第62話:爆食の聖騎士! ゼニス大食い大会と、消えゆく山盛りの山
「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 魔港都市ゼニス名物『大食い王決定戦』の始まりだぁ! 今年の優勝賞金は金貨10枚! 胃袋自慢の猛者どもよ、かかってきなさい!」
実況の威勢のいい声が、潮風に乗って響き渡る。
特設ステージの上には、並み居る巨漢の漁師たちに混じって、一人だけ場違いな白銀の美貌が鎮座していた。
「……。……大翔さん。見ていてくださいませ。……。今、私の目の前にあるこの海鮮の山は、誠十郎様へと至る険しき道のりに他なりません。……。私は、この試練(お食事)をすべて飲み込み、次なる境地へと至ってみせますわッ!」
マリアはヴァルキリー・ドレスの籠手をカチャリと鳴らし、聖なる箸を構える。その瞳には、かつてオーガキングを討伐した時以上の覚悟が宿っていた。
「……。マリアさん、気合の入れ方がおかしいぞ。……。でも、頼むから勝ってくれ。俺の財布はもう、銀貨の小銭しか入ってないんだ」
俺が切実な願いを込めて見守る中、ユフィが隣でポンポンを振って応援を始める。
「頑張れー、マリアさーん! 全部食べたら、デザートにパフェも頼んであげるからね!」
「あはは、ユフィさん。それは火に油を注ぐようなものですよ。……。ほら、先輩。マリアさんの背後に『大食いの女神』の後光が見えませんか?」
カスミが俺の肩を叩きながら、ステージ上の異様な光景を指差す。
開始の鐘が鳴った瞬間、戦場は修羅場と化した。
【実戦:胃袋の『聖華の舞』】
「うおおおおおッ! 誠十郎様ぁぁぁ!!」
マリアの箸が、もはや視認できない速度で動き出す。
山盛りの海鮮丼、巨大な焼きイカ、そしてバケツのような深皿に入ったブイヤベース。それらが、次々とマリアの小さな口へと吸い込まれていく。
「な、なんだあの娘は!? 噛んでるのか!? 飲み込んでるのか!? まるでダイソンの掃除機……いや、魔導吸い込み機だ!」
周囲の漁師たちが、あまりの勢いに圧倒されて箸を止める。
マリアの回避タンクとしての特性――「最小限の動きで最大の効率を生む」技術が、まさかの「咀嚼と嚥下」に応用されていた。
「これこそが、誠十郎様から学んだ『無駄を削ぎ落とした剣理』の応用……! ――店主、おかわりですわッ!!」
「マ、マリアさん、格好いいけど言ってることの半分以上が間違ってる気がするよ!」
ユフィが苦笑いしながら応援を続ける。一方、カスミは冷静にライバルたちの残量を計算し、マリアへ的確な「バフ(応援)」を飛ばしていた。
「マリアさん、右の漁師がペースを上げています。……。次は一番重い揚げ物メニューを先行して片付けましょう。……。先輩、優勝は硬そうですね」
【エピローグ:勝利と、その後の悲劇】
結果は、マリアの圧勝だった。
二位にトリプルスコアの差をつけ、彼女は涼しい顔で優勝賞金の金貨10枚を手にした。
「……。……ふぅ。……。誠十郎様、私はまた一つ、己の限界を突破いたしましたわ……。……。大翔さん、約束の賞金ですわよ。これで今夜は、更なる豪華なディナーが頂けますわね!」
マリアが満面の笑みで金貨を差し出してきたが、俺はその言葉の後半を聞き流せなかった。
「……。……いや、マリアさん。今、これだけ食べたばかりだろ?」
「大翔さん、何を仰るのです。……。これは『競技』としての食事。……。私の『胃袋(愛)』は、常に次の獲物を求めているのですわッ!」
俺は手にしたばかりの金貨を見つめ、再び溜息をついた。
Bランク冒険者『白星の枝』。俺たちの戦いは、魔物だけでなく、仲間の底知れぬ食欲とも続いていくようだ。
その時、俺たちの背後の影から、懐かしい「気配」がふわりと通り過ぎた気がした。
「……。? 今、誠十郎さんの匂い(団子の香り)がしなかったか?」
「あはは、大翔、考えすぎだよ。誠十郎さんがこんなところにいるわけないじゃん!」
ユフィの笑い声と共に、俺たちは賑やかなゼニスの夜へと繰り出した。
(第62話・完)
本日の戦利品
* 賞金: 金貨10枚(うち3枚は、マリアの「夜食」に消えることが確定)。
* マリア: ゼニス大食い界の伝説となり、出入り禁止にならないか心配される。
* 大翔: 財布に一時的な平穏が戻るが、精神的疲労は蓄積。




