外伝:【静寂の断層】誠十郎、霧に潜む「歪み」を断つ
大翔たちがギルドマスターから依頼を受ける数日前。
誠十郎は、街から遠く離れた『迷いの森』の深部、そのさらに奥にある境界線に立っていた。
通常の冒険者が「怪異」と呼ぶ魔力の乱れ。だが、香取神道流の極みに至った誠十郎の目には、それが単なる魔物の仕業ではないことが明確に映っていた。
「……磁場の歪み、か。あの時と同じだな」
かつて自分が異世界へ飛ばされた瞬間の感覚。
この森の霧は、空間そのものが薄く剥がれかけ、異界の残滓が漏れ出している証拠だった。
(キィィィィィィン……!)
耳鳴りのような高周波と共に、霧の中から「それ」が現れる。
実体を持たず、光を歪ませながら高速で移動する半透明の影。ギルドが「姿なき怪異」と呼んだ、空間の裂け目から生じた変異種だ。
「……姿など、端から見てはおらん」
誠十郎は静かに目を閉じた。
魔法が霧に吸われ、視覚が狂わされるこの領域において、頼れるのは己の「五感」と、長年の鍛錬で培った「直感」のみ。
(シュッ……!)
背後から迫る、空気を引き裂く微かな音。
誠十郎は一歩も動かず、首をわずかに傾けてそれをかわした。直後、彼の頬を掠めたのは、物理的な刃ではなく「空間の断裂」そのもの。当たれば防具ごと消滅する一撃。
「……。遅いな」
誠十郎は愛刀『一竿子忠綱』を、鯉口を切り、親指一本分だけ抜き放つ。
相手は姿を見せず、物理法則を無視して縦横無尽に駆け回る。並の剣士なら、どこを斬ればいいか分からず翻弄されるだろう。
だが、誠十郎にとって「存在」とは、姿があるかないかではない。そこに「殺気」と「気の流れ」があるかどうかだ。
「――そこだ」
誠十郎が地を蹴った。
次の瞬間、彼は霧の濃い何もない空間へ向かって、神速の抜刀を放つ。
「香取神道流……無想」
閃光が霧を二つに割り、見えない敵の「核」を真っ向から貫いた。
ギャアァァァッ! という、この世のものとは思えない絶叫が響き、空間の歪みが霧散していく。
■ 誠十郎
* レベル: 22
* ステータス: 力:B+ / 器用さ:A+ / 体力:B / 素早さ:B+ / 魔力:G / 幸運:D
* 備考: 視覚に頼らない「心眼」に近い域に達している。
「……。核を一つ断ったか。だが、この森の『根』はまだ深いな」
誠十郎は静かに刀を納めた。
本来であれば、彼がそのまま奥へ進み、全ての歪みを断つこともできただろう。だが、彼はふと足を止め、大翔のいる街の方角を振り返った。
「大翔……。お前なら、この『見えない敵』をどう料理する」
力でねじ伏せる俺のやり方ではない、あいつの、あの卑怯で、泥臭く、それでいて驚くほど合理的な戦い方。
それを試すには、この森は絶好の「稽古場」になるはずだ。
「……。死ぬなよ。次に会う時、その首が繋がっていなければ、あの世まで拳骨を食らわせに行くからな」
誠十郎は霧の奥へと消えていった。
彼が間引いた「怪異」の残党が、数日後、大翔たちの前に現れることになるとも知らずに。
(外伝・完)
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