第32話:8階層・鏡像の魔! 自分自身を越えていけ
『翠玉の虚空』第8階層――「鏡像の広間」。
四方の壁が磨き抜かれた翡翠の鏡となっており、俺たちの姿を不気味なほど鮮明に映し出している。
「……っ、何これ。鏡の中の私が、勝手に動いてる……!」
ユフィが悲鳴に近い声を上げる。鏡の中から、俺たちと全く同じ装備、同じ構えをした「影」が這い出してきた。
「……先輩。……。私の計算によれば、あれは私たちのステータス、スキル、戦術を完全にコピーしています。……。あざとく猫をかぶっても、あっちも同じことをしてきますよ」
カスミが冷や汗を流しながら、残りの魔力で術式を編む。だが、鏡のカスミも全く同じタイミングで指を動かしていた。
「――お下がりください。……。自分と戦うのは、騎士の修行でも最も辛いもの。ですが、誠十郎さんに教わったはずです」
マリアさんが、熱風で焼けた大盾をあえて構えず、鏡の自分に向かって一歩踏み出した。鏡のマリアも同様に踏み出す。
「……。ステータスが同じなら、勝敗を分けるのは『経験』だ。……。俺たちは、この数日間で『苦手』と向き合ってきた。……。それは、たった今コピーされただけの偽物には真似できないはずだ!」
「ガァァァン!!」
鏡の大翔が、俺と全く同じ軌道で『枝』を投げてくる。
だが、俺はそれを避けない。あえて知力(Dランク)を使い、跳ね返る角度を計算して最小限の動きで受け流した。
「ユフィ、最大火力は出すな! 苦手な『氷』で足場を乱せ!」
「……うん! ――『氷結の床』!」
ユフィが、かつての彼女なら選ばなかったであろう、威力の低い氷魔法を放つ。鏡のユフィは最大火力の光魔法を用意していたため、滑る足場に対応できず、術式を暴走させた。
「今です! ――『逆転の型・重圧破』!」
マリアさんが、騎士学校では教わらない、誠十郎直伝の「重心をあえて崩す」回避から、鏡の自分の懐に飛び込んだ。偽物のマリアは、教科書通りの防御姿勢を取ったがゆえに、その変則的な動きに対応できない。
「……。先輩、トドメです。……。偽物の私には、先輩への『本当の想い』まではコピーできませんから」
カスミが、鏡の自分の術式を逆手に取り、二人の魔力を衝突させて霧散させる。
「必中スキル、発動。ターゲット――混乱した偽物たちの、唯一の連結点!」
俺は『極黒の枝』を、鏡像が作る虚像の隙間へと叩き込んだ。
【リザルト:8階層突破・レベルアップ!】
■ 大翔:Lv 27 → 28
* 知力:D → D+(コピーとの知恵比べに勝利し、さらに向上)
* 運:A → A+
* 備考: 投擲の精度に加え、戦場全体を俯瞰する「目」が養われつつある。
■ マリア:Lv 23 → 24
* 知力:E → E+(変則的な立ち回りを確立し、知力が向上)
* 素早さ:E+ → D(重装甲を感じさせない身のこなしにより、素早さがDランクへ)
* 備考: 凛とした美しさに加え、敵を翻弄する狡猾さを身につけ、騎士として一段上の境地へ。
■ ユフィ:Lv 22 → 23
* 体力:F → F+(連戦の疲労に耐え、基礎体力がさらに向上)
* 魔力:B++
* 備考: 「出力を抑える」という高度な魔力操作を実戦で完璧にこなした。
■ カスミ:Lv 22 → 23
* 体力:F → F+(魔力枯渇状態での踏破により、肉体が強化された)
* 知力:A / あざとさ:S
* 備考: 精神的な揺さぶりに打ち勝ち、軍師としての冷静さが不動のものに。
「……はぁ、はぁ。……。リーダー、私……偽物の自分に、勝てました」
マリアさんが、乱れた前髪をかき上げ、どこか吹っ切れたような笑顔で俺を見つめる。その瞳には、かつての迷いはなく、一人の女性としての力強い光が宿っていた。
「……。ああ、最高に格好良かったよ、マリアさん」
「……。先輩。勝って兜の緒を締めよ、です。……次は9階層、最深部。……。このダンジョンの守護者が待っています。……。装備はもう、限界を超えていますよ」
カスミが、俺のひび割れた『極黒の枝』と、マリアさんのボロボロの鎧を指差す。
だが、俺たちの戦意は、これまでにないほどに高まっていた。
「……行くぞ。Cランクの証、掴み取るんだ」
(続く)
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