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最適化された不幸 ―5歳で人生が決まる世界で、18歳の俺だけ未診断だった―  作者: uchiprpr


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第十四話『イレギュラー』

第十四話『イレギュラー』


 育成コース二日目。


 優李は昨日より少しだけ早く教室へ着いた。


 教室の空気は相変わらず静かだった。


 誰も雑談しない。


 誰も騒がない。


 全員が端末を見ている。


 まるで試験前みたいだ。


 いや。


 試験前だって、

 ここまで静かなことはない。


 普段のクラスでも。


 誰かが話していて。


 誰かが笑っていて。


 誰かが寝ている。


 それが普通だった。


 この教室には、

 それがなかった。


 教師が入室する。


 全員が立ち上がった。


「本日の行動規範を復唱します」


 生徒達が一斉に口を開く。


「最適な選択は、

 最適な未来を作る」


「個人の幸福は、

 社会の幸福に含まれる」


「感情は尊重する。

 だが判断は数値に従う」


 教室に揃った声が響く。


 誰かに怒鳴られているわけじゃない。


 強制されているわけでもない。


 それなのに。


 見えない電波みたいなものが、

 頭の奥へ流れ込んでくる気がした。



 最初の授業は政治経済だった。


【国家AI導入後の経済効果を分析せよ】


 端末に課題が表示される。


 その瞬間だった。


【関連資料を表示します】


【人口推移】


【税収変化】


【出生率】


【雇用率】


 次々と情報が流れてくる。


 正直に言えば。


 面白かった。


 政治経済なんて、

 今まで一番苦手な科目だった。


 それなのに。


 教師の説明も。


 端末の資料も。


 不思議なくらい頭へ入ってくる。


 人口減少。


 社会保障費。


 税収。


 全部が一本の線で繋がる。


 理解出来る。


 というより。


 理解させられているみたいだった。


 それでも。


 面白いと思ってしまった。


 周囲を見る。


 全員が同じ資料を見ていた。


 全員が同じ答えを書いていた。


 全員が同じ方向を向いているように見えた。


 その光景に。


 少しだけ息苦しさを覚えた。



 昼休み。


 佐伯が机へやって来る。


「どう?」


「育成コース」


 優李は正直に答えた。


「思ったより面白い」


「だろ?」


 佐伯が笑う。


「みんな最初はそう言う」


 優李は首を傾げた。


「最初は?」


「いや」


 佐伯は肩を竦める。


「なんでもない」


 それ以上は話さなかった。



 午後。


 優李は昨日の男子生徒を見つけた。


 再評価対象になった生徒だ。


 何事もなかったように席へ座っている。


 ただ。


 一つだけ違うところがあった。


 リュックに付いていたキーホルダーが、

 一つも無くなっていた。


 優李は思わず声を掛ける。


「あれ」


「キーホルダーは?」


 男子生徒は少し考えた。


「不要との判断に同意しました」


「集中力を阻害していたので」


 それだけだった。


 悲しそうでもない。


 怒っているわけでもない。


 むしろ。


 納得しているように見えた。


 優李は返事が出来なかった。



 放課後。


 真理亜と並んで歩く。


「再評価って」


 優李は前を向いたまま聞く。


「みんな受けるのか?」


 真理亜は少し考える。


「受ける人もいるわ」


「珍しくはない」


 優李は昨日の男子生徒を思い出した。


 そして山岸を。


「お前は?」


 真理亜の足が少しだけ止まる。


 沈黙。


 数秒。


 それから。


「……一回だけ、あるわ」


 優李は思わず顔を上げた。


 真理亜は前を向いたままだった。


 風が吹く。


 黒髪が揺れる。


 優李は言葉を失う。


 真理亜が何を失い。


 何を残してきたのか。


 まだ分からない。


 ただ。


 夕日に照らされた横顔が。


 少しだけ遠く見えた。


(第十四話『イレギュラー』 終)

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