61 いいかげんウィゲリーリ
俺は、白い攻撃を。紙にみえる防湿シートのぶちまけをやめてる。
こいつら、進歩がなさすぎるんだ。張合いなさすぎでやる気も失せる。
なんか、得意技と思われてるガラス板は、正確にはガラスじゃない不思議物質。で、スキルはご存知、【土建設計】のサブ【基本家屋】だ。設計図の間取りに仮想物質を当てはめてだけという、ヒネリ無しのものだ。
【土建設計】は、いわば製図ソフト。図の概略が【基本家屋】。仮の線や枠を、俺とか誰かの位置座標に、ポイントして出現させたのが、”ガラス板”ってわけだ。3Dで立体にも対応で、拡大や縮小、移動も自由だ。
ガラス板を、縮小すればフィットする。拡大や移動なら、あーら不思議、剣をもはじき飛ばす動く防御壁ってわけだ。
元が、マジで実体のない線。100でも1000でも引き治せるし重複できる。複写にも制限がない。そんな感じで、防湿シートくらいなら、無尽蔵出現。その気になれば、俺が餓死するまで、ガンガンでせる。やんないけど。防湿シートには素材がいる。繊維ならなんでもいいんだけど、安定供給できるクモの糸を使用。万能素材だな。
置いてあった防具。時間制限なのか通り過ぎたら消えていた。しっかりもちろんコピー済みで、抜かりはない。防具の攻撃アイデアをいくつも思いついてる。試したかったんだけど、こいつら、その最初のところ。たかが防水シートで躓いて、全然、突破してくれない。いいかげん意欲が尽きたよ。意気消沈だ。
進めば魔物がいるだろう。そこで試してもいいんだけど、レリアたちとの合流を思えばもう時間がない。
「グルーm」
はぁ……。これだ。
ゲゲリーが、にらんでるよ。
ぐるー なに?
グルームがバカとかアホとか、劣等だとかいいたいんだろ。
飽きた。耳タコだ。そんなで、3人を取り囲んでやった。
「動かないほうがいいぞ」
半透明の板を四方に、いや二方だな。こいつらには、前後だけで十分。通路だし。
指一本動かす労力ももったいない気分。休みは嬉しいけど多すぎると疲れるアレだ。ダレるんだ。
「それ、バリアとか体縛りの結界用と思ったら大間違いだぞ」
「……なに」
「体を。腰と腹。肩と腕。首。いつでもどこでも、好きな位置を切断できる」
「……こ、こけおどしを」
うーん。この反応も一緒。ツッコミに進歩が感じられない。
「試してもいいけど? 死人って、頼みの回復スキルで生き返る?」
回復のスキルオーブ、コピーしたやつ返してやったのに、”どうも”のひとつもない。
いや別に、感謝は求めてないけど。なんかな。
「グルームのくせ」
はあ………………。
このままほっとくか。餓死させるか。俺たちを殺そうとしてんだから、返り討ちしても文句いえないよな。それでもいいんだけど……。いや、俺が染まってどうする。転生したkらって、心まで未開人化するのは違うだろ。
あああああああっ!
なんか、むしゃくしゃする。
ひとこと、言ってやらないと気分が収まらん!
「グルームがグルームがって聞き飽きた。もうやめたら?」
「やめる、です?」
「聞いたぞ。たかが嫉妬の逆恨みなんだろ?」
ブランが言ってた。あんまり知らないけどって笑って。
この女の弱みは何かって訊ねたら、ほかのあれこれと混ぜて、聞かせてくれたんだ。弱みというより古くさいゴシップを。
「たかが? 曾祖父の深い傷をたかが!!??」
怒ってます。手入れの生き届いたヘアを逆立たせてます。
激高っていうヤツだな。
「オカシイと思わないか。あんたのじい様が恨んでいるっていう話。”グルームに婆さんを奪われた”とか言ってんだろ?」
「じい様じゃない! お父様のおじい様。曾祖父です!」
ソウデスカ。
「どうでもいい。あんたはいったい誰の孫いや、誰の曾孫だ?」
「それは、曾祖父にきまって」
「ピンポーン正解です。では、あんたの父親は誰の息子だ?」
「曾祖父の子供の子供、祖父の子です。バカにするですか!」
はい、以上、家系の復習でした。
「そう。あんたの父親は曽祖母の孫で、あんたは曾孫。ということでもある」
「……それが、なんです。それは?」
家系図を【基本家屋】に記し、薄ガラスで実体化。スクリーン、というか100V大型液晶のほうが近い。まあ”見える化”だ。視覚化するほうが、絶対わかりやすい。とっくに混乱してる俺のための、混乱回避図だ。ゲゲリーのためじゃない。
聞きたいことはあるだろう。でも受けつけない。
家系図に、相関関係を付け足していった。
「ゲゲリーの曾祖父がここ。で、想い人がいたと。グルームのライバル――俺の曾祖父の登場――に、奪われたっと。そういうことな」
「卑怯な手でさらったです!」
「黙らっしゃい!」
囲いを縮めて黙らせた。
感情的にギャーギャー騒がれると、集中が途切れるんだ。
「それは曾祖父の言い分にすぎない。寝取られたのかもしれないし、純粋に、恋の駆け引きに負けたのかもしれない。件のお嬢様はグルームに嫁いできたと。そうだな?」
ウンってうなづけ。苦手なんだよ、長考しながら長々話すのは。
