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最適化された不幸 ―5歳で人生が決まる世界で、18歳の俺だけ未診断だった―  作者: uchiprpr


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第11話『スクランブル』

 再適合カウンセリングを受けた翌週。


 真理亜は、また少しだけ元へ戻ったみたいだった。


 朝。


 スマホが震える。


【真理亜】


『……傘、忘れない方がいいわ』


『本日の降水確率は70%です』


『傘の携帯を推奨します』




 最初の一文だけが。以前の真理亜みたいだった。


 優李は、しばらくその画面を見つめる。


 会話は続いている。




 でも、 どこか透明な膜が間に挟まったみたいだった。


 教室でもそうだった。


 真理亜は、以前と同じように静かで、    


 綺麗で、完璧だった。


 授業中も、 教師の質問へ正確に答える。


 昼休みには、育成プログラムの資料を読んでいる。


 クラスメイトたちは、そんな真理亜を羨ましそうに見ていた。




「やっぱ天音って別格だよな」




「適合率99%台って、 もう人生確定みたいなもんじゃん」




「国家研究機構コースとか、 勝ち組すぎるだろ」




 悪気のない声だった。


 少し前までなら、優李も何も思わなかった。


 測定されていなかっただけで、


 本当は最初から、


 自分もそちら側の人間だったのかもしれない。


 でも今は。


 真理亜が、 猫を撫でていた姿を知っている。


 クラゲの前で、 少しだけ笑った顔を知っている。




 だから。




 今の真理亜を見るたびに、 何かが少し違う気がした。





 放課後。


 担任に呼び止められる。




「榊原」




 優李は、 小さく振り返る。




「返事はまだか?」




 国家研究育成プログラム。


 あの日から、ずっと保留にしていた話。


 担任は、 少しだけ疲れた顔をしていた。




「お前の適性値なら、将来かなり上まで行ける」


「こんな機会、 普通は来ないぞ」





 優李は、すぐには返事をしなかった。


 窓の外を見る。


 灰色の雲。


 湿った風。


 校門の前には、いつもの送迎車が停まっている。


 真理亜が、静かにその中へ乗り込む姿が見えた。


 優李は、 小さく息を吐く。




「……行きます」




 担任が、少し驚いた顔をした。




「そうか」


「やっと決めたか」




 優李は、 曖昧に頷いた。


 別に。


 官僚になりたいわけじゃない。


 国家AI研究機構に、興味があるわけでもない。


 ただ。真理亜が、どんな世界で生きてきたのか。


 それを、一度ちゃんと見てみたいと思った。




 家へ帰る。


 母親は、話を聞いた瞬間、ぱっと顔を明るくした。


「本当に?」


「よかったじゃない」


「せっかく適性があるんだから」




 嬉しそうだった。


 安心したみたいに、何度も頷いている。




 父親は、黙ったままだった。


 しばらくして。


 父親は、珍しく角瓶へ炭酸を注いだ。


 氷の入ったグラスの中で、炭酸が細かく弾ける。


 琥珀色が、ゆっくり薄れていった。




「まあ」


 父親が、グラスを見たまま呟く。


「今の時代じゃ、そっちの方が正しいんだろうな」


 優李は、何も言えなかった。


 その言葉は、肯定にも、  


       否定にも聞こえた。


 父親も、昔はもっと違ったのかもしれない。


 でも。


 時代に合わせるうちに、少しずつ薄れてしまった。


 グラスの中の琥珀色みたいに。




 部屋へ戻る。


 ベッドへ腰を下ろし、スマホを開く。




【真理亜】




 トーク画面を見つめる。


 国家研究育成プログラム。


 真理亜がいた場所。


 真理亜を、閉じ込めていた場所。


 優李には、まだよく分からない。




 でも。


 一度くらい、ちゃんと見てみようと思った。


 指が動く。


『俺、育成コース行くことにした』


 数秒後。


 既読がつく。


 返信は、すぐには返ってこなかった。


 優李は、しばらくその画面を見つめる。


 それから。




 ゆっくり通話ボタンを押した。


 呼び出し音が、静かな部屋へ響き始める。


 白い画面の中で、天音真理亜の名前が静かに光っていた。




(第十一話『スクランブル』 終)

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