外伝:【抜刀の記憶】誠十郎、異世界に大翔の影を見る
「……ここが異境の地か。磁場の歪みがこれほどの事態を招くとはな」
俺は静かに、愛刀『一竿子忠綱』の鯉口を切って周囲を検分した。
数刻前まで茨城の山奥で滝に打たれ、香取神道流の奥義を練っていたはずが、気づけば見知らぬ原生林の中だ。
「そなたに、この世界を救うための力を授けよう」
脳裏に響く、自称・女神という女の声。
俺は一考だにせず、ただ一言、断りをいれた。
「無用。武士が己の身を護り、人を助けるのは、血の滲むような鍛錬の結果であるべき。天から降ってきた力など、我が剣筋を濁らせるのみ。……消えろ」
「えぇっ!? ちょ、ちょっと、待って……!」
騒がしい声を黙殺し、俺は歩き出した。
神から与えられたデタラメな能力など、俺の「道」には必要ない。俺にあるのは、これまで流した汗と、この一振りのみだ。
【誠十郎】
ジョブ: 侍
スキル: なし(女神の加護を拒否)
ステータス:
力: B+
器用さ: A
魔力: G
素早さ: B
体力: B
魔法耐性: F
幸運: D
「グルルル……!」
道中、何度も数多の魔獣に襲われた。
腰を落とし、呼吸を整え、ただ一閃。
魔法もスキルも介さない、純粋な「技」だけで、俺はそれらを斬り捨ててきた。
数日が経ち、俺は近隣の街にたどり着いた。
そこで耳にしたのは、ギルドの冒険者たちが酒場で話していた奇妙な噂だ。
「……信じられるか? 落ちている『木の枝』を投げて、ポイズンスライムの核を百発百中で射抜く新人がいるらしいぞ」
「しかも、あざとい巫女を連れて、へらへら笑いながら泥を塗った枝を投げてたってよ。戦い方は最悪だが、妙に手際がいいんだとか」
その話を聞いた瞬間、俺の背筋に懐かしい感覚が走った。
「木の枝……、泥……」
脳裏に蘇るのは、かつて俺が師範代をしていた道場に通っていた、ある少年の姿だ。
基本の素振りをサボり、どうすれば最小限の力で勝てるか、どうすれば相手を出し抜けるか――。
そんなことばかり考え、俺に「誠十郎兄ちゃん、泥とか目潰しって武士道的にアリ?」と聞いてきては、俺に正拳突きを食らっていた、あのお調子者。
「大翔……か。間違いない。あのアホな戦い方は、あいつだ」
あいつがこの世界に来ている。
しかも、相変わらず剣を振るうことよりも、奇策を弄することに心血を注いでいるらしい。
「ふっ……。あの泣き虫が、この過酷な異世界で生き残っているとはな」
俺の口角が、無意識に少しだけ上がった。
あいつは昔から、窮地に陥るほど汚い手……いや、機転を利かせる男だった。
「待っていろ、大翔。貴様がまだ、あのような『邪道』に甘んじているというのなら……俺がもう一度、叩き直してやる」
俺は刀を背負い直し、夕闇に染まる街へと踏み出した。
この世界の魔王だか何だか知らぬが、俺の『道』と、あいつの『機転』が合わさった時、どのような景色が見えるのか。
少しばかり、興味が湧いてきた。
(続く)
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