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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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63/83

63 5階のためらい


「リーデンタット……」


どこかで聞いたことのある名。どこで聞いたっけ。

そろり。俺たちの接近を認識してるならなにかの気配があるそうだが、ない。寝てるのか気絶なのか。それとも。安否を確認しながら近づいていく。


「リーデンタットはスプラード家の嫡男。キミにはブランチェスの兄と言ったほうが通じるか」

「ブランの、アニキですか」


接近どころかとり囲んだ。なのにまだ動きがない。動きどころか呼吸さえも。アディラは指を、マッド=ガーライドの首にあてた。


「その護衛だった男だ……事切れている」

「し、死んでるってことですね」

「ああ。今回の試練のダンジョンで初の――かどうか――被害者だな。死因はいくつも考えられるが傷が多い。血の流し過ぎだ」

「出血多量ですか。魔物との戦いで手傷を重ねたんでしょうね」

「そのようだ。名前を失って戦い方も忘れたってわけだ」


淡々とした所作で、衣服の中に手を入れ持ち物を探すアディラ。身元を示せるような物は背負った大剣くらいだ。抜刀したふうではない。


「どうする。連れていきたいのは山々だが……失言だな」


連れていかなければ放置になるがこの面子で、その決断は現実的でない。アディラも言ってみただけという顔だ。でもな。置き去りはしたくない。ダンジョンで人知れずに死ぬというシチュエーション。見知らぬ人であっても、ついマルスと重ねてしまうのだ。


「連れていきます」

「いくらキミでも無茶だ。言っておいてなんだが、ひとを運ぶのは、リスクが高いどころじゃない。ここまで順調にきている。でもそれは運に恵まれただけで、実力ではない。私たちは非力と知るべきだ」


草をむしった。しっかり葉があり根がある。その根には土がついていた。


「できますよ。この階層には土があります」


念願の土。【土魔法】でも外の土でもダメだった”不燃土”。その可能性がある。

これば、それだといいんだけど。


「土だな。ダンジョンにありがちな幻影ではなさそうだ。でもそれがどうした?」


設計画面を通して名前が表示された。泥灰土だって? 泥岩はよくある堆積岩だし、火山灰も珍しいものじゃない。泥灰土は、初めての土質だ。ローカルソイルってやつだろう。

期待をこめ素材として収容。なんと名前が”石こう”に代わった。但し書きに”建材に不燃土として使用可”と。


やった!


念願の土”不燃土”をゲット。そして森といえば豊富な木材。木と土(素材)があれば【土建設計(アーキテクチャ)】で部屋が造れる。一番欲しかった収納庫だけど、クモの糸でゴマカシてなんとかなってる。収納庫は保留。


「安置室を造ります」


白羽の矢をたてたのは”安置室”。設計画面を表示。まずは新レイヤーを追加。【ルーム】の中から安置室をチョイスし、レイヤーに落とし込む。材料は、見渡した限りの木々。その根を支える地面だ。


「みんな下がって。俺の前に出ないで」

「なにをする気だ」


部屋ひとつ分なんだけど、収納する亡骸が彼だけと限らない。できるだけ多く。可能な限り大きく。静かでひんやりした空間で安らかに眠ってもらいたい。家族に引き渡すまでの一時的な時間であったとしても。広く広くもっと広く。


「地面が…!」

「表面を整えただけか。地盤厚は10センチもない。ならば」


太さ30センチ程の樹木もあるのにどんな根を張って……なんて、ファンタジーを考えてもしかたない。いまは集中。薄い地面なら広くだ。


もっともっともっともっと……。広域にかき集める。


「森がけずられてくよ。ルミナスがこれをやってるの?」

「ひろいよーレリアねぇ。ひろばよりひろいーー」


材料原資はこれくらいか。余剰分もたんまり確保。これで木と土に困ることはないだろう。そのままではもちろん、使えないので、部材として加工。出来合い設計図面を大幅に拡張……よし。創造(クリエイト)


どでーん!


