48 地下牢尋問
遅い……遅い……更新が遅い。
続きっぱなしてすいません。
急いでるつもりですが、進みません
ガモルク家の薄暗い地下室に、硬い音が響く。
ウィゲリーリがふるう鞭の音だ。
「吐くですッ。スキルをどうやって得たですか」
しなやかな凶器がうなりをあげるたび、ひとつ、またひとつ、腕に胸に傷が刻まれる。
ふたつの手首には、壁からのびる金属の輪に繋がれて、座りこむことさえできない。
衣服はとっくに引き裂かれ、ただのボロになり下がっていた。
幼気な子供のあまりにも無残で哀れな様子に、ウィゲリーリの従者も顔をそむけるのだが、それ以上の疑問がよぎる。
「……さっきから言ってるだろう。そんなもんはない。あんたバカだな」
蛮勇なのか意固地なのか、反抗的な態度がくずれないどころか兆候すらみあたらない。
その態度がウィゲリーリに火をつける。質問はエスカレート。椅子に座らせての尋問だったのが、手がでて足がでる詰問に。やがて鎖につないた拷問へとスケールアップした。
「……この、ですッ!」
鞭がしなり、空気と肉とを切り裂いた。
子供は、うっとうめき、気を失った。
「はぁ、はぁ。リーリは、休んでくるです。水をぶっかけ起こしておくです」
苔生した石の階段をあがれば、曇り日の屋内なのに空気がまぶしかった。
サロンでは、父ガリフフが葉巻をくゆらせてた。ソファに15歳の体を沈める。罪人を追いつめている高揚感はあるが、なぜだか歳をとったような気もする15歳なのに。
「飲むか?」
ガリフフがすすめた果実酒を断り、水を頼んだ。如才ないメイドがトレイにマグを載せてきた。取っ手をとろうとするも、手が震えてうまく握れない。鞭の使い過ぎによる筋肉痛だと苦笑し、どうにか両手ではさんで持った。
喉を鳴らして一気に飲みほす娘を、鼻から煙を吐き出すガリフフが見据える。
「リーリよ。子供をさらってきて傷まで負わせるとは。どう言い繕うつもりだ」
「あれはグルームの子。グルーム家は悪。それだけです。曾祖父の教えを守ってるです」
「それはいい。あやつらの没落はガモルクの悲願だからな。だが世には風聞というものがある。度が過ぎた逸脱は危険なのだ。子供への処罰はさすがに世間が受け入れぬ」
「世間? どいうでもいいです」
「良いわけなかろうが! リーリよ。祖父から聞いたことはあるのか。ガモルクがグルームを悪とする理由を」
グルーム男爵はかつて、ギャクルド侯爵という上級貴族だった。ガモルク家と並ぶ家格であったが、とあることで対立がおこる。負けたギャクルドは上級から下級へと転落さしめられ決着がついたにみえたが、ガモルク側は納得せず、ギャクルドを名乗ることさえ禁じじる。
代りに付けた家名が”グルーム”でその意味は”陰鬱”だという。当時のグルーム当主が自虐的につけたとされているが、本当のところは知る由もない。ガリフフおよび、世間一般の知る歴史である。
「理由? 曾祖父の言葉は絶対。侯爵でも男爵でもグルームは悪です」
対立の原因は、些細な口論だったという噂がたった。ガモルクは器が小さいと嘲笑する者はいまだにいる。だが祖父の怒りは相当なもので、落としてもなお蹴落とし足りず、死の間際まで恨みを引きずっていた。この娘はその血を色濃く継いでしまった。真っすぐに返答する目には、一片の迷いも見当たらない。ガリフフからため息がもれた。
「外にはローラン=グルームが来ておる。子供らを返せとな」
「悪は追い返せばいいです。女ひとり、鞭のひとつも与えれば逃げだすです」
「返せと騒ぎたてる声が、そなたに聞こえぬか? 100人からの数を引き連れ押し寄せておる。引き渡さねば、騒ぎはますます大きくなるばかりだ」
「ですか。どうりで心地よい鳴き声なのです」
「心地、よいと?」
「世間グルームの言い分などいくらでも踏みつぶしてみせるです。たとえ白でも黒に仕立てるです。灰色なら確実なおです」
「ベクブラーム家が騒ぎに乗ってくるぞ。他の家もだ。どう終息させるつもりだ」
「子供は吐くですよ。”スキルをドロボウしましたごめんなさい”と。戻るです」
ウィゲリーリを一番に可愛がっていたのは、この子の曾祖父。幼い時分から生真面目な娘がであったが、祖父が亡くなってからはその気質に拍車がかかる。曾祖父の偏重なおしえを盲信へと昇華させたのだ。髪をばっさり短く切ったのはそのころ。ガリフフは、サロンを去る後ろ姿に気づいた。自分の言葉など、ずいぶん前から届いてないのだと。
