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テーマパークデート

日曜日。


朝七時半。


待ち合わせ場所に到着した悠也は、缶コーヒーを片手に車にもたれていた。


今日は少し早い。


目的地が遠いからだ。


しばらくすると。


「おはよーーー!」


遠くから元気な声が飛んできた。


振り返る。


沙月だった。


白いキャップ。


オーバーサイズのパーカー。


ショートパンツ。


いつもより少しラフな格好。


そして相変わらずの笑顔。


「おはよう」


「今日は楽しみすぎて五時に起きた!」


「子どもか」


「遠足だから」


「デートじゃなかったのか」


「遠足兼デート」


「欲張りだな」


沙月はケラケラ笑いながら助手席へ乗り込んだ。


車が走り出す。


しばらくして沙月が言った。


「そういえば」


「ん?」


「悠也さん今日行くテーマパーク初めてなんだよね?」


「初めて」


「へえー」


嫌な予感がした。


「あたしも男の人と行くの初めてだよ?」


ニヤニヤしながら沙月が言う。


「光栄だね」


即答。


沙月は頬を膨らませた。


「もうちょっとドキドキしてよ!」


「してるよ」


「ほんとに?」


「こんなおっさんが若い子と遊園地来ていいのかってかなりドキドキしてる」


「違う!」


即ツッコミ。


「遊園地じゃない!」


「え?」


「テーマパーク!」


「同じだろ」


「違うの!」


「そうなのか」


「若い人はテーマパークって言うの!」


「勉強になるな」


「若い子と来れてよかったね!」


「先生ありがとう」


沙月は満足そうだった。


午前九時。


目的地に到着。


すると沙月は真っ先にショップへ向かった。


「まずこれ!」


十分後。


悠也の頭にはキャラクターのカチューシャが付いていた。


「……」


「似合う!」


「三十一歳の男に言う言葉じゃない」


「似合うから仕方ない!」


沙月はスマホで写真を撮りまくっていた。


「保存保存!」


「頼むから消してくれ」


「だめ」


即答だった。


その後はアトラクション三昧だった。


絶叫系。


人気ライド。


最新アトラクション。


乗って。


笑って。


叫んで。


気付けば午後になっていた。



午後三時。


ベンチに座った悠也は完全に消耗していた。


「疲れた……」


「もう一回行ける!」


「なんでそんな元気なんだ」


「若いから!」


「その言葉嫌いだ」


沙月は大笑いした。


その時だった。


近くで男の子の泣き声が聞こえた。


五歳くらいだろうか。


どうやら迷子らしい。


沙月が優しく声をかける。


「どうしたの?」


しかし男の子は泣き止まない。


困った空気が流れる。


そこで悠也がしゃがみ込んだ。


そして。


全力の変顔。


一発。


二発。


三発。


男の子はぽかんとした後。


吹き出した。


泣き止んだ。


「ぶふっ!」


今度は沙月が吹き出した。


「なにそれ!」


「企業秘密」


「無理無理無理!」


腹を抱えて笑っている。


そこへ母親が駆け寄ってきた。


何度も頭を下げながら男の子を連れていく。


静かになったあと。


沙月がぽつりと言った。


「優しいね」


「普通だろ」


「普通じゃないよ」


少しだけ真面目な声だった。


「そういうところ好きだなって思う」


悠也は一瞬だけ言葉に詰まった。


だが沙月は何でもないように笑っている。


照れ隠しのように肩をすくめた。


「変顔込みで?」


「それはマイナス!」


「ひどいな」


また二人で笑った。



夕方。


パレードの時間。


音楽が流れる。


色鮮やかなフロート。


歓声。


拍手。


光。


テーマパークらしい華やかな時間だった。


「すごい……」


沙月が小さく呟く。


目を輝かせながら見上げている。


楽しそうだった。


本当に。


心の底から。


その横顔を見て。


悠也はふと視線を止めた。


綺麗だと思った。


可愛い。


それも違う気がした。


もっと別の何かだった。


パレードは華やかだった。


音も光も人も。


全部が賑やかだった。


それなのに。


悠也の目には。


隣で笑う沙月しか映っていなかった。


風で揺れる髪。


キラキラした瞳。


無邪気な笑顔。


その全部が妙に眩しい。


まるで。


パレードの華やかさを一人で越えてしまうみたいに。


「悠也さん?」


不意に声をかけられる。


悠也は我に返った。


「ん?」


「どうしたの?」


「いや」


少しだけ視線を逸らす。


「楽しそうだなと思って」


沙月は嬉しそうに笑った。


「楽しいよ!」


即答だった。


その笑顔を見て。


悠也もつられて笑う。


どうやら今日は。


パレードだけじゃなく。


もっと印象に残るものを見てしまったらしい。



夜。


帰りの車。


沙月はまだ元気だった。


「あのアトラクションさ!」


「うん」


「めっちゃ面白かった!」


「そうだな」


「あの変顔も!」


「まだ言うのか」


「一生言う」


そして突然。


「あーーー!!」


「どうした」


「忘れてた!」


「何を」


「お揃いのグッズ買うの!」


悠也は笑った。


「今気付いたのか」


「最悪だ……」


本気で落ち込んでいる。


だから悠也は軽く言った。


「じゃあ次でいいだろ」


「え?」


「またどこか行った時に買えば」


沙月が固まる。


数秒後。


ゆっくり笑った。


「そっか」


「ん?」


「次か」


嬉しそうだった。


窓の外には夜景。


助手席では沙月がニヤニヤしている。


「楽しみだなあ」


「気が早い」


「だって次あるもん」


当たり前のように言う。


その言葉を聞いて。


悠也も少しだけ笑った。


次がある。


それを当たり前のように考えている自分に気付いたからだった。


――第十一話 終わり。

読んでいただきありがとうございます。

ヘロイズムと言います。

朝と夜の一日2回更新します。

もし少しでも楽しんでいただけたならブックマークや評価いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

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