6 虎燈④
「おい、いつになったら白夜を殺れんだよ?」
こうして暁に発破をかけられるのはもう何度目だろうか。
「暁だって知ってんだろ? あいつ、妙に勘がいいんだよ。五十メートルは先から吹き矢飛ばしても、頭を少しずらすだけで避けやがるんだ。なんで気付く?」
「おめーの殺気がやべーからだろ」
「俺の殺気がやべーとしても、充分な距離があんだろ。普通の町娘はそんなもんに反応しねーし、できねー」
白夜の暗殺任務から既に1年が経とうとしていた。その間、俺だって遊んでいたわけではない。
初めての、あの木の下での出会いでは仕込み刃での攻撃。
白夜は少しの躊躇のあと、後ろに半歩飛ぶだけで回避した。
躊躇というよりも、着物を着ていたがゆえの行動の遅れの気がしないでもない。
そして、次は遠方からの吹き矢。
その他にも攻撃を仕掛けてみたが、全て躱されて今に至る。
「確かに、白夜のそういうところはすげーよな。ほら、あれなんだったっけ?」
「ほら、あれあれ!」と言いながら、愉快そうに暁は笑う。
「そうそう、虎燈が作戦練るのめんどくなって力技に出たとき!! 後ろから飛びついてよー。そんで、羽交い締めにして。首を折ろうとしたら、袴しか残ってなくって!」
きゃははは、と愉快そうに笑い転げていた暁がとまった。
「あれ……どうやったんだろうな……」
遠くを見つめる暁にゾクッとした。
「にしても、あのときの、ははっ、虎燈の呆然とした顔!!」
最近、気付いたことがある。
暁は白夜の話をするときだけ、これまでに見たことのない表情をする。
頬は色づき、破顔とでも言えばいいのだろうか、あの屈託のない表情は。
「白夜は闘ってもすげーからな」
ぼそっと独り言のように暁が言う。
「あ? 暁は白夜と闘ったことあんのか?」
「いや? ねーけど。あれほど先手打てるんだぜ? どう考えても強敵だろ」
「そう……だな」
暁が、とってつけように言葉を足すのも、白夜の話題のときだけだ。
「あのさ、暁」
「なんだ?」
ずっと考えていたことだが、伝えるとなると、喉が詰まった。
「俺、白夜を殺れる気がしない。客にも示しつかねーし、暁が変わってくれねーか?」
白夜を殺ることが独り立ちの試験だったはずだが、あまりに時間がかかる。
他の対象を宛がわれ、俺は早々に一人での任務にあたっていた。
白夜を俺の担当にし続ける意味が分からない。
それに。
白夜のあの潤んだルビーに見つめられると、少しの郷愁のあと胸が苦しくなる。
だけど、そのあと、何も考えられなくなってーー気付いたら任務は失敗に終わっている。
「あぁん?」
凄むような力強い暁の目に圧倒される。
なぜか、こいつには逆らえない。
勝てる気がしない。
「これは、お前の、任務だ。分かったな?」
「……はい」
俺は、白夜を、殺す。