ウィゲリーリが地下におりてみると、グルームの子は、体のどこも濡れていなかった。
罪人も床も乾いたままなのは、地下室の暗さか燭台の揺ぎにより錯覚かと、目をこすった。やはり乾いたまま。
「な……! 水をかけろと言ったですが? お前、従者の指を折るです」
「…………はっ!」
「と、とんでもありません。お言いつけ通りかけました。血で臭い部屋を洗い流したくて3杯も。ですが……やめ、てくださ……うぐぁーッ」
問答無用。二人目の従者が、済まなそうに取り押さえ、人差し指を捻じ曲げる。ぽきり。と鈍い音が地下室に響いた。
「どこが3杯です。さぼっていたならそう言うです。見苦しい」
「……恐れながら、それは本当のことです。私たちも見ていましたので」
「お前も、バカいうですか。」
さぼったイイワケを苦し紛れに考えたり、仲間に根回しするくらいなら、水を汲んでくればいいのだ。無駄なやりとりに時間をとられ、ウィゲリーリは腹がたった。この件に関わったこの場の従者らは、根こそぎ全員、制裁を加えると決めて鞭を手にする。
鉄格子の扉を開かせ、無機質な室内へ入ると、妙な違和感。むくりと頭をあげた子供の顔が、キレイそのものなのだ。傷がないどころか健康的だ。
誰かが手当をしたのか。いや、仮にそうでもこんな短時間に、回復するものではない。そんなバカげた特効薬などないし。過去に異色スキルにも一度か二度あったという程度。
それに衣服。ずたずたなボロ切れとなった上衣が、裂目ひとつもない。連行した最初の状態に巻き戻っているのだ。ありえない。それでも聞かずにいられない。
「こいつは……。このグルームに食事を与え、寝かせたですか!?」
「ま、まさか!」
「着替えさせたですか?」
「そのようなこと……は」
付け加えるなら、充足した中に気怠があった。
まるで、熟睡したベッドから起きだしたばかりみたいに。
「ふあ……やっと来たか」
そしてその通りの言葉を発する。
「ガモルク娘……で、いいんだよな。聞き忘れてたことがあるんだけど。聞いていい?」
気圧されている。自分の半分しかない小さな5歳児。しかも下級でしかないグルームの子倅ごときが、継承もつけず”ガモルク”と呼び捨て。雲の上の存在である上級貴族のに敬意のかけらも示さない。すくなくとも、怯えはあってもいい。もう単なる意固地を越えている。
ウィゲリーリは牢から後ずさっていた。鞭が手からこぼれ落ちたが、気づかない。
「俺の姉弟、レリアとフレッド無事か。無事だよな?」
「ぐ、グルームの分際で」
許しも得ずに質問してくる存在。ウィゲリーリの目には、5歳児と写らなくなっていた。
頬が冷たい。じっとりと汗が流れている。牢に取って返し、鞭をふるおうとしたが、鞭がない。どこだと従者をふり返るが、首をふるばかり。
「足んとこに落ちてるぞ。鞭だろ?」
目線を合わせたくないが、目を離すことはガモルクのブライドが許さない。
屈みこみ、なんども左右に床を手さぐりし、硬革の武器を探りあてる。強気にニヤリと微笑み、鞭をしならせた。
「この悪魔が!」
「ぐっ」
「グルームの子が!」
「むぐぐ……」
「恐れいったですか!」
「恐れい…って」
ねじ伏せた。そう確信したのだが。
「………なんてなっ! 痛くもかゆくもねー!! はははっはーーー!!!」
ウィゲリーリは、尿を垂れながしてその場にへたり込んだ。従者たちに抱えられ、牢から連れ出される。悪魔だ。そうとしか思えない。悪魔は殺す。それしか考えられなかった。
殺して……死体はレブンの外に投げれば終わり。
そういえば、父がなにか言っていたが。世間体?
そんなものはどうでもいいが、大義が必要なことだけは、微かながら理解している。
ガモルク家が他家の攻撃にさらされるのは、ウィゲリーリが望むところではない。
『「子供は吐くですよ。”スキルをドロボウしましたごめんなさい”と』
いまだ吐いてない。しかもどうやら、自分には吐かかせられそうにもない。
子供から言質を得られなかった。ならば、抹殺は合法的手段に限定された。
そうなると……!
「アリストサイド。試練の塔に入れる、です」
客観視点って、なんか凝ってしまうんですよね
でも文が下手だから、読み返すだびに、粗がみつかって。
直しても直しても……じっと手を視る




