外伝︰剣聖、王都に帰還す! 爆発する淑女たちの熱視線
王都の正門。鎧の擦れる音と、喧騒の中に「その男」が現れた瞬間、空気が凍りついた。
腰に差した漆黒の刀。返り血一つない純白の道着。そして、厳しい修行で削ぎ落とされた、彫刻のように整った容姿。
誠十郎が静かに一歩を踏み出すたびに、周囲の女性冒険者や町娘たちから、悲鳴に近い吐息が漏れる。
「……。なんだ、この視線は。……。刺客か?」
誠十郎は眉をひそめ、無意識に刀の柄に手をかけた。レベル35の「気配察知」が、周囲数メートルから放たれる**『猛烈な好意(物理)』**を攻撃と誤認しそうになる。
「――きゃあぁぁ! 誠十郎様がこっちを見たわ!」
「あのストイックな目つき……! 斬られたい! いっそ、その眼光で射抜かれたいッ!」
「……。物騒な街になったものだ。大翔たちは、よくこのような環境で生き延びているな」
誠十郎は溜息をつき、目的地の甘味処『うさぎ屋』を目指して歩を進める。だが、その背後にはいつの間にか、王都中の貴族令嬢から洗濯女までが連なる「大名行列」が出来上がっていた。
【受難:甘味処での一幕】
店に到着し、誠十郎は隅の席に腰を下ろした。
「……三色団子を三皿。それと、濃い茶を頼む」
「は、はいぃぃ! 誠十郎様のための特注、今すぐお作りしますッ!」
看板娘が、顔を真っ赤にして厨房へ転がり込む。
誠十郎は周囲の視線を遮断するように目を閉じ、精神統一を図る。だが。
「あの、誠十郎様……! 私は隣国の伯爵家のもので……この、手作りのお守りを受け取って……!」
「誠十郎様! ぜひ我が道場の特別師範に! 娘たちは全員、準備ができております!」
「……。断る。俺の剣は、女の手習いを教えるためには鍛えておらぬ。……。下がれ。茶の香りが濁る」
誠十郎が静かに、だが凛とした声で一喝する。
普通なら心が折れる冷たさだが、今の王都の女性たちは違った。
「――『下がれ』って言われたわ! ご褒美よ! ゾクゾクするわぁ!」
「『茶の香りが濁る』……! なんて高潔な精神……! 素敵すぎるッ!」
誠十郎は、絶望したように団子を口に運んだ。
(……。やはり山に戻るべきだったか。大翔、貴様、この状況をどうにかしろ)
【逃走:屋根を駆ける剣聖】
ついに包囲網が店の入り口を完全に封鎖した。誠十郎は、団子の代金をきっちり置き、無言で立ち上がる。
「――『縮地』」
(シュパッ!!)
次の瞬間、誠十郎の姿は店内から消えていた。
王都の屋根の上。一般人には視認すらできない速度で、誠十郎は影となって駆け抜ける。
「……ふぅ。……。魔物との死闘より疲れる。……。奴らの『欲』の気配、Aランクのブレスより回避が困難だ」
誠十郎は、ギルドの裏庭にそびえる大樹の枝にひらりと降り立った。
そこからは、ちょうど新装備に身を包んだ大翔たちが、意気揚々と馬車に乗り込む姿が見えた。
「……。行け、大翔。……。俺が惹きつけている間に、貴様らは貴様らの道を往け。……。それと、後でこの『差し入れ』代、しっかり請求させてもらうぞ」
誠十郎は、自嘲気味に微笑むと、懐から取り出した「団子の包み」を、大翔たちの馬車に音もなく投げ入れた。
【本日の誠十郎リザルト】
* 誠十郎: レベル35。カリスマ:EX。
* 被害: 王都の団子屋の在庫が完売(誠十郎が食べたのと同じものを頼む女性が続出したため)。
* 備考: 誠十郎が座った椅子は、後に「聖地」としてギルドに寄贈される予定。
「……さて。……。追っ手が来る前に、俺は俺の修行に戻るとしよう」
誠十郎は再び、誰も追いつけない「孤高」の闇へと消えていった。
(続く)
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