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最適化された不幸 ―5歳で人生が決まる世界で、18歳の俺だけ未診断だった―  作者: uchiprpr


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第十三話『プロトコル』

 アラームが鳴る前に目が覚めた。




 白い天井を見る。




 シーリングライトの豆電球が、


 か細く光っていた。




 今日は国家研究育成プログラム初日。




 胃の辺りが、


 少しだけ重かった。




 期待。




 不安。




 たぶん、


 両方だった。




 スマホを見る。




 特に通知はない。




 真理亜からのメッセージもなかった。




 それが少しだけ気になった。





 校門の前。




 送迎車の横で、


 真理亜が待っていた。




「おはよう」




「おう」




 真理亜は、


 優李の顔を覗き込む。




「顔色が悪いわ」




「そうか?」




「緊張してるのね」




 図星だった。




「まあ」




「少し」




 真理亜は少し考える。




「大丈夫よ」




「死ぬわけじゃないもの」




「励まし方下手だな」




 思わず笑う。




 真理亜も少しだけ口元を緩めた。





 午後。




 育成コース棟。




 一般校舎とは離れた場所に建っていた。




 ガラス張りの建物。




 静かすぎる廊下。




 顔認証ゲートを通る。




【適合認証完了】




 それだけが表示された。




 中へ入る。




 優李は少しだけ違和感を覚えた。




 静かだった。




 誰も騒がない。




 話し声もしない。




 全員が端末を見ていた。




 教室へ入る。




 席へ座る。




 隣の生徒が顔を上げた。




「本日の学習計画は確認しましたか?」




「……え?」




「推奨スケジュールです」




 優李は曖昧に頷いた。




 会話なのに。




 報告書みたいだった。





 休憩時間。




 優李は廊下へ出た。




「おー」




 後ろから声が飛んできた。




「お前が榊原?」




 振り返る。




 短髪の男子生徒。




 屈託のない笑顔だった。




「俺、佐伯」




「よろしく」




 初めて普通の人間を見た気がした。




「榊原だ」




「知ってる知ってる」




「天音と付き合ってるやつだろ?」




 優李は少し考える。




「……そういうことになってる」




「なんだそれ」




 佐伯が笑った。




「一番面白い返事じゃん」




 優李も少し笑う。




 少なくとも。




 この場所にも、


 普通の人間はいるらしい。




 その時は、


 そう思った。





 その時だった。




 廊下の向こうに、


 見覚えのある顔を見つける。




「あれ」




 優李は思わず声を漏らした。




 相手も気付く。




「こんにちは」




 丁寧なお辞儀。




 違和感があった。




「前に会ったよな」




「あります」




「四月まで、


 同じクラスでした」




 山岸だった。




 休み時間になると。




「なあなあ」




「天音とどうなん?」




 と聞いてきたやつだ。




 でも。




 今は違う。




「育成コースだったのか?」




「はい」




「現在は最適学習プログラムを受講しています」




 優李は眉をひそめる。




「昼休み、


 よく話しかけてきただろ」




 山岸は少し考えた。




「そうでしたか?」




「覚えがありません」




 その言葉に。




 優李は表現出来ない気持ち悪さを覚えた。





 帰宅時間。




 認証ゲートの前に列が出来ていた。




 その中に。




 一人だけ目立つ男子生徒がいた。




 リュックには、


 最近流行りのアニメキャラクターのキーホルダー。




 一つではない。




 二つ。




 三つ。




 歩くたびに小さく揺れる。




 育成コースらしくないやつだな。




 優李はそう思った。




 男子生徒がゲートを通る。




【適合認証中】




 緑色のランプが点灯する。




 次の瞬間。




 ランプが赤く変わった。




 短い電子音。




 静かな廊下に響く。




【再評価対象を確認しました】




【担当職員を呼び出します】




「え?」




 優李は思わず声を漏らした。




 だが。




 誰も驚かなかった。




 周囲の生徒達は、


 何事もなかったように列へ並んでいる。




 職員が二人近付いてくる。




「こちらへ」




 男子生徒は、


 一瞬だけリュックへ視線を落とした。




 何も言わない。




 ただ。




 小さく拳を握った。




「分かりました」




 それだけ言って。




 静かに職員の後ろを歩いていった。




 優李だけが立ち尽くしていた。





 帰り道。




「あいつ」




「山岸って覚えてるか?」




 真理亜は頷く。




「覚えているわ」




「前と全然違うんだけど」




 真理亜は少しだけ黙った。




「あの人は」




「親御さんの希望で、


 途中から育成コースへ入ったの」




 優李は足を止める。




「本人は?」




 少し沈黙。




「……最初は、


 嫌がっていたらしいわ」




「らしい?」




「聞いた話よ」




 真理亜は前を向く。




「でも今は」




「適応しているみたい」




「適応って」




「別人じゃないか」




 真理亜は答えなかった。




 ただ。




「……そうかもしれないわね」




 そう呟いた。





 別れたあと。




 優李は一人で校門を出た。




 グラウンドから声が聞こえる。




 野球部だった。




 練習を終えた選手達が、


 トンボで土を均している。




 シャッ。




 シャッ。




 シャッ。




 凸凹だったグラウンドが、


 少しずつ平らになっていく。




 足跡も。




 スパイクの跡も。




 全部消えていく。




 何が似ているのかは、


 うまく説明出来なかった。




 でも。




 少しだけ嫌だった。




 トンボが通るたび。




 グラウンドは綺麗になっていく。




 綺麗になっているはずなのに。




 なぜか。




 少しだけ寂しく見えた。




 顔を上げる。




 雲一つない夕焼けが、


 校舎を赤く染めていた。




 その光は、


 少しだけ眩しかった。




 別人みたいだった。




 いや。




 別人になってしまったみたいだった。




(第十三話『プロトコル』 終)

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