誕生日という難題
今日は朝から頭を抱えていた。
本当に。
心の底から。
スマホを見る。
昨日のLINE。
『じゃあ次はお泊まりの時に飲むね❤️』
『お泊まりなら可愛いさっちゃんの寝顔も見放題だよ❤️』
「お泊まりってなんだよ……」
思わず声が出た。
朝九時。
自宅。
コーヒーを飲みながら天井を見上げる。
そして。
もう一つ。
頭を抱える理由があった。
昨日、自分が送ったLINE。
『沙月ちゃん可愛いんだから帰り道が心配だ』
「あれも大概だろ……」
思い出して額を押さえる。
何を言っているんだ俺は。
三十一歳。
しっかりしろ。
そう思う。
だが。
送ったこと自体は後悔していなかった。
実際心配だったのだから仕方ない。
問題は。
その後に返ってきた内容だ。
完全に予想を超えてきた。
最近の沙月ちゃんはおかしい。
いや。
前からおかしい気もする。
最初は。
年上への憧れみたいなものだと思っていた。
麻雀が少し強くて。
ご飯に付き合ってくれて。
話を聞いてくれる。
そういう年上の男。
若い子には珍しく映ることもある。
だから。
そのうち飽きると思っていた。
でも。
全然飽きない。
むしろ。
エスカレートしている。
「どうなってるんだよ……」
ため息を吐く。
確かに。
沙月ちゃんは可愛い。
一緒にいて楽しい。
気も使わない。
だけど。
二十歳。
俺は三十一歳。
十一歳差。
その数字は思った以上に大きい。
だから。
あまり本気にしてはいけない。
そう思っているのに。
最近は。
少し歯止めが利かなくなりそうな自分もいる。
それが怖かった。
午前中。
相場を終える。
今日も生活費くらいは稼げた。
パソコンを閉じる。
さて。
昼からは暇だ。
「麻雀でも打つか」
結局いつもの結論だった。
雀荘『オリオン』
午後一時。
ドアを開く。
「こんにちはー!」
りなちゃんが顔を上げる。
「悠也さん!」
佐藤店長もいる。
「珍しく昼ですね」
「暇だったから」
「また勝ちに来たんでしょ」
「言い方」
三人とも笑った。
今日は平日昼。
まだ客は少ない。
珍しく少し話をする時間があった。
「そういえば」
りなちゃんが言う。
「ちゃんと話したことなかったですよね」
「そうかも」
「私二十五なんですよ」
「へぇ」
「沙月ちゃんよりお姉さんです」
「知ってる」
「なんでですか」
「落ち着きが違う」
「ひどい」
りなちゃんは笑った。
その時。
「あ」
何か思い出した顔をする。
「そういえば」
「うん?」
「沙月ちゃん、もうすぐ誕生日なんですよ」
「へぇ」
何気なく返した。
「九月三日です」
「……」
「再来週ですね」
「……」
「聞いてます?」
「聞いてる」
平静を装う。
麻雀で鍛えたポーカーフェイスが火を吹いた。
「そうなんだ」
「知らなかったです?」
「初耳」
「喜びますよー」
りなちゃんは笑う。
「沙月ちゃん人気者だから、お客さんからいっぱいお祝いされそうですよね」
「それはありそう」
「常連さんみんな好きですし」
好き。
その単語に少しだけ引っかかった。
でも。
深く考えないことにした。
卓に入る。
そして。
ボロボロだった。
「ロン」
放銃。
「ツモ」
被ツモ。
「リーチ」
追っかけられる。
「あ」
また振り込んだ。
「重症だな」
常連が笑う。
「否定できない」
今日は駄目だった。
完全に駄目だった。
頭の中が。
完全に別のことで埋まっていた。
二十歳の女の子の誕生日。
何をしたらいいんだ。
アクセサリー?
重いか。
化粧品?
分からない。
バッグ?
趣味があるだろ。
服?
サイズ知らない。
現金?
親戚のおじさんになる。
午後六時。
収支。
かなりマイナス。
久しぶりだった。
「何か考え事ですか?」
佐藤店長が聞く。
「まあね」
「珍しい」
本当に珍しい。
麻雀中にここまで集中できないことはない。
店を出る。
夕暮れ。
スマホを見る。
LINE。
沙月ちゃん。
『勉強やだー』
『眠いー』
『褒めてー』
いつも通りだった。
思わず笑う。
そして。
ふと考える。
誕生日。
何をしたら喜ぶんだろう。
プレゼント。
ご飯。
デート。
考えても分からない。
ただ。
ひとつだけ分かることがある。
たぶん。
何をあげるかより。
誰と過ごすかの方を。
あの子は大事にしそうだ。
そんな気がした。
『勉強頑張れ』
返信する。
すると。
『ご褒美ある?❤️』
即返信だった。
『ある』
送信してから気付く。
「あ」
何があるんだ。
まだ何も決まってない。
数秒後。
『なになに!?❤️』
『秘密』
そう返しながら。
悠也は再び頭を抱えた。
誕生日という難題は。
むしろ今からが本番だった。
――第十四話 終
こんにちは、ヘロイズムです。
読んでいただきありがとうございます!
もし少しでも楽しんでいただけたならブックマーク、評価いただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




