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鬼襲来

七月。


三連休の中日。


暑い。


とにかく暑い。


そんな日でも、今日も今日とて俺は雀荘『オリオン』で麻雀を打っていた。


三連休だけあって店内は大盛況だった。


満卓。


待ち客あり。


電話も鳴りっぱなし。


女性スタッフも二人体制。


沙月ちゃん。


りなちゃん。


二人とも店内を走り回っている。


「お待たせしましたー!」


「ありがとうございます!」


「お会計お願いしまーす!」


忙しそうだ。


本当に忙しそうだ。


俺はと言うと。


「ツモ」


いつも通りだった。


午後七時過ぎ。


半荘終了。


「3卓優勝、悠也さんでーす!」


スタッフの元気な声が店内に響く。


「またか」


「今日は調子いいな」


「三連休くらい勝たせろよ」


卓が笑う。


「たまたまだよ」


「そのセリフ禁止」


いつもの流れだった。


オリオンではトップを取った人間が全員分のゲーム代をまとめて払う。


だからスタッフが回収に来る。


沙月ちゃん来るかな?


そう思ったのだが。


「お疲れさまです」


来たのはりなちゃんだった。


「今日も強いですね」


「ツイてたね」


「それで勝てるのがすごいんですよ」


普通の会話。


本当に普通の会話。


その時だった。


スマホが震える。


見る。


沙月ちゃん。


『浮気だo(`ω´ )o』


「……」


続けて。


『デレデレしてるo(`ω´ )o』


『見たぞo(`ω´ )o』


『最低o(`ω´ )o』


『裏切り者o(`ω´ )o』


四連投。


思わず吹き出しそうになった。


「何してるんだあの子」


りなちゃんは当然知らない。


「どうしました?」


「いや、なんでもない」


「怪しいですね」


「怪しくない」


絶対怪しかった。


次の半荘。


またトップ。


「お疲れさまです!」


ゲーム代回収。


またりなちゃんだった。


「本当に強いですね」


「今日は出来すぎ」


「ご褒美にアイスコーヒーサービスしちゃいますね」


「普段から無料のドリンクだよね?」


「もちろんです!」


りなちゃんは笑う。


そして。


またスマホが震えた。


『ライバル出現o(`ω´ )o』


『アイスコーヒー5杯持っていくo(`ω´ )o』


『全部飲ませるo(`ω´ )o』


『覚悟しろo(`ω´ )o』


「意味が分からない」


完全に意味不明だった。


それでも少し笑ってしまう。


午後九時半。


そろそろ帰ろう。


そう思った時。


またスマホが震えた。


嫌な予感しかしない。


開く。


『健集合!o(`ω´ )o』


短い。


だが逆らう選択肢はなかった。


『了解』


即返信。


『よろしいo(`ω´ )o』


なんなんだ本当に。



午後十時十分。


居酒屋『健』。


珍しく俺の方が先だった。


カウンター席でビールをちびちび飲む。


すると。


「こんばんはー!」


元気な声が聞こえる。


鬼が来た。


沙月ちゃんだ。


席に座るなり、


「レモンサワーください!」


俺は少し驚く。


「珍しく飲むんだな」


「飲まなきゃやってられないよ!」


即答だった。


「何が」


「何がじゃない!」


沙月ちゃんは頬を膨らませる。


「悠也さんりなちゃんとベタベタするし!」


「してないけどなあ」


「してた!」


「してない」


「してた!」


「してない」


子どもの喧嘩だった。


後ろで健二が笑っている。


「仲良いな」


「違う!」


沙月ちゃんが即否定した。


だが勢いは止まらない。


「なんであたしが近くにいる時にゲーム終わらせてくれないの~」


「無茶言うなあ」


「だって!」


「だってじゃない」


「りなちゃんばっかり!」


「ゲーム代回収しただけだろ」


「それが問題なの!」


意味が分からない。


レモンサワーが来る。


沙月ちゃんはぐいっと飲んだ。


「ぷはー!」


「おっさんみたいだぞ」


「失礼な!」


「事実だろ」


二人とも笑う。


しかし。


まだ不満そうだった。


「だいたいさ」


「うん」


「あたしがいるのに」


「うん」


「なんでりなちゃんにアイスコーヒーもらうの」


「断る方がおかしいだろ」


「断ってよ!」


「無茶苦茶だな」


その時だった。


沙月ちゃんが勢いよく立ち上がる。


「悠也さん担当はあたしなの!」


店内に響いた。


一瞬。


静寂。


そして。


健二が吹き出した。


「ぶはっ!」


「沙月ちゃんそれどういう立場?」


「え」


沙月ちゃんが固まる。


「あ」


ようやく気付いたらしい。


顔がみるみる赤くなる。


「違うの!」


「何が?」


健二は完全に面白がっている。


「違うから!」


「説明どうぞ」


「えっと!」


「うん」


「その!」


説明できなかった。


俺は額を押さえた。


「勘弁してくれ……」


目の前では真っ赤になった沙月ちゃんと、ニヤニヤしている幼馴染。


そして。


「でもアイスコーヒーは没収だからね怒」


まだ言っている。


どうやら今夜の鬼はかなり機嫌が悪いらしい。


そんな姿を見ながら、ふと思った。


嫉妬してるんだろうな。


分かりやすすぎるくらいに。


そして――


少しだけ。


本当に少しだけ。


可愛いな、と思ってしまった。


そのことは。


たぶん。


まだ秘密にしておこうと思う。


――第十二話 終わり。

こんにちは、ヘロイズムです。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白い、沙月がアホ可愛いと思ってもらえれば評価、ブックマークしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

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