第35話:祝・昇格! 師匠の金で食う焼肉は、世界を救う味がする
王都でも最高級の呼び声高い焼肉店『ドラゴンの胃袋』。
普段なら冒険者が一生かかっても縁のないような店構えだが、今の俺たちには「誠十郎の軍資金」という名の無敵の盾がある。
「いらっしゃいませ。……えっ、冒険者の方々? 当店は予約制でして……」
店員が怪訝な顔をするが、俺はガランの工房で余った「誠十郎の金貨袋」をカウンターにドン、と置いた。
「予約はない。だが、この金貨が納得するだけの肉を持ってきてくれ」
「……っ!? ひ、ヒヒッ、左様でございますか! 特等席へご案内いたしますッ!」
店員の態度が光速で180度転換した。金の力、恐るべし。
【地獄の宴:マリアのブラックホール】
「リーダー……見てください、このサシの入り方! まるで白銀の鎧のような輝き……。ああっ、焼ける音が『早く食べて』と私を呼んでいます!」
マリアが、新調したばかりの『ヴァルキリー・ドレス』の袖をまくり上げ、トングを二刀流で構える。その姿は戦場よりも遥かに猛々しい。
「マリアさん、それまだ生……」
「――『絶技・音速咀嚼』!!」
(バクッ! ゴクンッ!)
「……はふぅ。……天国です。誠十郎さん、私、この肉のために騎士を続けてよかったです……」
マリアが頬を赤らめ、うっとりと天を仰ぐ。その横顔は確かに美しいが、手元の網からは一瞬で肉が消え去っていた。
【ユフィの杖:文明の利器】
「……大翔、見てみて! 新しい杖『アルテミス』、火加減の調整がすっごく楽だよ!」
ユフィが聖杖を網にかざす。世界樹の若枝から放たれる神聖な魔力が、高級肉をムラなく完璧なミディアムレアに焼き上げていく。
「ユフィ、それは魔物を滅ぼすための杖だぞ……」
「……えへへ。でも、この杖に変えてから、網の端っこの野菜までシャキシャキに焼けるんだもん。ほら、大翔もあーん!」
「……。先輩。ユフィさんの『あーん』を無防備に受け取るとは、いい度胸ですね?」
横から、氷のような温度の声が響いた。カスミだ。
【カスミの護符:あざとい有効活用】
カスミは新調した『霊糸の法衣』の裾を直し、俺の太ももに指先でスルスルと何かを書き込み始めた。
「……ちょ、カスミ、何して……」
「――『清涼の術式・手書き版』です。……店内が暑いでしょう? 私とこうして密着していれば、私の冷たい魔力が先輩に流れ込む仕組みです。……あざとい? いえいえ、これは装備の初期不良チェックですよ(クスクス)」
「……。先輩、肉の脂を拭くフリをして私の胸元を凝視しましたね? 術式でバレてますよ。……。罰として、次の特上タンは私の口に運んでください」
「……。ねえ、カスミ。ずるいよ! 私も大翔に食べさせてあげたいのに!」
「……ユフィさん。火力調整に忙しい方は、野菜でも焼いていてください」
【その頃、絶天峰の誠十郎】
(クシュンッ!!)
雪山の頂で、誠十郎が盛大にくしゃみをした。
「……。誰かが俺の噂をしているな。……。まあいい。あの馬鹿弟子たちのことだ、今頃は新しい装備を手に、武道の真髄について語り合っていることだろう」
誠十郎は満足げに頷き、凍りついた干し肉を静かに噛み締めた。
その軍資金が、今まさに王都で「肉の山」と「女の戦い」に消えていることなど、知る由もなかった。
【本日のリザルト(?)】
* 大翔: 胃もたれ気味。女二人の視線に挟まれ、防御力が微増。
* マリア: 体重計に乗るのを拒否。幸福度がカンスト。
* ユフィ: 杖の新しい用途(調理器具)を開拓。
* カスミ: 店の伝票をこっそりチェックし、誠十郎の残金で「お揃いの寝具」を買おうと画策中。
「……はぁ。食った食った。……。さて、明日からはCランクとしての初仕事だ。……マリアさん、寝るな! 店の入り口で寝るな!」
「……むにゃ。……リーダー、おかわり……お肉の……鎧を……」
こうして、俺たちの平和(?)な一夜は更けていった。
続く
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