「……」
首が小さく縦に動いた。
OKと見なずぞ。見なすからな。
「グルームに嫁いだ女性を元カノとしよう。横恋慕って可能性もあるが、いまとなっちゃ事実はわからない。その娘のことをいつまでも想っていたわけだ。ほかにも事情があるかもしれないけど、グルーム憎しの発端だ」
無言だ。ゲゲリーの会話する空気を知って部下の男どもも、沈静してる。けっこう。大人しくなったので囲いを広げてやった。立ってるゲゲリーに気遣って座りはしてないが。
静かにしてれば危害は加えない。なんか強盗の言い分っぽいな。
「俺は知らんかったけどレブン貴族なら誰もが知ってる常識らしい。ここまではいいな?」
「……いいです」
「ここで、ばあさまが登場する」
ガルモグ家曾祖父の横、”曽祖母”を大きく〇で囲んだ。二人の下に延びた線に爺さんがあり、その下に父、そして最下のゲゲリーに連なる。
「あんたのじ様は、こっちのじ様を不幸の原因と恨んだ。一方的に糾弾し、難癖をつけ、あらゆる手段で蹴落としてきた。それから3代。いまやグルームはい下っ端の下っ端。抱える農家も3軒。いや最近2軒になったんだっけ。かなり食うに困ってるのに、父上ときたら、他所の農家に食糧を分けたりして、まったくお人よしにもほどが……ま、それはいい。あんたのじいさんのことだ」
一拍おいて。
「グルームのせいで不幸になった――それがじさまの主張だったな」
「です! グルームのせいで不幸に!」
「あんたの父が生まれて、あんたが生まれてるのに?」
「……?」
「あんたな。じさまが独り身だってんなら、不幸や略奪って言い分も通る。わかりたくないけど、理屈は通る。けどなあ、結婚して家庭をもったんだろ? あんたの一族はみんな不幸なのか?」
「不敬です。不幸なはずが……!!」
はっと息をのむ、ゲゲリー。
俺はもう一度、大きく息を吐く。山を越えた感じがした。
「ふぅ……やっと、わかったようだな」
曾祖父は自分を不幸とし、グルームを恨んでいたようだが、それでも結婚し、嫁との間に子供ができた。貴族はお家存続が第一。日本の武家時代を紐とくまでもなく、似たようなケースはいくらでもある。跡継ぎのない富豪に烏合の親戚がやんのやんの乗り込んできたり、本妻、側室が、互いの子供に毒を盛ったり。
跡継ぎがないと、無駄な混乱を呼ぶ。待っているのは、封建社会にありがちな、お家取り潰し。家庭の崩壊だ。
ガルモグ家には、そういう騒ぎは起こらなかったという。安定を招いたのだ。嫁いだ女性が偉かったのかじさまが惚れたのか。跡継ぎが無地に生まれてお家は安定していた。それなのに。そのにもかかわらず不幸であると、じさまは、ぶちまけてた。嫁と設けた家庭を否定してるふうにみえる。じさまの言い分だけを取り上げれば。
「あんた。あんたのじさまは、あんたを否定してたか? あんたの父を否定してたか?」
「……かわいがってもらった、です」
「なら。そういうことだったんだよ」
ぺたり。ウィゲリーリは床に沈み込んだ。
両手で顔を覆って、リーリは、いままでなんのために! とか嘆いてる。
しらん!
こいつは不幸の孫じゃない。望まれずに生まれた子孫じゃなく。
誰からも愛されて育った娘なんだよ。
「あとにひけなくなったんだな。じさまは」
推測するに。
ウィゲリーリの曾祖父は、どこかで我に返ったんだと思う。恋愛熱から冷めたんだよ。契機は結婚か、子供が生まれた時。でも、それまでさんざん騒いだものだから、後に引けなくなった。意地をつづけるしかなくなった。
グルームは悪だの、憎いだの、終始言い続けてれば、そりゃ、子供はその気になる。周囲も気をつかって、蹴落としに向かうことだろう。そうして対グルームの連鎖が始まりいまに続く。
「……」
「ウィゲリーリさま……」
「おいたわしや」
沈み込んでるな。ここだ。一気に畳みかける。
「あんた、じさまに育てられたって聞いたぞ。あんたのオヤジがあんたを、好きに育てろって面倒な祖父に預けたって。親から離れた人身御供だ。子供っていうのは保護者に頼らないと生きていけない。自分の親じゃないならなおさらだ。保護者のじさまに、好かれようとしてしまう。これは誰の責任でもない子供の心理だ。家訓とやらを書いたのも、じつは、あんたじゃないのか?」
いってやった。い、言うだけいってやった。
こゆの俺のキャラジャナインだけど。やり過ぎ感はちょっと、あるけど。
言ってやったぞー。
スッキリした……ような気がしないでもない。
もう、行っていいよな。行くぞ。俺、はなれるからな。
俺は、そっと、後ろ向きでその場を後にした。
うわああああ。あああああーあああああ!!!
泣き伏せた声が通路に響いたのだが、俺は聞かないことにした。
【基本家屋】を解除してもいいけど。時限設定にした。
アイツらは信じきれない。強度は緩めた。10分後に取り払うってことで。
そういえば、ドッグタグを風で切り落としたヤツ。どこの誰なんだ?
やっと片付いた……




