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最適化された不幸 ―5歳で人生が決まる世界で、18歳の俺だけ未診断だった―  作者: uchiprpr


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第四話『適合率』

 真理亜の送迎車には、家の近くで降ろしてもらった。


「また明日」


 真理亜は、静かにそう言った。

 送迎車が遠ざかっていく。

 優李は、そのまま家路についた。

 夕日に照らされた、自分の影が民家のブロック塀に映っている。

 まるで、

 他人と一緒に歩いて帰っているみたいだった。

 家に着く。


「ただいま」


 返事はなかった。

 リビングでは、テレビだけが流れている。

 父親の姿はない。

 母親も、こちらを見なかった。

 優李も、そのまま自分の部屋へ続く階段を上がる。

 足取りは、少し重かった。

 部屋に入り、

 制服のままベッドへ倒れ込んだ。

 薄暗い天井を見上げる。


『アマテラスで、相性が良いって』


 真理亜の声が、頭の中に残っていた。

 静かな声だった。

 暖かい声だった。

 でも。

 これが、本当にカップルなんだろうか。

 そんな考えが、頭から離れなかった。

 昔、一度だけ付き合ったことがある。

 中学二年の頃だった。

 三週間くらいで終わった。

 なんで付き合ったのかも、

 なんで別れたのかも、

 もうよく覚えていない。

 でも。

 少なくとも、

 適合率の話はしなかった。

 スマホが震える。

【ガールフレンド 適合率90%】


『おやすみなさい』


 数秒後。


『明日も迎えに行くね』


 優李は、少しだけ画面を見つめたあと。

『明日は、自分で行く』

 そう返した。

 すぐに既読がつく。


『分かった』


『気をつけてね』


 その文章は、

 どこまでも正しかった。

 翌朝。

 空は曇っていた。

 優李は、一人で家を出る。

 送迎車のない朝は、

 少しだけ落ち着かなかった。

 住宅街を歩く。

 街並みは、妙に整っていた。

 道路を挟んだ建物の配置まで、

 左右対称みたいに揃っている。

 目に入る建物の色に、派手さはない。

 モノクロの世界と錯覚してしまいそうだった。


 綺麗だと思った。

 でも。

 長く見ていると、

 少しだけ息苦しくなる。

 同じ制服の生徒たちが、

 笑いながら前を通り過ぎていく。

 その輪の中へ、

 自分が入っていく姿だけは想像できなかった。


 学校へ着く。

 廊下を歩いていると、

 美術部の受賞作品が壁に並んでいた。

 どれも、写真みたいな絵だった。

 ガラスの反射。

 水滴の質感。

 髪の一本一本まで、

 異様なほど正確に描かれている。

 上手い、と思った。


 でも。

 そこに“描いた人間”だけが見えなかった。


 教室へ入る。


「おはよ」


「ういーっす」


 そんな声が飛び交う中。

 優李が席へ着いた瞬間だった。


「お前、マジで天音真理亜と付き合ってんの?」


 クラスメイトの男子が近づいてきて、

 挨拶もなしに声をかける。

 昨日とは別のやつだった。

 たぶん。


「……まあ」


「やっば」


「勝ち組すぎんだろ」


「適合率90超えなんだろ?」


 笑い声。


「親、国家AI研究機構の幹部らしいぜ」


「政治家とか普通に家来るって聞いた」


「別世界の人間じゃん」


 優李は、笑えていただろうか。

 その言葉に、

 どう返せばいいのか分からなかった。


「なんでお前なんだよ」


 冗談っぽく言われたその言葉だけが、

 少し耳に残った。

 授業の内容は、

 相変わらず頭に入ってこなかった。

 気づけば、放課後になっていた。

 校門の前には、

 相変わらず黒い送迎車が停まっている。

 真理亜の制服に、

 今日も皺はなかった。

 優李は、その車へ近づきながら口を開いた。



「……どこか寄ってく?」



 自分でも、

 なんでそんなことを言ったのか分からなかった。



「うん」



 真理亜は、すぐにスマホを開いた。


「近くだと、このカフェが評価高いみたい」


 数分後。

 二人は駅前のカフェへ入っていた。

 ガラス張りの店内には、

 静かなジャズが流れている。

 制服姿の高校生カップルも多かった。

 傍から見れば、

 自分たちも普通の恋人に見えるのかもしれない。

 店員に席へ案内され、座る。

 優李はメニューを手に取って開いた。

 写真付きの飲み物が並んでいる。

 優李は、ほとんど迷わず、

 一番上に書かれていたブラックコーヒーを指差した。

 値段が、一番安かった。

 本当は、

 コーヒーの味なんてよく分からなかった。

 真理亜は、

 よく分からない異国の言葉みたいな注文をしていた。

 しばらくして、

 注文した飲み物が運ばれてくる。

 真理亜の前には、

 生クリームが山みたいに乗ったフラペチーノが置かれていた。


「……甘いの好きなの?」


 真理亜は、一瞬だけ止まった。


「おすすめされたから」


 優李は、小さく息を吐く。


「天音さんってさ、なんで俺と付き合ったの?」

「ご両親は、付き合ってることに、なんて言ってるの?」

「そっちの学校ってどんなとこ?」

「楽しみってある?」



 気づけば、

 言葉が止まらなくなっていた。

 真理亜は、一瞬だけ黙った。

 そのまま、

 視線が小さく揺れて、落ちる。

 まるで、

 頭の中で順番を整理しているみたいだった。

 優李は、その顔を見ながら思う。

 ああ。

 この人は、

 会話を“考えている”んじゃない。

 “処理”しているんだ。


「……順番に聞いてくれる?」


 真理亜は、

 少し困ったみたいに微笑んだ。

 その表情を見た瞬間。

 優李は、初めて思った。

 この人は、


 本当に“自分”で笑っているんだろうか、と。

(第四話『適合』 終)

読んでいただきありがとうございます。


今回は、

「正しいこと」と「人間らしさ」について、

少し意識しながら書きました。


少しでも違和感を感じてもらえたなら嬉しいです。

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