「……」

「……」

「ひぎゃあ。うちよりおっきぃ」


「これはなんだ」

「安置室です」


体育館サイズの。


「屋敷より大きな建造物なのに。”室”とはいったい」

「スキルの賜物です。この人を運び入れましょう」

「……キミのスキルは、どうなってるんだ」


健康的な浅黒いアディラが、はっきりとあおい顔に。


「ルミナスのは気にしたほうが負け」

「いまさらー?」


丁重にストライト=シンプレッドを運び入れる。安置センターと呼ぶほうがしっくりくる安置室。玄関をくぐった内部には固定ベッドがズラリと配置。簡素なベッドは土を盛っただけで人が寝るに適さない硬さ。その数50×50。英霊を祭る古墳を思い浮かべた。アディラは頭を抱えてる。


「どれだけの人を収容するつもりだ」

「出会った全員です」

「合同慰霊でもすいるのか。数年分の遺体が安置できるぞ。老若男女の」


森のほうは、障害物がなくなっり、一気に見通しがよくなった。

正しくいうと階層全てが見渡せてる。端から端まで。出口も発見できた。フレッドがビビるくらい広いといえば広いのだが、レブンの狭さに幸あれ。札幌なら、この規模の児童公園はそこらじゅうにある。


木材に適した樹木と土がなくなり、コンクリートみないた床がむき出しになる。根をさらけ出した低木と草が、乾燥した空気中にさらさらされた。パーツも発見。


「ちずが、いっぱーい」


必要はなくなったがざっと30枚ほど。かなりの数といっていい。自力では一枚も発見できなかった俺たちは、よほど探し方が下手なのか。

そして。俺の言ったとおりになった。


「残念だけど、キミの想定が正しかった」

「ひとが倒れてる。死んでるのかな」

「3人、いや4、5人」


俺たちだけではむりなので歩くストレッチャーを創作する。板と蜘蛛の巣シーツだけの簡易寝台にコロポックルの足を付けたものだ。粛々と慰安室に遺体を運びいれ、安置室のベッドに寝かせた。


「なんてこったローミンス=シンプレッド…姉弟ともどもとは。グロリア=ハーミッド…ベクブラーム家に連なる者だ。シェイ=ブロン…現王ブンバーン家の子弟分。…………」


狭いレブンシタデルの、さらに狭い上級貴族の繋がり。試練に挑んだ上級貴族の子弟。その護衛も同年は近い。遺体はみな、アディラの知った顔らしく、一人ひとり、冥福を祈りながら、名前を呼んでいる。感情を押さえてるようにみえるのは、貴族のたしなみなのか。


その彼女の声が、とある女性の亡骸をみつけて、止まった。


「どうしかました?」


袖を引かれたのでふり返る。レリアが動かす口が、ダメと言ってる。バカか俺は。

どうかもなにも、ないだろう。大切な人をみつけてしまったに違いないんだ。


「……シャウロ。キミもか」


アディラの、呼んだ声が哀しくかすれる。


6つの遺体には、大きな外傷はみあたらなかった。共通してるのは破れた衣服だ。切り傷や、骨が折れたと思しき負傷、打撲の痕が明瞭。痛々しい折れた武器を抱えた者。何も手にしてない者。飢えをしのぐためなのか草を食べた形跡。衰弱がみてとれる。

最後になったのはアディラの護衛。よりていねいに運んだ。


俺が手を合わせ黙祷する。アディラ、レリア、フレッドが、右にならう。宗教や風習が違っても、魂に礼を尽くす心は同じなのだ。寒いほどの静寂に満ちた。安置室の玄関を閉めた。


「会いたくなったらいつもで言ってください」


レイヤーを非表示にし安置室は見えなくなった。こんなどでかい物体を、たかが設計思想にすぎない画層(レイヤー)のオンオフで、実体化と隠匿化ができてしまう。実際のところどこに保管してるのかは謎である。


安置室という名の建造物が無くなり、森があった時以上に寒々とした空間になった。露わになった出口へと、俺たちは無言で歩いていく。根がむき出しになって倒れてる低木が痛々しい。


「試練のダンジョンが……危険なのは、よく……解ってる。怪我を抱えて帰還してくるからな。死人も出る」


アディラが、そうぽつぽつ語りはじめた。

危険は承知で挑んでる。それはスキルという、危険にみあう見返りがあるから。ここでは15歳という年齢が、成人の入口になってるのも、ダンジョンでスキルが取得できる唯一の年齢とされてるから。違うと知ってる俺は、少数派なんだろう。


