単純な女の子
Side沙月
やってしまった。
本当に。
盛大に。
やってしまった。
日曜日。
朝。
ベッドの上。
あたしは枕に顔を埋めながら唸っていた。
「うぅぅぅ……」
思い出す。
昨日の夜。
健。
レモンサワー。
そして。
『浮気だ!』
『りなちゃんとベタベタしてる!』
『悠也さん担当はあたしなのー!!』
「死にたい……」
布団の中で足をバタバタさせる。
なんであんなこと言ったんだろう。
悠也さん全然悪くないのに。
忙しくて。
悠也さんの卓のゲーム代回収に行けなかったのはあたしだ。
りなちゃんは普通に仕事しただけ。
悠也さんも普通に話しただけ。
なのに。
勝手に嫉妬して。
勝手に拗ねて。
勝手に絡んだ。
「最悪だぁ……」
しかも。
酔ってた。
絶対変なこと言った。
絶対めんどくさい女だった。
絶対引かれた。
間違いない。
天井を見る。
自己嫌悪。
大自己嫌悪。
すると。
スマホが震えた。
「あ……」
画面を見る。
悠也さん。
心臓が跳ねる。
恐る恐る開く。
『大丈夫か?』
短い文章。
それだけ。
それだけなのに。
なんでこんなに優しいんだろう。
昨日あんなに絡んだのに。
あんなに面倒だったのに。
普通なら。
『昨日は大変だった』
とか。
『飲みすぎ』
とか。
少しくらい文句を言ってもいいのに。
最初に来た言葉は。
『大丈夫か?』
だった。
「ずるいなぁ……」
小さく呟く。
本当にずるい。
優しすぎる。
そして。
ふと思う。
もしかして。
子どもだと思われてるのかな。
年下だし。
大学生だし。
妹みたいな感じなのかな。
そう思った瞬間。
少しだけ胸が苦しくなった。
さらに。
りなちゃんの顔が浮かぶ。
二十五歳。
あたしより少し年上。
落ち着いてる。
仕事もできる。
可愛い。
大人っぽい。
「そっちの方がお似合いなのかなぁ……」
考えたくないのに。
勝手に考えてしまう。
本当に嫌になる。
しばらく画面を見つめる。
そして。
返信。
『大丈夫!』
少し考えて。
『元気だよ!』
送信。
完全に空元気だった。
すると。
数十秒後。
返信が来た。
『ならいいけど』
少し安心する。
その続き。
『飲みたいんなら次からは俺が送れる日にしてくれ』
「え……」
目が止まる。
さらに。
『若い女の子を一人で帰らせるのは心配だから』
思考が止まる。
「……」
もう一回読む。
『送れる日にしてくれ』
送る。
『心配だから』
心配。
「…………」
顔が熱い。
めちゃくちゃ熱い。
なんなんだこの人。
さっきまで。
どん底だったのに。
自己嫌悪でいっぱいだったのに。
今。
めちゃくちゃ機嫌がいい。
単純すぎる。
自分でも分かってる。
でも。
止められない。
自然と笑顔になる。
「ほんと単純……」
そう呟きながら。
スマホを抱きしめる。
そして。
悪戯心が湧いてきた。
少しだけ。
困らせたい。
少しだけ。
焦らせたい。
たぶん。
今なら許される。
LINEを開く。
入力する。
『じゃあ次は送ってもらえる日に飲むね❤️』
送信。
数秒。
さらに入力。
『お泊まりなら問題ないか❤️』
送信。
そして。
最後にもう一つ。
『可愛いさっちゃんの寝顔も見放題だよ❤️』
送信。
「ふふっ」
笑ってしまう。
絶対困る。
絶対苦笑いする。
たぶん。
頭抱える。
その顔を想像するだけで。
元気が出る。
不思議なくらい。
さっきまでの落ち込みが消えていた。
窓の外を見る。
青空。
今日はいい天気だった。
「よし」
ベッドから立ち上がる。
大学の課題。
テスト勉強。
やることはたくさんある。
でも。
少しだけ頑張れそうだった。
あの人から来る。
たった一通のLINEで。
こんなに気分が変わるなんて。
我ながら重症だと思う。
それでも。
悪くない。
むしろ。
少し幸せだった。
スマホを見る。
返信はまだ来ていない。
たぶん。
困っている。
きっと。
頭を抱えている。
そう考えると。
また笑顔になってしまうのだった。
――第十三話 終わり
こんにちは、ヘロイズムです。
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