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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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78/83

78 締結


『選ばせてやろう』

「え、……え、えらぶって……」


ハングライダーぐるぐる周回してる男女。

カメラは目ざとく、攻撃隊のリーダー格の二人が震えるをのモニターに映した。

ま、す巻きにしたのを、巨大なこん棒が狙えば、怯えもしようぞ。

更地または巨神の倒壊。自分でいっておいてなんだが、どうすんだろ。


『参った。わしはオガサワラのマスターじゃ。許してくれ降参するき』


オガサワラの返答だ。どっちも選ばないという。

のけぞるくらいのデカブツが心なしかシュンとなった。


「降参ね、それもいいか。じゃ、ひとつだけ要求があるだけど」


俺は言った。

山を壊せなかったのはちょっと残念だけど。すっきりしたからいいか。


『ひとつひとつて。なんぼいうんじゃ』


飛んでるハングライダー。兄ちゃん側のボヤキをマイクが拾った。

そうだっけ? 何回もいったっけ?

でもこれだけは言わせてもらう。てかこれが本題だ。あとはどうでもいいのだ。


「俺を、地上に降ろせ!」

『………………は?』


呆けてるのか。それとも意味が伝わらなかったのか。

もう一度言う。


「俺を、地上に降ろせ!」


しんと静まった両シタデル。とくにレブンの寡黙ぶりが妙だ。

ブランチェスとストライトはなにか考えるてるふう。

レリアを抱えて穴から這い出したサンガリたちは、あんぐり空中を見上げる。


風さえも鳴りをひそめ、なにかの出現を待ち構えているようだ。

なにかあるんだろうか。難しいことは言ってないんだが。

あー俺、日本語でしゃべったんだろか。いやいや。現地語は身についてる。

いまさら、日本語は出ない。


レブンのいや、オガサワラも、あらゆる住民が一斉に首をひねってる。

ひねりながら、意味わからん、とばかりにデカい”はあ”を唱和。

全員が機能を停止した。


「だからあ、俺を」

「キミはなにを言ってるんだ!」


再再度、繰り返そうとしたとき。

俺のヘッドセットをアディラが強奪。ぽいっと、席から持ち上ふげられて、

ゲロ=モガーマイトのクッションに放り出された。「グぇ」とカエルの鳴き声。

ダンジョンに入って、はじめて、5歳児扱いされた気がする。






その後おきた諸々のできごとは、レブンとオガサワラを大きく変えた。

眼下をゆっくり流れていく雲と景色を、360度の意識にとらえながら、端的に回想する。


レブンに上陸した敵兵は、武装解除されて強制退去。

部隊としての連携をもたないオガサワラ兵は、スキル持ちのレブン貴族には敵わない。

首根っこをつかまれて強制送還された。狼藉を働いた連中はこっぴどい仕打ちを受けた模様で、二度とレブンの土は踏みたくないと語ったとか。


そんな感じなので、戦意喪失したオガサワラとの終戦協定は、レブン優勢で円滑に執り行われる。隷属化こそしなかったものの、高額な税金と、多数の労働者を派遣することで、手打ち。


双方の戦力アップを図るため、銃器とハングライダーを、優秀な教官込みで派遣させた。

スキル向上も併わせておこなう。上級貴族を優遇していた文字に関する禁則を廃止。誰でも文字を勉強できるようになった。


レブンは王政で、貴族のいる封建社会。トップダウンで全てをきめていたが、貴族同士の力関係が物をいい、上級貴族を牛耳ってしまえば、逆らうことができなくなる。ゲマインナー家が牛耳ったせいでマスターの継承が滞り、今回のケースに繋がったことは否めない。


オガサワラの政治体制は議会制民主主義。上院と下院があり、憲法と法律でもって国を運営する。まあ、完全とはいえないが、自由主義を掲げるシタデルである。レブン国王リハードは全ての貴族と市民の代表者を集めて、オガサワラ体制の勉強会を開く。その場を使って現体制の改良を提案し、満場一致で受け入れさせた(・・・)


王政でありながら、自由主義。日本や英国などの立憲君主制に舵を切った。

いいとこどりをするってことだな。





以上はすべて、ブランからきいたことだ。

俺は蚊帳の外に置かれて、一切かかわらせてもらえなかった。

功労者なんだけど。幼児の言葉に耳を傾ける為政者いない。

王は俺に言った。


「ルミナス=グルーム。キミの無茶な円運動のせいで、どれだけレブンの建物が破壊されたと思ってるのだ。私の王城も亀裂だらけだ。修復にどれだけかかるか見当もつかなない。そんなキミに何を任せるというんだ?」


知識チートの出番はやってこなかった。

では俺が何をやっていたか。


「回転に耐えられる構造を考えたまえ。できるのならな」


王は無茶ぶりのつもりだったが、設計チートの出番だ。

シタデルは、他のシタデルを取り込んで自身を強化できる。レブンでは大きな円柱にダンジョンを組み込ませている。オガサワラは目立たないが階層を積み上げて斜面集落のが構造にしている。シタデルの本体と階層を切り離すのは容易なのだ。


