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最適化された不幸 ―5歳で人生が決まる世界で、18歳の俺だけ未診断だった―  作者: uchiprpr


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第12話『コネクト』

 呼び出し音は、

 三回鳴った。


『……もしもし』


 真理亜の声だった。


 少しだけ眠そうな声。


 それだけなのに、

 優李は少し安心した。


「悪い」


『別に』


『どうしたの?』


 優李は、

 少しだけ言葉に迷う。


 電話をかけた理由は、

 自分でもよく分からなかった。


 ただ、

 声が聞きたかった気がした。


「いや」


「育成コース行くことにしたから」


 電話の向こうが静かになる。


 数秒。


 真理亜は何も言わなかった。


『……本気なの?』


「まあな」


『そう』


 いつもの真理亜の声だった。


 感情はほとんど分からない。


「反応薄くない?」


『国家研究育成プログラムは』


『将来性の高い進路だから』


『合理的な選択だと思うわ』


 優李は思わず苦笑する。


「なんかAIみたいな返事だな」


 少し間が空く。


『最適な説明をしただけよ』


『何か間違っていたかしら』


「ほら」


「そういうところ」


『そういうところ?』


「普通ならさ」


「先に別のこと言うだろ」


 真理亜は、

 少し黙った。


『……でも』


 その声は、

 さっきより少しだけ小さかった。


『知っている人がいる方が、

 心細くないもの』


 優李は、

 一瞬だけ言葉を失った。


 電話の向こうの真理亜も、

 黙っている。


「へえ」


「じゃあ」


「よろしく、

 先輩」


 少し間が空く。


『……まだ入ってないでしょう』


「じゃあ、

 未来の先輩」


 また沈黙。


 でも、

 今度の沈黙は嫌じゃなかった。


『……そうね』


『その時は、

 教えてあげるわ』


 優李は少し笑う。


「頼りにしてる」


 電話の向こうで、

 小さく吐息が漏れた気がした。


『また明日』


「ああ」


「また明日」


 通話が切れる。


 静かな部屋。


 優李は、

 しばらくスマホを見つめていた。


 育成コースへ進むと決めたのも。


 真理亜が補正されたことが、

 気になって仕方ないのも。


 最近、

 あいつのことばかり考えているのも。


 その答えは、

 出てこなかった。



 翌朝。


 校門の前で、

 真理亜の姿を見つける。


 少しだけ心拍数が上がった。


 昨日までなら、

 気にならなかったはずなのに。


「おはよう」


 真理亜が言う。


 いつも通りだった。


「あ、おう」


 優李の方が少しぎこちない。


『どうしたの?』


「別に」


『変なの』


 本当に分かっていない顔だった。



 朝のホームルーム。


 担任が出席簿を閉じる。


「最後に連絡事項だ」


 教室が静かになる。


「榊原が、

 国家研究育成プログラムへ参加することになった」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


 教室がざわついた。


「マジかよ」


「やっぱ行くんだ」


「国家研究機構コースだろ?」


「すげぇな」


 担任が手を上げる。


「静かにしなさい」


 ざわめきが少し収まる。


「これからは育成プログラムの関係で、

 みんなとは違う授業になることも多い」


「教室にいない日も増える」


 再び教室がざわつく。


「もうエリートコースじゃん」


「将来安泰だな」


「でも幸福予測低かったんだろ?」


「まあ、

 あれって参考値だし」


「社会適合高ければ問題ないだろ」


「幸福度なんて、

 あとからついてくるって」


 悪気のない声だった。


 少し前までなら、

 優李も同じように考えていた。


 幸福度なんて、

 ただの数字だと思っていた。


 でも今は。


 窓際を見る。


 真理亜が、

 静かに本を読んでいた。


 社会適合率99.8%。


 誰よりも優秀で。


 誰よりも正しい。


 それなのに。


 その横顔は、

 どこか遠くを見ているようだった。


 理想。


 そうだろうか。


 優李には、

 そう思えなかった。



 放課後。


 席を立った瞬間。


「なあなあ」


「育成コースってどんな感じなん?」


「国家研究機構の人とか来るの?」


「適性値いくつだった?」


 あっという間に囲まれる。


 優李は小さくため息を吐いた。


「悪い」


「これから真理亜と帰るから」


「邪魔しないでもらっていい?」


 一瞬だけ静かになる。


「また天音かよ」


「最近そればっかだな」


「はいはい、行ってこい」


 優李は、

 窓際にいた真理亜の手を取った。


「行くぞ」


「……ええ」


 二人は教室を出る。


 しばらく歩いてから。


「悪い」


「勝手に連れ出した」


「別に」


「助かったわ」


 優李は少し驚いた。


「そうなのか?」


「質問責めは、

 あまり得意じゃないの」


 初めて聞いた気がした。


 その時。


 真理亜の耳が、

 少しだけ赤いことに気付く。


 再適合カウンセリングの

 影響だろうか。


 パソコンでいうところの、

 軽いオーバーヒートみたいなものかもしれない。


 そう思った。


 その時になって。


 優李は、

 自分の手にも汗をかいていることに気付いた。


 今日は、

 少し湿度が高いのかもしれない。


 たぶん。


 そういうことなんだろう。


(第十二話『コネクト』 終)

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