「だがね。こんな……ここまでの悲劇は、一度だって聞いたことがないんだよ」


アディラは、歯をギリギリ鳴らして悔しがった。

どれほど昔からの”一度だって”なんだろう。


「名前さえ覚えていれば、こうはならなかったのに」

「【風】スキルの鋭い真空波。手練れですね。知り合いには、いませんよね」

「それはそうだが、手練れということなら大領主(ハン)に腕の立つ影がいるとかいないとか」

「ハン?」

大領主(ハン)だよ。ギガーマイト=ゲマインナー。そんなことも知らないのか」

「政治向きのことはあんまり。5歳ですから」

「政治向きと語る5歳児は、キミくらいだ。ゲマインナー家では息子、モガーマイトが参加してるぞ。出発式でもマスターになるって、いきまいてたろう」

「それ、アディラっちのことで、いてててっ グーでコメカミ反則! ギブギブ!!――け、献上の品でごぜえます」

「私は買収されないからな。なんだそれは?」

「スキルオーブですお代官様。回復スキルが取得できるという舶来品でしてへぃ」

「回復スキルが取得できるオーブ?!! そ、そ、そんなの聞いたことがないぞ!」

「回復スキルは珍しいんでやんすね。ゲゲリーの騎士から拝借しといて正解でございました。レベル1でも多少の怪我はなおるようですぜ。レベルが上がればもっと……にひひ」

「いやそういうことじゃ。いや回復はたしかに貴重だが、スキルがオーブになってることが変なんだよ!」


アディラの驚きがとんでもないことになってる。それはそうか、スキルの取得はふつう、倒した魔物から直移譲か、いつのまにかダンジョンゲットだからなあ。


「俺たちには普通になってますがね。ほら、レリアとフレッドの分」

「ありがとうルミナス」

「やたー! これで、うできってもくっつく」

「いやそれは」





4階の出口に到着。大きな転移陣に4人で載る。そして5階層。

出むかえたのはいつもの立札。ただしいつもの安っぽい木板と趣をかえ、なんと金属製であった。


「キミはなにをしようとすてるんだ?」


なぜバレる。【土建設計(アーキテクチャ)】の画面は俺にしかみえないはずなのに。


「ルミナス。素材にしようとしてるー」

「おちてるものは、とどけるんだよー」

「いや、無垢の金属は初めてなので、出来心で」


この世界。金属は珍しいんだよ。剣や槍はあるんだけど、鍛冶屋が金槌で叩いて作る原始的な製法で純度が低い。あとは鍋とか家庭用品。なんしにて貴重品だ。物色したら、とんでもない目にあわされる。


「せめて、書いてることを読んでからにしよう。な? なっ?」


5階層の立札。念押し兼、言質をとった。これでこいつは俺のモノ。試練のダンジョンは5,10、15階に、外へ出られる扉がある。アディラがいうのだから間違いない。つまり読むまでもなく、その説明を書いた立札に決まってる。上階にいく俺には関係ない。


「スキルと引き換えにここから出られるとある。スキルは複数の候補より選択できる。SPを消費することで、選択肢が増えるようだ」

「【植物】、【土魔法】、【水魔法】の3つですね。SP100で【回復】【火】【盾】。SP100って高難度じゃないですか」

「はっきりいってショボい。ま、私は上にいくから関係ないのだが。キミは?」

「俺もです。ですが」


問題なのはレリアとフレッド。どうする。外に、家に帰すのが一番なんだが。外の状況がわからない。ここまで戦ってきた二人だ。たいていの敵は相手にさえならないだろう。危険はないと思う。でもゲゲリーの家が気がかりだ。ローラン……は当てにてきないから、サンガリだ。迎えきてもらうよう、話をつめておくべきだった。



リーデンタット=スプラードの護衛の名前を変更しました



ストライト=シンプレッド

  ↓

マッド=ガーライド



ストライトはブランチェスべったりの護衛。何をどう間違えたのか。読み返して青ざめました。


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