前世なら、ボールベアリングで外部の回転を内部に伝えない方法があるがここでは無理。エアクッションで空気の隙間をす作るって手も思いついたが、人の住む町を空気で浮かせるのはさすがのファンタジー世界でも無理っぽかった。たどりついたのは水だ。


レブンの水は雲を吸収して得ている。雲はいたるところにあるし、なければこちらから獲りにいけばいい。大漁にいつでも確保できる水を巨大な器に満たし、町自体を浮かせる構図にした。もちろん、ちゃぷちゃぷ揺れるのは不味いので、上下の浮きはゆるく固定。あくまで外部の回転に対して、内部がついてこない構造にした。


レブンのあらゆる回転は街に緩衝しないようにしたため、東西南北が絶対的に固定された。朝は東から日が昇り、夕は西に日が落ちる。

俺にとって当たり前のこと。誰もが戸惑っていたが受け入れてくれた。


「その年でマスターになっただけのことはあるな。オガサワラにも技術提供しよう」


レブンが動くたびおこっていた軋轢が、おおきく緩和された。

壁が壊れたり家具が傾いたりするのが当たり前の日常。道が狭いのは地面がズレないよう土台と壁で抑えており、その壁もしょっちゅう壊れ、上級貴族が補修して回って直していた。テーブルは食器やコップがハマるように細く枠になっていた。それらすべてがいらなくなった。


ほかにも任されたことがある。スキル獲得のシステム化だ。

ダンジョンを活用し、安全かつ効率的に、スキルを獲得していく手順をプログラム化。

王と暫定政権の総意で、統括監督を任されたのだ。「できるんだから、それもやれ」と側近経由で命令してくる。


任せることはなにもないと言っておいてひでぇこき使いぶりだ。

まあいいけど。


じつは、マスター権限でダンジョン法則の書き換えや、魔物のレベル、取得スキルの設定を自由に創りなおすことは可能だ。だが可能と実現がイコールとはいかない。

とりかかってすぐ、こいつはかなり困難なものだとわかったのだ。作成したのはレブンが創られた時代の人で、ほぼ生涯をかけて、緻密でいやらしい設計をとりしきったと、映画のNG集みたいなチュートリアル後日談にあった。


ダンジョンでのスキル獲得システムは、一見、ざっくりしてる。でもスキがあるようでなかった。どのプログラムも複数の機能をもたされており、攻略人数や状況次第で変化する迷宮は、設計の一部を書き換えただけでも、全体に波及。とりとめがなくなる。


プログラムやゲームデザインの専門知識をもたない俺には、そういうものかと認識するのが精一杯。概略図を目にしただけで改変以前に、解析を諦めた。


そもそも、基本的なことだが、”スキル”なるものの意味がわからん。

ゲームやアニメにはよくある常識だし、俺も、わーいゲットだあー! と喜んでいたが、現実にそれを実際の人間に着装できてしまうってのは、どうなんだ。

科学を超えたファンタージっていってしまえばそれまでだが、風だの火だの、盾を出すだのて。理論、ぶっとぶすぎだろ。


スキルのチュートリアルには、RNAがどうとか、図解・動画・音声で事細かに説明がなされた。どうやら遺伝子に能力を書き足す技術のようで、物体や現象のエネルギーはその辺の元素と静電気という。


高校に通うのを嫌がって、高校認定試験で乗り切った俺は試験対策以上の勉強はしていないから、詳細で深い知識が根付いてない。遺伝子とDNAの違いさえあやふや。”〇〇を埋めよ”の解答を満たす言葉にすぎなかった。不勉強のツケが、こんなところで!


気を取り直して、方向転換。スキルの追及は止める。

攻略法を突き詰めるって方向に専念した次第である。


ブランチェス、ストライト、レリア、フレッド。ときには新マスターに就任したアディラや、サブマスターの席についたゲゲリーたちの力も借りて、安全なクリア方法を定型化することに成功。ダンジョン前に図解いりの大看板を設置した。手順よく攻略していけば、楽しい冒険を体験をしながら、スキルが身に付く親切ルートである。死にそうになったら、強制排除。命の危険はほとんどない。


名前もつけた。迷いの森が『みんなで入れば怖くない』。試練のダンジョンが『キミこそ明日のマスターだ』。みんなの反応は芳しくないのはなぜだ。


長年の激務になるため年齢は20歳までに絞ったが、何度もチャレンジできることもあって、毎日、挑戦者が現れた。スキル獲得者はどんどん増えた。嬉しいことだが、試練のダンジョン攻略はやはり難しいらしい。3か月たったいま、攻略できたのは、レリアとフレッドほか数名。狩人のグーネと、レインブロ=ニルモークという下級貴族の子だけだった。マスターへの道は厳しい。


