第61話:幕間・魔港都市の「掃除」と、静寂の一閃
魔港都市ゼニスの裏通り。潮風も届かぬほど入り組んだ路地の奥に、不気味な紋章を刻んだ教団の拠点があった。
そこでは『虚空の教団』の幹部たちが、大翔たちを誘い出し、誠十郎を釣り出すための謀略を練っていた。
「ククク。……。誠十郎の弟子がここへ向かっている。……。奴らを餌にすれば、あの孤高の侍とて姿を現さざるを得まい」
「左様。奴は独り身。……。守るべきものができた時こそ、隙が生まれるというもの……」
だが、その会話は一瞬で途切れた。
部屋の隅、影の中から一人の男が、いつの間にか椅子に座って団子を口にしていたからだ。
「……。……。隙、か。……。俺を語るには、少々言葉が軽すぎるな」
「っ!? 誰だ貴様、いつの間に……!!」
男がゆっくりと立ち上がる。月明かりに照らされたその端正な横顔は、教団の者たちが死ぬほど恐れていたあの男――誠十郎だった。
【誠十郎の「稽古」:理外の剣】
「誠十郎ッ! おのれ、自ら死地に飛び込むとは……!!」
数十人の教団信徒が一斉に武器を抜き、彼を取り囲む。
だが、誠十郎は刀を抜くことさえしなかった。彼は食べ終えた団子の「串」を、静かに指先に挟んだだけだ。
「大翔たちに手を出すと言うなら、俺も相応の『礼』をせねばならん。……。安心しろ。殺しはせん。……。少しばかり、剣を振るうことの重さを教えてやる」
誠十郎が、ただ一歩踏み出した。
(――ザッ)
その瞬間、空間が歪んだかのような錯覚が走る。
誠十郎が指先で振るった「竹串」が、空気の層を切り裂き、信徒たちの武器を、服を、そして彼らの「戦意」を、文字通り一瞬で解体した。
「な……がはっ……!?」
何が起きたのかさえ理解できないまま、信徒たちは崩れ落ちる。
誠十郎の剣技は、もはや魔力や術式といった概念を通り越し、世界そのものの「結び目」を解くような、静謐な極致に達していた。
【エピローグ:残された「忠告」】
わずか数秒で、教団の拠点は沈黙した。
誠十郎は、手元に残った竹串を、幹部の机に突き立てた。
「……。俺の弟子たちがこの街を楽しむ間、無粋な真似は慎め。……。次は、串ではなく刃が届くぞ」
誠十郎は、振り返ることなく拠点を後にした。
彼の背後では、崩れ落ちた信徒たちが、恐怖で指一本動かせずに震えていた。
「さて。……。あいつら、今頃は何をしている。……。マリアの奴、また大翔の財布を空にしてはいまいな」
誠十郎は、夜のゼニスの街並みを見下ろし、小さく溜息をついた。
その視線の先には、賑やかな笑い声が響く大食い大会の会場があった。
(第61話・完)




