表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/12

7 白夜②


 十メートル前から近付いてくる彼が、私を殺そうとしていることには気付いていた。

 いつもの尻からげした着物ではなく、変装した姿。


 あともう少しで彼の間合いに入る。その一歩前で私から彼に近付いた。

 サファイアがこぼれそうなくらい目が見開かれる。

 ほんの一瞬だけ見覚えのある瞳が戻る。

 ――すぐに消えた。無機質な瞳。


 冷えた瞳で私を捕らえ、機械的に足で私の足を払おうとする。

 その場で飛び、彼の肩に手を置いた反動で、宙を跳ねることでかわす。

 私が手を置いた肩に、わずかに意識が向く。

 宙から地面に落ちる前に彼の肩にもたれるように、両腕を預ける。

 


「……虎燈」



 こちらを向いた彼の目に色が戻る。が、それはほんの一瞬。また、すぐに無機質なそれになる。

 背後の私をなぎ払おうと、くるりと回転し、浮いた私の胴体に仕込み刃をふりかざす。

 それも彼の背中を蹴ることで回避する。

 彼の肩を足場にして私はそこから屋根をつたった。



「やっぱり私のこと分からないのかな」


 胸元のサファイアを握りながら、誰に充てるでもなく独り言ちる。


 彼は私の知ってる彼じゃないのかもしれない。

 なんで私のこと分からないのかな。

 何度生まれ変わっても、一緒にいたのに。



 一瞬見せる表情や仕草が、どうしようもなく私の大好きな彼だから。

 私は彼に殺されたくも、彼と殺し合いたくもない。

 それに、私はもう、誰のことも殺したくはない。



 いつか私に気付いてくれるかな。


(でも、私だって彼のこと言えない)




 前世よりも前の彼との時間は、最期の瞬間も覚えている。


 何気ない時間を一緒に過ごすことが、何よりも大切な時間だった。

 何度生まれ変わっても、その続きを永遠に過ごしたい。

 そう思える時間。


 

 だけど、一つ前の生の記憶は曖昧だ。

 彼と約束の日、約束の場所で落ち合って、一緒に遊んで、一緒に鍛錬もして……。

 私は彼と殺し屋になった。

 彼の背中を守りながら、日本刀で敵を切りつけていく。


 初めて人を切った感覚は忘れられない。

 刃先から伝わる肉塊を切る感覚。

 絶望に歪む敵の顔。

 吹き出る赤黒い血。


 血飛沫が顔にかかり、訳も分からず涙が溢れ、それでも、守りたいもののために、それ以外を殺していく。



 私の手は汚れた。

 何度洗っても取れないその手の汚れは、彼に包まれると少しだけ綺麗になった気がした。

 でも、それも長くは続かない。


 ごはんは何かの命。みんな血が流れていて、明日を生きるために今日を生きぬいている。

 それを壊すのが私。


 ごはんが血の塊に見えて、食べても吐いてしまう。

 それでも、彼と生きたかった。

 だけど、何も考えられない日が増えていって……


 記憶がそこで途切れている。



 だけど、これだけははっきり言える。

 私は彼を愛してた。

 あれが愛じゃないなら、私はきっと()()から何も知らない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