41 風のこえ
意外と素直な人なんだな。
【アーキテクチャ】で再構築したバット刀を見て、修復と勘違い。
あっけないほど、俺に対して反感態度を翻した騎士さんだった。
別種のツンデレか。それでいいのか。騎士の心構え的に。
魔物が現れる。今度はイモムシだ。俺は足を止める。
横で、魔物の登場に柄を握ったままで硬直しまくるストライトをうながしてみた。
「初退治にはぴったりの相手ですが。やってみますか」
「も、もちろんだがいいのか。君なら一瞬だろうに。私は、どうにも、魔物ってやつが苦手みたいだ。倒せる確信がもてない、一刻を急ぐ君の、足をひっぱるだけで、役にたつことが難しいかもしれない。よしんば。よしんばだぞ、その魔物を私が倒せたとしても、相応の時間という代償を負うことも、覚悟して欲しいし。最悪、どれだけの時を費やしても、あくまでも最悪だぞ、私が倒せないことで時の浪費が」
「ストーっぷ!!! いいからかかれ!」
こいつにしゃべるほうが、よっぽど時間の浪費だ。
イライラしないで、話をきいていられるとしたら、そいつはよほどの大物だ。
イモムシは、糸を吐く魔物。
動きは、のそのそして遅いのだが、侮ってると、痛い目にある。
ブランと俺が、天国の切符を手に入れる寸前だったのは、記憶に新しい。
だがコイツの、糸による強みは、ほかの魔物がいてこそだ。
一匹だけなら危険は少ない。
糸を吐きだすときの口の動きにさえ、集中しておけばいい。
「いくぞ、いくぞっ!」
レイピアを頭上高くに、いわゆる大上段に構える騎士さん。
あのー、敵は小さいんですけど。そりゃ、イモムシとしては、ダチョウが生まれても可笑しくない規格外だけど、俺の膝より低い位置をのそのそ這う魔物に、その構えを選ぶのって違う気がするんですが。本当にあんた、認められた騎士ですか。人材不足すか。
構えと瞬発力のすさまじさを見る限り、この人の腕は確かだ。
いまの俺なら、絶対に負けると、100%断言できる。
なのに、この体たらく。
尽きない疑問と不安は心中に潜めおいて、顔には決して出さない。
頬を引きつらせる笑顔で、見守るのが、指導者たるの心得というものだ。
ふっ。
なんつーことを仰ったのは太極拳の老師。
弟子の俺に話したのだが、どんな意図があったのか。
今となっては知ることもできないんだが――
「ふみっ! でやっ! ……こしゃくな! 身を縮めて我が剣をかわすとは!」
――騎士さんをみていて、わかった。
言い渡された言葉が、道場の映像とともに蘇ってくる。
「倉地くん。わしからは、君に教えることはもうない」
師匠の笑顔を覚えてる。頬を引きつらせたあの笑顔を。
匙を投げたってことだ。弟子の俺に。
いままで、俺がやってきた太極拳っていったい。
ORZ。
――〔スキルを取得しました 【指導教師】 あなたを師と仰いだ者に与える指導が弟子を強化します〕
またスキルのゲットか。
”指導”ってなんだそら。嫌味か。
『…………アキ……テルアキ』
「うるせー。それどろろじゃないんだよ。ブラン」
え?ブラン?
『テルアキ。聞こえてる? 私よブランチェスよ』
「え? なんでどこからしゃっべてる? 抜け出してきたのか」
左右を見回していないので、後ろも振り返ったがブランの姿がない。
無風の芝目が、荒れた騎士の猪突な剣によってなぎ動くだけ。
『取得したアコースティックって、風のスキルで話をしてるの』
「通信スキルってことか。羨ましいものをゲットしたなあ。こっちはあんたの騎士が奮闘中だ」
しかも使いこなしてる。通信がまだない世界、少なくとも俺は知らない。
それなのに、すごく頭が柔軟だ。
『君とぶつかってない? 頑固な子だから』
”子”あつかいかよ。
年上だよな。
「打ち解けてるよ。バット……木の棒を直したら」
『なによそれ』
「さあ。けども、そのせいでかえって時間がかかってる」
俺は肩を落とした。
ORZ×2の空気。
すこしばかり、自虐的な気分。
「ところで何の用事だ? スキル試験運用だけじゃないんだろ」
『あ、それそれ。新しいエリアに行けないと思っていたら、行けたのよ』
行けたんなら、良かった。
何の話だよ。
「それはおめでとさん。切るぞ」
『切る? なにを言ってるの。”切る”は私の専売じゃない』
電話じゃなかったんだっけ。
こっちから切れないなら、相手の気が済むまで繋がったままってことか。
それはそれで迷惑だが。
いやまて。
ブランがだんまりで、先方が気づかなかったら、音は垂れ流し盗聴しほうだいだ。
セキュリティ解除の手間無しで、ストーカーもし放題ってすげーな。
考えてみればトンデモスキルだ。
接続先の選定はどうだ。制限ってないのか。
そこんとこのあれこれに、興味は尽きない。
『違うのよ。エリアの魔物を倒して、次に行こうと踏み込んだけれど、森は森のまま芝絨毯にならなくて。3匹倒したときに、やっと行けるようになったのよ。進むなにかの条件があるんだろうけど思いつかなくて。テルアキ、なにか心当たりがない?』
「うーん。それだけじゃなんとも。森が芝になったのはいつだ?」
『ついさっきよ』
「ついさっき……あ!」
『分かったの?』
俺たちが、端に届いたのが、ついさっきのこと。
そのタイミングで、森が開けたのだとすれば、連動してるのか!
憶測にすぎないが、このダンジョンのやりそうなことだ。
「おそらくだけど、こっちが端にたどりつくと新エリアが解放される」
『ええ? マスを数えたんだけど。それだと数が合わなくない?』
「そうか……なら、数だな。踏破のエリア数が一定に達するごと、そっちが解放と」
『あるかもしれないわね』
そのとき、やったーという疲れた声がした。
「た、倒してやったぞ! ハァ、ハァ、私にかかれば魔物など、ハァ、ハァ」
騎士さんがイモムシを倒した。
息も絶え絶えとはこのことだ。
あれだけ苦戦、つーか自滅な攻撃を繰り返せば、疲れもするわな。
費用対効果がなってない。コストかけすぎ。
『なら私は、テルアキたちが攻略するあいだ、ずっと魔物の相手をしなければいけないのね』
「解放されるまで待ってりゃいいだろ」
『倒しても倒しても沸いてくるのよ。いまもネズミの魔物と…………キリがないわ』
キキィ―という鳴き声とともに、通信が一時中断。
直後に再開したが、倒した瞬間をライブ中継しているのだ。
「……わかった急ぐ。ガンバレ」
『うん』
通信――”アコースティック”って言ったか――が、今度こそ終了した。
待てば待つほど、ブランは戦わなくてはならない。
こっちの進捗が悪いほど、ブランの戦闘回数が植えるのだ。
いまはまだ、余裕があるようだが、先のことはわからない。
「騎士さんブランがヤバい、行くぞ!」




