表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/35

誕生日の終わりに

遊覧ヘリを降りたあとも。


沙月の興奮は収まらなかった。


「すごかった!」


車に乗ってからも。


「本当に飛んでた!」


当たり前である。


「夜景めっちゃ綺麗だった!」


「良かったな」


「良かったじゃ足りない!」


沙月は身振り手振りで感動を伝えてくる。


「人生で一番すごかった!」


そこまでか。


でも。


それだけ喜んでくれたなら十分だった。


そして。


最後の目的地へ向かう。


鉄板焼きの店だった。


店の前で車を降りると。


沙月が看板を見て固まった。


「え?」


嫌な予感がする。


「ええっ!?」


やっぱりだ。


「ここ!?」


「ここ」


「すごい店じゃん!」


「そうなのか?」


「そうなのかじゃないよ!」


完全にテンションが上がっていた。


席へ案内される。


目の前には大きな鉄板。


シェフが立っている。


そして。


「すごい!」


目が輝く。


「目の前で焼いてくれる店だ!!」


子供だった。


完全に。


「こんな店よく来るの?」


「いや」


悠也は苦笑する。


「ほぼ初めてだな」


「え?」


「いつも健じゃないか」


数秒。


沈黙。


そして。


「確かに!」


爆笑された。


「健と振り幅すごすぎるよ!」


「俺もそう思う」


料理が運ばれてくる。


肉。


海鮮。


野菜。


どれも美味い。


だが。


一番面白いのは。


食べている沙月だった。


「おいしい……」


感動。


「幸せ……」


感動。


「これ毎日食べたい……」


無理だろ。


そんな会話をしながら。


食事は進んでいく。


そして。


デザートの時間。


店内の照明が少し落ちる。


店員が運んできたのは。


ホールケーキだった。


「え?」


沙月が固まる。


ロウソク。


チョコプレート。


Happy Birthday。


「えっ?」


「えっ?」


何度も言っていた。


店員が微笑む。


「お誕生日おめでとうございます」


沙月が口元を押さえた。


「うそ……」


「吹き消せ」


「本当に?」


「本当に」


沙月はゆっくり息を吸い。


ふぅっと吹いた。


拍手。


照れ笑い。


そして。


「今日何回びっくりさせるの……」


少し潤んだ目。


でも。


笑顔だった。


帰り道。


夜十時過ぎ。


沙月の家の近く。


車を停める。


「楽しかったー!」


満足そうだった。


「それは良かった」


「今年の誕生日一生自慢する!」


「大袈裟だな」


「大袈裟じゃないもん!」


そう言いながら笑う。


そして。


悠也は助手席の足元から小さな袋を取り出した。


「これ」


「ん?」


「気に入るか分からないけど」


沙月が固まった。


「え?」


数秒後。


「まだ何かあるの!?」


本日最大の声量だった。


「ある」


「うそでしょ!?」


袋を受け取る。


ゆっくり開く。


中身を見る。


そして。


「……」


固まる。


ブレスレットだった。


派手すぎない。


でも可愛い。


普段使いできるデザイン。


何日も悩んで選んだものだった。


「めっちゃ可愛い……」


小さく呟く。


そして。


「つけてみていい?」


「もちろん」


沙月が身につける。


細い手首。


思った以上に似合っていた。


「どう?」


期待に満ちた目。


「うん」


悠也は頷く。


「似合ってる」


その瞬間だった。


沙月が俯く。


「あれ?」


肩が震えている。


「どうした?」


返事がない。


「沙月?」


顔を上げた。


涙だった。


「えっ!?」


本気で焦った。


「どうした!?」


「ごめん……」


笑っている。


でも涙が止まらない。


「なんか……」


声が震える。


「嬉しすぎて……」


ぽろぽろと涙が落ちる。


「勝手に涙出て……」


悠也は困った。


本当に困った。


泣かせる予定はなかった。


喜ばせる予定だった。


「安心しろ」


なんとか言葉を探す。


「お姫様扱いは今日だけだ」


すると。


沙月が涙を拭きながら笑った。


「え〜」


「毎日がいいなぁ」


「無理だ」


即答。


「俺のキャパシティオーバーになる」


「むー」


「だから気楽に飯食える沙月でいてくれ」


すると。


沙月が少しだけ目を丸くした。


「ねえ悠也さん」


「ん?」


「今日ね」


「うん」


「ずっと思ってたんだけど」


少し照れたように笑う。


「こんな誕生日初めてだった」


「そうか」


「たぶんね」


沙月は窓の外を見る。


「二十一歳になっても」


「うん」


「子供のままじゃいたくないなって思ってた」


「急だな」


「急じゃないよ」


小さく笑う。


「ちゃんと大人になりたいの」


いつもの沙月らしくない。


少しだけ落ち着いた声だった。


「まあ」


悠也は苦笑する。


「十分頑張ってるだろ」


「そうかな」


「そうだよ」


すると。


沙月は嬉しそうに笑った。


「ありがと」


車内が少し静かになる。


そして。


「悠也さん」


「ん?」


「本当に今日はありがとう」


優しい声だった。


「うれしかった」


そう言って。


沙月はシートベルトを外す。


帰るのかと思った。


だが。


違った。


少しだけ身を乗り出す。


ふわりと香るシャンプーの匂い。


そして。


左頬に。


柔らかい感触。


「……」


時間が止まる。


沙月は。


何事もなかったように笑った。


「今日のお礼!」


そのままドアを開ける。


「じゃあね!」


「お、おう」


完全に思考が追いついていない。


沙月は手を振る。


満面の笑顔。


そして。


走り去っていった。


残された車内。


静寂。


悠也は動けなかった。


数秒。


いや。


数十秒かもしれない。


左頬に手を当てる。


柔らかい感触が。


まだ残っている気がした。


「……参ったな」


小さく呟く。


夜景より。


鉄板焼きより。


プレゼントを渡した時の笑顔より。


最後に残ったのは。


左頬の感触だった。


どうやら。


二十一歳になったばかりの女の子は。


思っていたよりずっと。


手強いらしい。


――第十八話 終わり。

こんにちは、ヘロイズムです。

読んでいただきありがとうございます!

18話で第1部終了です。

このまま引き続き第2部も進めていきたいと思います!

もし少しでも楽しんでいただけたならブックマーク、評価いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