ところで、モガーマイト=ゲマインナーはどうなったか。

ガギロン=バーザダーの手引きでマスター階に到着し、いち早く艦長席についたものの吐いて失神してたあいつだ。


「ぶぅあかめ。マスターになるのは、あちしだ!」と威勢のいいことをいっておきながらの醜態だが、俺はけっこう高く評価してる。アディラとリーデンタットが手も足もでなかったレブン操作を、初見で、とにもかくにも機動させた人間だからだ。


ほっぺに丸いマークがつけた長身の5頭身ぼっちゃんは、いま、オガサワラのメインパイロットとして、俺が操作するレブンの後ろについてきている。


「モガーマン。もうすぐ到着するんだけど、見えてるか?」


モガーマイトは権力に執着した領主長のギガーマイトとは性格が違うらしく、オモチャがあれば、満足するタイプ。難しいチュートリアルもなんとなくわかったようで、ほぼ直感のみで動かしてる。ある意味すげー。


「こぉのモガーマイト=ゲマインナーに、不ぅ可能の文字はぬぁい。ふは、ふぁっはっはっはあー」


アディラもリーデンタットも操作はできるようになってきてるが、まだまだ。五感に直接作用する艦長席のヘッドセットを被るにはいたってない。


レブンとオガサワラでは、同じシタデルでも異なる点がすさまじく多い。産業や経済もそうだが、マスターの行き来がある程度自由ってことに、皆が驚いた。市中も自由に出歩るくらしい。マスターになるための手続きというかシステムそのものの違いに起因してるようだ。


オガサワラでは、マスターは試験で選ぶ。難関な試験を突破した人間に操作技術を叩き込む。そこから選抜された適性ある12人がシタデルオペレーターで、最高責任者にマスターの称号が与えられるというわけだ。いまも30名あまりが、呼び人員として勉学と鍛錬に励んでいる。


政治には口を出さないが、攻防の決定や兵の指揮もろもろ、戦闘に関する責任の一切を引き受ける。


マスターになった者が人の世界に戻ることはなかったレブン。過去はどうだったか知らないが、交流は通信だけで、それも王に限定だ。特権階級そのものというか、神秘性というか、ブラックボックスな存在だった。その理由を推測してある点に気づいた。


「出入り口がないからだったりして?」


バカみたいな話だが、行き来するルートがないのはたしかだ。そこで俺は、ダンジョンにあった転移陣の応用して、出入り用に転移陣を用意した。


艦長席の5感ヘッドセットは偉大で、マスターはレブンの細部まで作り変えることが可能だ。一から創りだすには相当の知識がいるんだけど、既存を組み合わせるだけならそう難しくない。(ダンジョンは諦めたけど)


 行き先  レブンとオガサワラ内なら、思い描いた場所を指定できる。

 帰 還  「帰還」と唱えればどこからでも戻れる。

 時 間  24時間制限。帰還の意志がなくてもぴったり1日で強制帰還。


クールタイムは6日間。あんまりしょっちゅういなくなられても、レブン運航に支障をきたすからな。なんか、週末の里帰りみたくなったが、アディラなんかは家族に逢えると喜んでいるからこれでいいようだ。いつでも変更はできるから、みんなで話し合って、実情に合った休みを決めてもらいたい。


そうして4カ月あまり。俺の仕事も終わりを告げる。





俺は、あらたに設けた転移陣で、オガサワラの広場に転移した。


「到着したよアディラ。あとは任せます」

『本当に降りるつもりか。あのような原始の森に』

「降りる。俺はやっぱ、地に足をつけたいんです」


テーブルマウンテン。屹立したその山は天辺が平らだった。豊かな緑が生い茂り大小の亀裂を流れる水は1000メートルの崖を落下していく滝となる。あまりの高さで滝は途中で霧となり、下方で待ち受ける裾野にやわらかな雨をふらす。霧の一部は上昇気流によって、ふたたび上空に。それは薄い雲を生み出し、山上の植物にふりそそぐ。永遠と錯覚しそうな水の循環だ。


マスターやって高さになれてきてはいるが、足が震える。

純粋な恐怖ってやつだな。


ずっと疑問だった。シタデルからみえる地上は常に灰色ってことに。たった1000メートルなのに、地面に色合いの違いを見つけられない。3776メートルある富士山からだって、地上の町はおぼろげながら、見えるってのに。


富士山を引き合いにだすまでもなく、この世界だって稜線がある。遠くの山は緑に茶色にと、数キロ、数十キロの果てが色で確認できる。なのに、シタデルの足元だけがおかしい。グレイに染まって視認不可能。


なぜだ?


下層にはなにがあるのか。不自然な国、シタデルを創らなければいけなかった理由。

いつだかセバサがつぶやいた一言”大絶滅”。それなのかもしれない。

いまも、灰色のなにかが、シタデルの底を覆っている。


そして俺は、地に足をつけるんだ。


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