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62 試練のダンジョン 4階


試練のダンジョン3階奥に、急ぎ足で到着した。

途中何体か魔物と接触したが、全部バットで叩き落としてる。

この階の目標だった盾の訓練は、とうとうできなかった。


「ルミナスだー」

「おかえりー」

「ただいまーって、フレッドそれは」


フレッドがふってる剣に俺の目が釘づけになった。刃渡り40センチくらいの剣。それだけなら単なるソートソードだけど、刃先には深いギザギザが。昔懐かしい缶切りの刃のように2列、サメの歯状に並んでる。


「そおどぶれいかーだって」

「ソードブレイカー!?」


文字通り(ソード)壊す(ブレイク)ための。見た目が凶暴すぎる。どえらい剣をゲットしたもんだ。対人武器として凶悪すぎる。


「フレッド。剣を持参する魔物っているのか」

「うーーーん がいこつのけんし?」


見たことないんだけど。


「ルミナスみてみて! いいでしょう」


割ってはいったレリアがメイスをふりふりして、見せびらかす。地面からお腹の高さくらい。持ち手の上の金属が十字型なのが特徴的。魔法スキルメインの彼女によく似合う。


「かわいい色でしょ。ピンクなんだよ」


色に惹かれただけってだった。

ピンクの武器ってある意味凶暴かも。


「珍しい色だね」

「いいでしょーいいでしょー? でも、あげなーい♪」


キャッキャと、駆けていってしまった。本当に見せびらかしたかっただけらしい。

長い物をもって走ると危ないぞー。あっ転んだ。にらんだ。俺のせいじゃないから。

「遅かったな」と、アディラ=ビェズル。傍に寄って声をひそめた。


「ウィゲリーリはどうしたのだ」

「置いてきました」

「始末、したのか?」

「まさか。そんな度胸、俺にはありません」

「……もしも私がキミの立場であれば、もっと激しく腸が煮えくりかえっている。復讐の機会があったなら決して逃したりしないだろう。キミはよく涼しい顔でいられるものだ」

「そんなことないですよ。泣かせてしまって、なんか罪悪感っす」

「軽さを理解できないといって……いま、泣かせたと言ったか? 泣いたのか? あのウィゲリーリが」


鼻がくっつきそうだ。少年みたいな快活さで覆いかぶさるように詰問するのはいいが、きちんとお姉さんなのだ。


「近い離れろ。自覚しろ」

「?」


年齢相応に整ってるスタイルにくっ付かれたら、俺の本性がもたない。

あんたのロりは身長だけってこと。わかっていないようだ。

爆発しても責任もてないからなー……ん……。

5歳児の、この体が反応しないんです。

うらめしや。


「ちょいと小耳に挟んだスプリングセンテンスに、思いついた感想を織り交ぜて話しだけっすよ。泣いたのは向こうさんの都合っす。あっしに、なんの落ち度もごぜえやせん」

「ゲスい口ぶりだな」

「そうっすかね」


口ぶりは横において、本音である。ウィゲリーリの心中に、どんな想いが芽吹いたかなんてわかるはずない。楽に倒せるとおもった俺に手も足も出なかった悔しさかもしれない。己の力不足への反省かもしれない。


ひょっとするとグルームへの悔恨、もしくは、自分や親が、無為な道化に時間を費やしてしまった愚かさを悟ったのかもしれないなんて、万が一もないこともないが。俺には知るよしもない。

もっとも、俺の感想はそう外れていないだろうとも思う。フィクション・ノンフィクション。前世、ストーリーの氾濫する日本で暮らしてたのは伊達じゃないぜ。


でも。ホントにそう思っていて、虐げる因習がウィゲリーリの代で終わったとしよう。当主はしょせんサンガリ(オヤジ)だ。底辺まで没落しきったグルーム家が盛り返す? そんな未来、とうてい想像できない。つまり、どれほど心を痛めて後悔しようとも、遅い。3代かけて虐げた時間を巻き戻す。そんなことは誰にもできないのだ。


だからこそ。どうでもいい。


「それで、ウィゲリーリは置きざりにしてきたのか」

「人聞きわるい。一人じゃなく配下の騎士たちと一緒です。じきやってくるでしょうが、襲ってくるなんてことはない……と思わなくもない今日この頃です」

「確信はないのな」

「ないこともない……かと」

「100%とは言い切れない?」

「まあ」

「釘だけは打ったということだな。キミが納得してるなら部外者の私が出る幕はない」


レリアとフレッドと見れば、メイスと剣とで模擬戦だ。ソードブレイカーは鞘のまま、カンカン、ぶつけ合っている。幼い二人も拉致に監禁という形で巻き込まれている。いずれ歳を重ねることで、悪い記憶は消化されると期待したい。


「そっちは? 上々みたいだけど、短くなってない?」


話を切りかえた。いつまでも引きずっては先に進まない。子供の時間は有限なのだ。ぐずぐずしてたら、それこそゲゲリーがやってくる。


「あ? ああ。少しでもコンパクトなほうがいいと思ってな短槍にしてみた」


刃先でないほう――石突というらしい――で、床底をごつんと突いてみせ、持ってきた槍は放棄したと笑った。身長よりやや長いが、持ち込んだものよりは短かい。ステキに潔い。


「ありがとう。二人をまもってくれて」


頭を下げる。


「…………」

「あなたがいたおかげで、レリアとフレッドに要らないものを見せないですんだし、普通の子でいられるんだと思う。だから、その、ありがとう」


らしくないってのはイヤほど自覚してる。

でも言っておきたかった。


「あの……黙ってられるとツラいんですけど」

「礼をいう? このタイミングで? キミが?」


そうだよ。このタイミングでだよ。俺がだよ。


「はーーーーーーーーーーーー? ったーーくぅ……。キミだって十分に子供だろう。5歳の子が保護者ぶるって。なんの大人ぶりっこ。そもそも最初に言っておいたはずだぞ。私のほうこそ守られてるって」

