64 送り出し
「ルミナスまもるのは、おねーさんのお仕事。フレッドは帰って。いくよっ炎の剣!」
「なんでのけもの、ずるいー。ぼくだってまもるんだー。水の盾!」
俺の守護者の座をかけ、姉と弟が、熾烈な争いしてます。スキル全開です。
ちょっとした村なら消し炭にしそうな火力を全開。間の俺が延焼しそうです。
「どうするんだ これ」
「どうっていわれても……いつのまに、こんなレベルアップ」
「驚くとこ、そこか」
戦いを停めたいが、巻き込まれればただではすまない。守るといってるのに、俺そっちのけのバトルって、どうなんだろうか。盾の水……飲めるかもしれないな。複写。
この立札の前は広い。5階層の半分ほどを占めていそうだ。それでも、閉ざされているわけであり、レリアが放つ熱で、汗が吹きだす。耐火仕様服さえ、裾が焦げる始末だ。
「これならっ!」
レリアの放つまとわりつくような粘着質の炎を、フレッドが流動する水の盾で防御が数度続いたところで、パターンガ変わる。網膜に焼きついた炎の残滓をフェイントに、レリアが肉薄、ピンクが自慢のメイスを握る。
十字部からマシンガンのような礫が、撃ちだされた。【土魔法】だ。すげーなあのメイス。スキルが付与できるのか。フレッド対応も素早い。水盾は瞬時にして、灼熱炎盾へと変化。連続する礫を消し炭と消し去った。
お前らなー。
「炎とか灼熱とかつかいすぎです。厚さでアディラが脱ぎそうです」
「脱ぐか!」
レリア、フレッド。二人とも自分自身に【物体移動】スキルを付与してる。一般住宅の2階ぶんほどの限られた空間で、満べりない立体的移動で攻防だ。じつに見ごたえのある、空中バトルについ、平成末期の定番ツッコミをしてしまう!
「立体〇動装置か!」
あ……めまいが。
俺が二人に告げたのは、”家に帰れ”だ。どっちか残れじゃなくて、どっちも帰すと言ったんだけど。なのにだ。居残りをかけて戦うってのは、どんな勘違いだ。
ガルモグ家の狙いは俺だった。この姉と弟は、とばっちりでさらわれた純粋な被害者に過ぎない。サンガリやトマスは心配してるだろう。セバサもチネッタも心を痛めてるはず。ローランは……横に置いて。とにかく、みんなが待ってる場所へ、あの家へ帰してあげたい。
ここから先。6階からの上層は危険が目白押しと確信してる。レアスキルなど、見返りも大きいのかもしれないが、危険は天井知らずだろう。俺はそれでも、踏破したい。マスターとやらになるかどうかは別として、このバカげたダンジョンをクリアすれば、シタデルから降りれる可能性がある。
目的がある俺はいいが、無垢な幼児のレリアとフレッドに、そんなものはないだろう。仮に欲する想いがあっても却下だ。人生が始まったばかりの二人だ。日本なら幼稚園に通ってる。だからまず普通の幸せを。幼児にふさわしく豊かな暮らしを味わいつくしてからで、遅くはない。
「キミもそうだが、そろいもそろって非常識な姉弟だ」
アディラ。それを言うな。
つか、育ちすぎましたかねー。もう遅いですかねー
はっはっは。
「ならば、教育係として責任をとりましょう。強硬手段!」
攻防が途切れた、ほんの一瞬を見逃さない。【粘着糸】で、二人をからめとる。
「きゃっ!」
「うわー」
そのまま転移陣に、二人を着陸させる。出発式のステージって、古めかしさと厳めしさを併せた試練のダンジョン前とその扉だったなあ。すぐむこうには店が並んでいて、人がたくさん賑わっていたよな。あれだけの衆目だ、ガルモグ家が、再度拉致するとは、考えにくい。
「大丈夫ですよね? このままレリアとフレッドを帰しても」
「そうだな。ガルモグ家が仕掛けてくるとは、私には思えない。仮にも上級貴族。そこまで恥知らずではなかろう」
あのとき、ゲゲリーは、試練のダンジョンに罪を任せるとか、ほざいていたが。それは俺たちを葬るための詭弁にすぎないとあの場にいた人間はみな、解っている様子だった。いっぽう生還は不可能だとも誰もが思っていたろう。ところが、あろうべきか無事に帰還したのだ。にも、あいつら――主にウィゲリーリ――の流儀に、律儀にのってやっての生還だ。
「みそぎは済んだと考えていいと?」
「ああ。どんな顔をするか見ものだな。拝めないのは残念だ」
ニヤリとするアディラから、預けたあったカエルカバンをもらう。とりだしたパン複写する。さっきの水の盾水分も複写してるから、空腹と渇きの対策は、ばっちりだ。
カバンには、【盾】【浮遊付与】【土魔法】【物体移動】のスキルオーブを、詰め込むだけ詰め込んでおく。【回復】スキルも忘れず追加と。重量いっぱいでパンパンに膨れたカバン。ぽーんと、転移陣に放り投げた。
糸でぐるぐる巻きの二人に仲間入りさせる。
「スキルうまく使って。父上たちによろしくー。じゃねっ!」
「ルミ……ずる……」
「まぶし……」
イエローとパープルの光。淡かった光はだんだん強くなる。陣の形で、二人をとかすように隠すように、上から下まで満たしていく。光が消えると、二人とカエルバックなくなっていた。俺たちもこうやって転移したんだな。
「あとは遺体だ。彼らもきっと、親元に帰りたいはずだ」
安置室を実体化する……には上にも横にも広さ不足か。部分的に実体化ってできるのかな。玄関だけとか……できてしまった。どこで〇ドアの豪華版みたくなった。やってみるもんだ。
コロポックルストレッチャーを6つ用意。運びだした六人の亡骸を転移陣に載せようとしたが無理。一度に、高校生くらいの6人を載せるには転移陣は狭かった。死んでいるとはいえ、物あつかいで重ねるのは不義理だし、できれば、一緒に送ってやりたい。
「座らせればいいんだ!」
筋力不足の俺にはできない。ストレッチャーにコロボックルの手を追加してみた。見栄えは悪いが、大人並みのパワーはある。6つのストレッチャーに、運んできた遺体を体育座りにさせる。そのうえで、陣に乗るように、迎え合わせの円陣に配置した。なかなかシュールな絵面ができあがったところで、6人は光に包まれた。彼らを迎えるのは悲しみのステージ。なぜか、アディラがジト目になっていた。
「死者を冒涜してないか? うわっ!」
ズ……ズウゥッッツッシィィイィーーーーーーーンン!!!!!!!!
