外伝:【天を衝く刃】(上)――虚空の断罪者
絶天峰の中腹から頂へ至るまでの数日間、誠十郎が歩んだ道は、強者の骸によって舗装されていたと言っても過言ではない。
サイクロプスを討った後も、誠十郎の歩みは止まらなかった。
岩盤を飴細工のように噛み砕く『金剛の大百足』。
音速を越える羽撃きで真空の刃を放つ『風切の妖鳥』。
さらには、物理的な実体を持たず、魔導師ですら手を焼く『影の精霊騎士』。
これら地上では災厄と称されるAランクの魔物たちが、次々と誠十郎の前に立ちはだかった。
だが、誠十郎はただ静かに刀を抜き、一言放つのみであった。
「……悪いが、我が刃に『無効』という理は通用せん」
魔力を持たぬがゆえに、魔の理に縛られぬ剣。
誠十郎は数多の死闘を経て、その技を「異世界の法則」すら断ち切る次元へと昇華させていった。返り血を雪で拭い、息を整えること数千回。誠十郎はついに、この星の天頂へと辿り着いた。
そこは地上の理が霧散し、星の息吹が肌を焼く極高地。
薄い空気の向こうから、四枚の漆黒の翼を広げ、静かに降り立ったのは――『深淵の飛竜』。
知性を備え、獲物の絶望を糧とする、Aランク最上位の捕食者である。
「……待ちわびたか。あるいは、招かれざる客を葬る役目か。……。どちらにせよ、通らせてもらうぞ」
誠十郎は深く腰を落とし、呼吸を極限まで細く、鋭くしていく。
飛竜は咆哮すら上げない。ただ、巨大な翼を一閃させた。
(ドシュッ!!)
大気を切り裂く不可視の真空刃。
誠十郎は鞘に納めたままの刀で、その断絶の軌跡を「点」で受け流した。
火花が散り、鋼の鞘が悲鳴を上げるが、誠十郎の足は地を噛み、一歩も引かない。
「……っ、ふん……!」
飛竜は続けざまに上空へ舞い上がり、自由落下の加速を乗せた一撃を、誠十郎の脳門へと叩き込んだ。
(ドガァァァァァン!!)
頂の岩盤が粉砕される。
土煙の中から現れた誠十郎は、額から鮮血を流しながらも、その瞳に静かな愉悦を宿していた。
「……。面白い。これほどまでに理を尽くさねば当たらぬ相手、いつ以来か」
誠十郎の指が、ついに愛刀の柄に触れた。
続く
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