「アディラっち……」

「それは や・め・ろ!」

「イタッ、ほ、穂先、穂先。刺さってる!」





フロア終点という証が転移円陣。俺たち4人は一緒に乗って、4階へと転移してきた。


「ほわーーー」


うって変わり、現れたのは明るい森林コース。


「かいほーてきっ」


太陽がまぶしい。ダンジョンなのに空から陽が射すって何事だ。なのに森だから、うっそうとして、正面から斜め上にかけての視界はやや悪い。迷いの森に似てるな。低木が多いってところも。


レリアが、はっけーんと言いながらトテトテ駆けてった。馴染んでないメイスを引きずり危なっかしい。転んだばかりなのに、凝りない姉である。


立札(たてふだ)だよ。んーと。5、つのを、に、みせて、いたるところに…。読めるし読めない」


う゛~んと、レリア。頭ひとつ高い立札の文字を読も目を細める。一所懸命だ。

立札にはこうあった。


《5つのパーツを的確に組み合わせて出口を捜せ。ヒントはいたるところに隠されている》


「5つのパーツ?」


なにか、断片を捜せってことかな。

それをパズルっぽく合わせて、出口までのルートを探し出せと。


「いたるところと言われてもな」


アディラの落胆はよくわかる。森の階層だ。木を隠すなら森の中、なんてことわざもある。嫌味なダンジョンはここでも健在。探し物をするにこれほど不向きな場所もない。

レリアは、目の光が消えた。もどってこーい。


「むしさん、いるかなー」


最年少のフレッドだけがポジティブだった。一足はやく捜索開始。そこらへんの怪しい茂みを分けいってる。


「……はじめるか。私たちも」

「そうですね」

「うん」


アディラにうながされ、俺とレリアもしぶしぶ参戦。

俺たちみんなチビの集まり。一番背の高いアディラでさえ、せいぜい小6の背丈だ。木がまばらここでさえ、ちょっとした樹木で仲間を見失しなう。しゃがめば低木や茂みでさえアウト。


「私はここだぞー、いぃちぃアディラ」

「にぃールミナス」

「さぁあんレリアぁ」

「よぉん、ふれっどぉー」


草木を進むガサガサの音が薄れたと感じたら、順番に呼びかけることに決めた。1番がアディラ、2が俺、3レリア、4フレッド。互いに声をかけあって無事を確かめ合う。飽きき防止するために、最初のかけ声は順番だ。


フレッドなんかは、次か次かとワクワク。レリアが言い終わる前に、点呼をはじめる勢いだ。迷子の心配はないだろう。いまのところ魔物の姿はない。だからこそこんなやり方が通用してる。パーツもすぐに見つかることだろう。


なんて安直に思っていたのは今は昔。パーツ探しは難航中だ。小一時間ほど経過たが、収穫はいまだ無し。ゼロなのだ。


「わたしはここー! さぁあん、レリアぁ」

「よぉん、ふれっどぉー」

「いち。アディラ」

「に。ルミナス……はぁ」


枝との間を抜けようとすれば蔦で頭上がひっかかる。茂みが深く足がとられるうえに、けもの道とあぜ道と、小路がはっきり区別されてない。迷路が迷路としての使命を果たしてないんだ。パーツみつけて図をくっつけたとして、道とかわかるのか。魔物はいまだ出ていきてない。


「あー! これかなー!?」


フットワークが軽く、いまもっとも精力的ちょろりょろに溢れたフレッドが、声を張り上げた。アディラ、レリアが集まってきたと知る。スマホで長時間ウェブ小説を読んだ並みにどんより目の俺に意識がもどる。


どや顔のフレッドが持っていたのは、紙にみえる厚み1センチほどの何か。およそ15センチの正方形、各辺には、3センチほどの丸みをおびた凸と凹。厚いけど紙。厚紙だ。端っこを小さな手で握りしめ、お宝を離しそうもない。のぞきこむアディラに次いで、俺レリアもそれを見た。


「パーツというよりも断片だな。描いてある絵だが、ここやここの筋が道ンなのだろう。地図かな。いや地図にちがいない」


アディラの意見に賛成したいが。


「ジグゾーパズル型瓦せんべいの可能性も捨てがたいですが」

「何を言ってるかはわからないが、ふざけていることはわかる?」

「……ごめん」


奇抜すぎたようなので意見を引っ込める。俺は間違いを訂正できる男なのだ。

この状況では、地図以外はありえないぞ。うん。

頭が、もうろうと、してるのかも。ただしく動け俺の脳。


「5つってことは、あと4つあればいいんですね」

「あればいいって…………これだけ探してやっとひとつ。気の遠くなる話だ」


気持ちはよーくわかる。小一時間かかって一個目なのだ。


「ところでフレッド。これ、どこでみつけたんだ?」

「それを聞いてどうする。少しでも早く探すべきだろう。時間は有限。森での野宿は避けたい」

「ヒントがみつかるかもしれないですよ。フレッド。そこに連れてって」

「あっち」


得意満面なフレッドを追いかける。


「ここにおちてた。あれ?」

「!?」

「ぎゃっ」


たいして離れてないそこには、細木が5、6本と大きな葉をなす下生えの植物。

そして、男がひとり仰向けで倒れていた。目を閉じている。年のころはアディラが同じくらい。まあ俺たち姉弟以外は、15歳以上だけど。


「マッド=ガーライド。リーデンタットの護衛だ」

「護衛。おーいっ 大丈夫ですか?」





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