ」


「あ」


同時だった。


カウンター席に座っていた沙月が振り返る。


私服姿だった。


白いブラウスにデニム。


オリオンの制服とは雰囲気が違う。


「沙月ちゃん?」


「悠也さん!」


ぱっと笑顔になる。


悠也もつられて笑った。


「どうしたの?」


「ご飯!」


「見れば分かる」


「だよね!」


沙月が笑う。


健二は二人を交互に見ていた。


「へえ」


「なんだよ」


「いや、お前が一人じゃないから」


「たまたまだろ」


「そうかそうか」


「絶対信じてないな」


「信じてる信じてる」


全然信じていなかった。



自然な流れで隣に座る。


「今日は休みだったの?」


「うん。大学終わってから友達と遊んでた」


「充実してるな」


「悠也さんは?」


「麻雀」


「知ってる」


「知ってたか」


二人とも笑う。


「そうだ」


沙月が身を乗り出した。


「この前のお礼」


「気にしなくていいのに」


「私が気にするの!」


即答だった。


「ちゃんとお礼したかったんだよ」


「律儀だな」


「えへへ」


少し照れたように笑う。


「だから今日は私がご馳走する!」


「いやいや」


「する!」


「いや」


「する!」


「強いな」


「押し切るタイプなんで」


それはもう知っていた。



料理が運ばれてくる。


会話も自然と弾んだ。


「大学どう?」


悠也が聞く。


沙月は箸を止めた。


「聞く?」


「聞く」


「愚痴になるよ?」


「どうぞ」


待ってましたとばかりに沙月が身を乗り出す。


「ゼミがさ!」


始まった。


「先生がめっちゃ細かいの!」


「へえ」


「レポート提出したらフォントサイズまで言われたんだよ!?」


「それは細かいな」


「でしょ!?」


「でもちゃんと見てくれてるとも言える」


「悠也さん先生側じゃん!」


「ごめんごめん」


沙月が頬を膨らませる。


だが楽しそうだった。


「あと友達がね」


「うん」


「絶対待ち合わせ時間守らないの」


「それは困る」


「毎回十分遅刻するの!」


「それは注意していい」


「でしょ!?」


机を軽く叩く。


悠也は笑った。


店では明るい子だった。


でも今はもっと自然だった。


気を使わない友達相手みたいに話している。


「あ、ごめん」


沙月が急に言った。


「ん?」


「またタメ口になってた」


「別にいいだろ」


「そう?」


「店じゃないし」


「じゃあ少しだけ」


嬉しそうに笑う。


それからは敬語とタメ口が混ざるようになった。



話題は麻雀になった。


「そういえば今日も勝ったの?」


「まあまあ」


「また?」


「今日は運が良かった」


「そのセリフ聞いたことある」


「店でも言われた」


「絶対毎回言ってるでしょ」


「たぶん」


「たぶんじゃないよ」


沙月は笑う。


悠也も笑った。


ふと思いつく。


「じゃあさ」


「ん?」


「次オリオンで俺がトップ取ったら」


「うん」


「ゲーム代回収しに来て」


沙月は一瞬固まった。


そして吹き出す。


「なにそれ!」


「今日のお礼のお返し」


「意味わかんないって!」


「店長にゲーム代渡すくらいなら可愛い女の子に渡したいし」


「それは確かに!」


大笑いする。


「でも面白いからいいよ」


「本当?」


「うん」


そして悪戯っぽく笑う。


「でも私がいる日にいっぱい負けたら?」


「その時は?」


「慰めてあげる」


「優しいな」


「でしょ?」


「余計傷つくやつだな」


また二人で笑った。



帰り道。


駅へ向かう夜道。


「なんかさ」


沙月が言う。


「ん?」


「悠也さんって思ったより普通だよね」


「それ褒めてる?」


「褒めてる褒めてる」


「最近そればっかりだな」


「だって最初もっと近寄りがたい人だと思ってたんだもん」


「そんなつもりなかったけど」


「今は全然ない」


「よかった」


「むしろ話しやすい」


沙月は笑う。


その笑顔は店で見せる接客用の笑顔とは少し違った。


悠也も自然と笑う。


「沙月ちゃんも思ったより愚痴多いな」


「やめて!」


「結構しゃべる」


「忘れて!」


「無理」


「最低!」


笑いながら悠也の腕を軽く叩く。


改札が見えてきた。


そこで沙月が立ち止まった。


「そういえばさ」


「ん?」


少しだけ視線を逸らす。


珍しく歯切れが悪い。


「今日なんだけど」


「うん」


「実はね」


沙月は少し照れたように笑った。


「ここに来たら会えるかなって思ってた」


悠也が目を瞬かせる。


「健二の店?」


「うん」


「なんで」


「お礼ちゃんと言いたかったから」


そう言って笑う。


でも少しだけ照れている。


悠也もつられて笑った。


「そっか」


「うん」


電車がホームに入ってくる音が聞こえた。


「じゃあまたね、悠也さん」


「またな」


沙月は数歩進んで振り返る。


「次はトップ取ってね」


「覚えてたのか」


「当然でしょ」


「じゃあ頑張るか」


「うん!」


笑顔で手を振る沙月。


その姿を見送りながら悠也は思った。


――会えるかなって思って来るくらいには仲良くなったのか。


少しだけ嬉しかった。


そして沙月も思う。


――来てよかった。


偶然じゃない再会だった。


――第二話 終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