唐突に、地面が揺れた。
忘れていたシタデルの揺れ。いや、記憶のなかのあらゆる震動のそれを超えた、大きな衝撃に見舞われた。乗っていたバスをビル破壊の鉄球で直撃されたごとく、突発的かつ理不尽な鉄槌だった。ほぼ真横から襲いかかる、ジェット機の緊急離陸以上の、急激すぎるG運動が、俺たちのカラダを突き飛ばした。
「!!!っつ」
舌をかんだが痛みの声すらだせない。バンジーの恐怖がよみがえり、重ねて、子供のころの、建造中ビルから落ちかけた記憶も首を持ち上げた。高所への恐怖症が、久しくなかった地面の挙動が、安寧の奥に畳んでいた事実を。ここが地上1000メートルの虚空にあるという現実を、食いしばる歯の奥で実感した。
「……一度かぎりでよかった……強烈だったな。これまでなかった動きだ。大人たちからも聞いたこともない初めての……おーい? そんな震えてふざけて……ルミナス!」
巨大な横揺れ。一度限りの巨大な震動。何分待っても、航続は無く余韻の振動だけが、ガタガタうずくまる尻に痺れを伝えてくる。いや俺が細胞レベルで揺れているのだ。
「……こ……」
こんな高い場を動きまわる建造物。いったいどんなヤツが作りやがった。恨むぞ。バットで殴り倒して、蹴り潰すからな。どいつだ。誰だ。いつだ。なんのためにだ。恨むにも顔がみえない。そもそも相手などいないのかもしれない。くそくそくそくそ……。
両の腕で自分を抱える。がたがた震える身体に立てた爪が肉に食いこむ、暖かい血がにじにでるのがわかる。こうしておけば、痛みがあれば、少しだけ恐怖が遠のいた。一時だけど、忘れてられる。
ああ。やっと地上にきた。はだしで草を踏んだのはいつぶりだっけ……なんて。
だめなんだ。妄想に身をゆだねられるほど、俺は、夢想家じゃない。ありもしない期待をかけ、さらに力を込める。引力が床ごと俺を引き落として、空にあるこの、仮初の地盤を抜けて下の空へ放り出されるんだろう。妄想としてはそっちが、よほど現実味があった。
「はぁ――…はッ――…はッ――」
息が、できない。胸の筋肉すべてを動員して、どうにか肺を膨らまそうとするが、できなくなった。忘れた。俺、いままでどうやって、酸素を補給してたんだっけ。虫のように皮膚から、鳥みたく気のうから。それとも……息、してたっけ。何もかも見えなくなった。
「は は は ……」
手首をそっとつかむ感触がした。後ろからふわっと暖かい重みが俺にかぶさる。護るように。虚空への恐れから引っぱり上げられるような。
「だいじょうぶだ。だいじょうぶ。もう揺れない。だいじょうぶ」
アディラ。呼吸が楽になってくる。
すこし、ほんの少し。あかりが灯ったのを感じた。多くの少しが重なって、真っ暗でなにも見えなくなった目に、物がみえてくる。試練のダンジョン5階層。閉ざされた、つまらない空間だけど、それでも暗くはない。心が落ち着きを取り戻す。平安を取り戻した。
「ありが、とう」
「揺れが苦手なのだな。キミにも弱点があると知れて嬉しいよ」
ぬくもりって、こんな癒されるんだな。ローランが抱きついてくるのは閉口ものだけど。パニックで死んでしまいそうになるのを、停めてくれた。ありがとう。ありがとう。まわされた暖かな腕。うえに手を重ねた。何度も何度でも、くりかえした。
「ありがとう。アディラっち……いででででーって」
「そ・れ・は・ヤ・メ・ロ」
と改めて思った。グーでのコメカミグリグリは、危険行為である。




