11 虎燈⑥
「死ね」
言葉を吐くたび、心の奥が軋む。
もう1人の俺が、悲鳴をあげている。
俺は、白夜を、殺したくない
その感情はすぐに何かにかき消される。
頭の中が灰色に濁って、もう何も見えない。
なぜ暁は自分で殺らない。
そんな疑問もすぐに灰色の中に溶けていく。
俺はどうしたいのだろうか。
あの時、暁の差し出した手をとらなければ……。
後悔することに意味がないことは知っている。
だけど、感情を少しの間だけでも自分の中に留めておきたくて、考えることをやめられない。
――白夜だ。
気付けば、白夜と初めて会った場所に来ていた。
木の幹に耳を当てている白夜の後ろ姿を見て、なぜだか「愛しい」と頭に浮かぶ。
ーーが、それもかき消される。
もう何を考えていたのかも分からない。
俺の感情を揺さぶるのは白夜だけだ。
白夜のことを考えたときだけ、自由がなくなる。
何かに縛られて動けなくなるような拘束感。
地面を蹴り、白夜の後ろに音もなく着地する。
きっと、白夜は俺が後ろにいることに気づいている。
心の内に灯った火が大きくなっていく。
お前は、白虎を、殺すんだ
お前が、白夜を、殺すんだ
――俺が、白夜を、殺す
頭からつま先まで熱を持ったように熱い。
形容し難い怒りが白夜に向かう。
「死ね」
白夜が泣きそうな顔で微笑んだ。
構わず、腕を振りあげた。
どこからともなく飛んできた日本刀が土に突き刺さった。
白夜は迷いのない動作でそれを手にとる。
日本刀の刃が白夜の胸に呑まれていく。
苦しそうな呼吸音が聞こえる。
日本刀を抱えこむように背中を丸めていく。
首元からサファイア色の石が覗いた。
(俺の瞳と同じ色の……)
何かが溢れ出す。
約束の木の下
俺と白夜。
手を握り、おでこをつけて、微笑む。
俺を見つけて愛しそうに微笑む白夜。
泣きながら日本刀を振り翳す。
何度も手を洗う。
痩せ細っていく。
大丈夫だよ、
無理に笑う
その瞳はなにもうつさなくなってーー
「ごめんね」
違う。
違う。
俺が間違った。
自分のほうが辛いくせに。
隣にいてくれるだけで幸せなのに。
俺が彼女を不幸にする。
「またね」
2人の最期の言葉。
来世の約束はない。
俺はどうしたら……!!
「またね」
白夜の声にハッとする。
掠れた声。
涙を流しながら、でも嬉しそうに微笑む。
白夜だ。
なんで、こんな大事なことを……!!
俺は、忘れて……
背中を丸めて動かない白夜を、膝の上に乗せた。
青白い肌。
上がった口角から垂れる赤い血。
濡れた頬に触る。
まだ温かい。
涙が頬をつたう。
「またな」
仕込み刀を手に持った。
心臓めがけて、いっきに突き刺した。




