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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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40/83

40 足止めブラン



「なるようにしかならないさ。誰もダンジョンの意志には誰も逆らえないけど、二人で無事、攻略してみせるよ。なあ騎士さん?」


ルミナスはジト目のストライトに微笑んで、編みこんだ糸で作ったらしい10センチほどの分厚い板を3枚出現させた。


「タタミっていうんだ。【アーキテクチャ】はこんなものもだせる。魔物ださずに、越えられそうじゃね?」

「そうじゃね って。無理だと思うわ」


品名なんか聞いてない、とため息をつくブランチェスの見守るなか、

ルミナスは、踏破済みの森の上に置き直したタタミに、勢いよく駆け昇った。

内と外の間に鎮座した踏破済み域を超えようって腹なのだろう。


しかし高さが足りないように、ブランチェスには思えた。

どう見積もっても、彼女の背丈くらいしかないのだ。

以前、糸の紐で跳び越えたように、いかないと疑心する。


案の定、茂みだったエリアは芝化した。

支えのタタミは、そこに載った人物ごと地面に落下。「あぎゃ?」と踏まれた蛇のような声をあげるルミナスは、たちまち、待ち受けた魔物に囲まれてしまう。


「なぜに!?」


魔物は4匹。毛虫3、カマキリ1、蜂1。退治を余儀なくされる。

すっかり口癖になった「時間がない」を連発しながら、格闘によって貴重な数分を削られ、ついでに服を擦り切れさせて、やっと外のエリアへ行くことができた。


その後を恐る恐る、ブランチェスの女騎士、ストライト=シンプレッドが続いた。

のっけから不安しかない二人の行く末を、ブランチェスは見送るのだった。


「……心配すぎるわね」


だが、案じてばかりもいられない。

自分は自分の役目がある。内側をひとりで攻略しなくてはならないのだ。


「1-10と言ってたわね。手早く終わらせて二人を待つとしようか」


ルミナスの置き土産を拾うブランチェス。最新版の立札を剥がした板だ。

杭を取り外したその裏には、ルミナスによって、マス目が描き記してある。

マス目の数は10×10で、ブランチェス用。

わかりやすく、彼女が進むべきエリア限定だ。


左足を踏み入れると、さっそく魔物が登場。

見慣れた蜂が1匹、少女の出方うかがうように、羽音をたててホバリング。

尻から針をだし、いまにも襲おうとしていた。


蜂は、ふつうのサイズであってもアレルギーショックで致死する場合がある。

自在に空中を飛び回る人頭サイズの蜂は、それだけで、恐怖を誘う。


だが、数匹を相手に、幾度も四散させでるブランチェスには、敵ではない。

迷うことなくスキルを発動。


「【土魔法】礫弾!」


”礫”は【土魔法】スキルのひとつ。2ミリから200ミリくらいの、石を出現させる。”礫”は指定の位置に石が現れるスキル。”弾き飛ぶ”を意識することで、攻撃技になる。


蜂は、大小の、10ほどの粒をよけたが、移動範囲をもうらする物量に勝てない、20を越える礫の雨を受けて、四散した。


「ふう。石サイズが選べないのが難点なのよね。2ミリから20センチがランダムなんて中途半端だわ。大きさを指定できるならバリエーションも増えるんだけど」


2ミリの極小なら瞬間的な発射で目くらまし。最大の20センチ級は遠距離から一撃。

ブランチェスが描いてる攻撃手段だ。


「まあいいわ。さくさくいくわよ」


次のエリアに踏み込もうと、腕で木を押した。

いつもなら、森であれ茂みであれ、体のどこかが入りこんだとたん、刈り揃えた庭芝になる。だが、押した腕が触った木は、変化することなく、ブランチェスの身体を押し戻す。


「おかしいわね。こんなことが」


もういっぽうの腕で試すが同じで、森に変化がおこらない。

足先でやってみても膝で蹴っても変わらない。

髪を振り乱して身体ごとぶつかってみたが、一向に芝になる気配がない。


「……どういうことなのかしら? え?」


ぶーんという羽音が、背後から耳に届いた。

ふり返ると、今しがた光の粒にした、蜂が羽音を立てている。


「魔物! まだ踏破エリアなのに。新規エリアに踏みこめてないのに」


驚愕するブランチェスだが、魔物は人の動揺にかまってはくれない。

咄嗟に利き手の右で柄を握り片手剣を鞘から引き抜いた。

蜂は、剣士の不得手を知ってか、彼女の左にまわりこむ。


身体を左にさばき右に抜いた剣を振りもどそうとしたが、蜂のほうが速かった。

間に合わないと判断したブランチェスは、剣を手放す。

左にかかえていた板で針を払った。

スピードのある蜂に押され、足をもたつかせて転倒する。


「きゃっ」


ここが極めどころ!

そう蜂が歓喜したかはわからないが、

天を仰ぎ無防備にみえる少女に、直線的に襲いかかる。


「……こぉの【万能鋏(オールシザー)】!」


板も放棄したブランチェスが、右手をふるった。

なにも持っていない右手が空を斬る。


万能鋏(オールシザー)】は 指先の延長の空気刃、見えないハサミのスキルだ。挟めるものなならなんでも切れる。はじめのころは5センチほどだったのが、徐々にコツをつかんで、切断できる長さを調節できるようなった。

いまは、1.5mまでなら自由に斬れる。


勝ちを確信したようにみえた蜂は、次の瞬間、頭部を切り離され光の粒に散った。


「はぁはぁ……コイツ、ついあせってしまったじゃない」


肩にかかるピンクヘアーに絡まった枯草をはらって、落とした剣を柄に戻す。

剣はブロードソード。細剣と言われるレイピアより幅の広い片手剣だ。

標準的ブロードソードよりも長い70センチで、1.5キロと重めだ。

148センチの彼女には、やや荷が重い得物で、ふりまわされ気味だ。


装備は、ぶ厚い革製のジャケットとパンツ。

防護寄りとはいえ、いで立ちと武具は、実践には明らかに不利。

機敏性ダウンを負ってまで、軽いとはいえないチョイスするのは、

ひとえに、親と兄への反発であった。


「意地になるのも考えものね。ちょっと反省だわね。それにしても困ったわ」


三度、ブーンという羽音がした。

今度はさすがに慌てない。

前後に動きまわり片時もじっとしない空中の敵を横一閃。


「進むには条件があるのかしらね、わかるテルアキ?」


気乗り薄となげやりとを合併させた気振りで、訊ねるが返事がない。

そういえば、二手に別れていないんだったわ。

そう独り言ちてから、手前勝手な理不尽な要望を叫ぶ。


「なんでいないのよ! せめて伝書バトくらい残しておきなさいよ!」


そのとき、ブランチェスの脳内に、聞きなれた女性のアナウンスが聞こえた。


―― 〔 スキルを習得しました 【音響魔法(アコースティック)】 音による交信・攻撃・防御ができます 〕


「ほほう音とは便利ね。話もできそうだし。最初からそうすればいいのよ」


何度目かの取得だ。いまさら驚いたりはしない。口元を笑顔にしただけだ。

ムダかもと思いつつ、拒絶されたばかりのエリアへと踏み込んでみた。

だが、今度はすんなりと景色が一変。歩きやすい低芝の地面へと形を変えた。


「なんだかわからないけど行けるようになったようね。【音響魔法(アコースティック)】。テルアキ聞こえてる?」


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