第7話:昇格試験! 泥塗れの奇策と、再会の太刀
「よーし二人とも、今日がEランクへの昇格試験当日だ。気合入れろよ!」
ギルド裏の訓練場。試験官を務めるベテラン冒険者の前で、俺は気合を入れ直した。
試験内容は、指定エリアに生息する魔獣**『アーマーベア』**を討伐、あるいは戦闘不能にすること。
「大翔、準備はいい? 私の『キラキラお星様』で、ドカーンと道を作ってあげるからね!」
ユフィがポニーテールを揺らし、自信満々に杖を掲げる。
「ユフィ、お前は俺の合図があるまで待機だ。カスミ、俺の回避に全振りでバフを頼む!」
「了解です、先輩! 『聖なる守り(プロテクション)』!」
試験官の合図とともに、俺たちは森の奥へと踏み込んだ。
◇
「グルゥァァァ……ッ!」
目の前に現れたのは、全身を鉄の針のような剛毛で覆われた巨躯、アーマーベアだった。
「硬ぇ!? アイアンツインブレードが弾かれる!」
俺の『力:E+』では、まともに斬り合っても勝ち目はない。ベアが丸太のような腕を振り回すたび、死の予感が背筋を走る。
「あわわ、大翔! 私が、私がやるーっ! 『流星群よ、降ってこーい!』」
ドォォォォン!!
ユフィが放った超高火力の光弾は、ベアの鼻先を掠め、背後の巨大な岩山を跡形もなく消滅させた。
「……試験官の顔が見てぇよ。今のは絶対減点だろ!」
「先輩、文句言ってる暇ありません! 来ます!」
絶体絶命。だが、俺の真骨頂はここからだ。
俺は双剣を鞘に戻し、地面から「木の枝」を拾い上げた。
「試験官さん、見ててくれ。これが俺の戦い方だ!」
俺は枝の先端に、カスミが用意した粘着液を塗りつける。
「ターゲット、鼻の穴と耳の穴! 必中スキル、発動!」
シュパパッ! と空気を切り裂き、泥と粘液塗れの枝がベアの顔面に突き刺さる。
「グガッ!? ギ、ギィィッ!?」
視界と呼吸を塞がれ、のたうち回るベア。さらに俺は、ベアの足元に枝を投げ込み、関節の動きを強引に阻害して動きを止めた。
「よし、無力化完了! ユフィ、今度こそ中心を――」
その時、森の空気が一変した。
凛として、一分の隙もない、圧倒的な「静寂」。
茂みを割って現れたのは、一切の無駄がない身のこなしの侍。腰に差した日本刀の鞘を鳴らし、彼は静かに歩んできた。
「大翔……。貴様、異世界に来てまで、そんな泥塗れの小枝を振るっているのか」
「……えっ?」
その声を聞いた瞬間、俺の記憶が十数年前へと引き戻された。
道場の冷たい床、厳しくも温かい指導、そして俺が一番憧れた背中。
「せ、誠十郎兄ちゃん……!?」
思わず、幼い頃の呼び名が口をついた。
誠十郎さんは、呆れたように溜息をついたが、その瞳には確かに再会を喜ぶ色が宿っていた。
「……修行不足だな。まずは、目の前の敵を片付ける」
誠十郎さんは静かに刀の柄に手をかけた。試験官が「待て、介入は――」と言う暇もなかった。
「香取神道流、巻雲」
一閃。
音も光も置き去りにした抜刀。
次の瞬間、俺たちが死に物狂いで足止めしていたアーマーベアが、静かに崩れ落ちた。
「……え」
ユフィが杖を構えたまま固まる。
「……はえぇ。てか、試験対象が……」
カスミが絶句する。
誠十郎さんはパチンと音を立てて刀を納めると、俺の目の前まで歩いてきた。
やっぱり、相変わらずかっこいい。その端正な顔立ちも、一分の隙もない立ち居振る舞いも、俺の知る誠十郎さんそのままだ。
「大翔。再会の挨拶の前に、その薄汚い枝を捨てろ。……それとも、もう一度最初から稽古をつけてやろうか?」
「……。い、いや、これは俺の立派な武器で……」
俺は一瞬、昔のように誤魔化そうとしたが、今の自分はもうあの頃の子供じゃない。
「……すみません、誠十郎さん。でも、俺はこの『邪道』で、仲間と一緒にここまで来たんです」
俺が真っ直ぐに見返すと、誠十郎さんは少しだけ驚いたように目を見開き、それからフッと口角を上げた。
「……ほう。少しは大人になったようだな。よかろう、その覚悟、後でじっくり聞かせてもらおうか」
こうして、俺のEランク昇格試験は、伝説の師範代との「衝撃の再会」という形で幕を閉じたのだった。
続く
面白いと思ったら、下の☆で評価していただけると励みになります




