3 虎燈②
「お前ならできるからだよ」
暁が言った言葉はその通りだった。
気付いたときには殺し屋になるべく訓練をしていた俺は、見聞きしただけでその技を実践できた。
体がその動きを覚えいている。いや、染みついていると言った方が正しいだろうか。
対戦訓練でも、相手の動きが遅すぎて、話にならない。
どれだけ熟練した相手でも同じだ。
暁が相手のときだけ、本気で戦うことができた。
手首には仕込み刃、踵には刃、胸元には吹き矢。
俺が身につけるものはすぐに、殺し屋のそれになった。
初めての任務は、暁と出会って二週間後のことだった。
二人で背中合わせに敵を殲滅していく。
暁が正面の敵を日本刀で切りつける。
その反動のまま、刃渡り七十センチ範囲内の敵を切っていく。
俺は暁の反動に合わせて、身を翻し、暁の間合いの外からくる敵を、踵の刃と仕込み刃でなぎ倒していく。
「やっべー。俺ら最強じゃね?」
「あぁ、そうだな」
互いに片手を挙げ、手を合わせる。
暁は強かった。背中を任せるに十分な相手だ。
何度も暁と組んで任務をこなす。
だけど、ふと、違う相手が過ることがあった。
暁じゃない相手と組んで、敵を殲滅する残像。
風のように舞いながら日本刀で敵を切りつけていく。
ふわっと吹いた風に長い髪が揺れ……。
「おい! 虎燈! なにぼさっとしてんだ! 行くぞ!」
「おぉ」
長い髪の持ち主は、暁ではない。
その確信は、髪の長さが違うとか、体型が違うとか、そういう見た目の印象じゃない。
そいつと一緒にいる感覚が、暁といるときとはまるで違う。
俺は、その人を、すごく、守りた、かった、気が、する。
どうしよう、も、なく。
切ない、ほどに、愛し、かった。
苦しめ、て、いる、と、分かって、いた。
デモ テバナセ ナカッタ
――ごめんね
目の前で手を叩かれて、意識が戻る。
(俺は何を考えていたんだ……?)
「おい、聞いてんのか?」
むすっとした顔で暁が、目の前で手を振る。
「あぁ、わりぃ」
「ったく、いいか? 次の敵だ」
真面目な顔をした暁が、俺の顔の前に人差し指を向けた。
「今回はいつもと違う。お前が単独で任務を果たせるかの試験だからな」
「……敵は?」
顎だけで示され、俺は暁の後を追う。
着いたのは、一軒の茶屋だった。
木陰に隠れ、茶屋を覗き見る。
扉が開かれたままの店の前に、布を敷いた長椅子が置かれている。
客を出迎えに店から出てきたのは、俺らとそう変わらない年の頃の少女だった。
着物を着たその少女は、客に「白夜」と呼ばれていた。
その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
「あの、白夜って子が今回の敵だ」
「え……?」
これまで、敵として戦ってきた相手は誰も大人だった。
直接の敵ではないが、誰かの敵を請け負って戦っていた。
だが、あの少女が誰かの敵だとして、なぜ、高い銭を払ってまで殺そうとするのか。
皆目見当がつかない。
なにより、あの白夜を敵と認めることに強い抵抗を感じた。
「……なんで、あんなガキ殺すんだよ」
「仕事だからだ」
耳の奥につんざくような高い音が聞こえる。
目が、まわ、る。
「いいか、分かったな? 虎燈はあの白夜って子を殺す。任務だからだ」
「……はい」
響くような高い音が消え、目の焦点が合う。
「決行は三月七日。場所は……、当日連れて行ってやる」
「……俺の誕生日だ」
「あぁ、虎燈の十歳の誕生日だろ? ババアにお前の好きなもん、たくさん作らせておくから頑張れよ。上手くいけば、お前の独り立ちの祝いも一緒にできるぞ」
誕生日はとても大切な日だった気がする。
ーーが、その思考もすぐに何かにかき消えた。




