39 不安な二手
修正しました
最初のちょっとした山を乗り越えて、俺は思う。
5歳児に、なにかの成果を求められても困る、と。
日本の幼稚園にあるグラウンドの規定は、3クラスある幼稚園で、400㎡。
正方形だとすると、一辺は20mに過ぎない。
対してこのダンジョンの距離は、1辺最大100m。
距離なら5倍。面積にすると25倍もあるのだ。
MPの代りが各スキルの回数で、それはHPも肩代わりもやってくれてる。
しかし数字には、ゲームにあるSTRやINTなどに該当するヤツがない。
ゆえに、気力体力は自前ってことなのに、体力ってものが致命的に不足してる。
こうしてる間にも、数字は下のほうから減っていってる。
「果てしない」
お昼寝の時間を削って、ダンジョン攻略?
親の目を盗んでゲーム機ピコピコとはワケがちがう。
自分の足で、歩きまわる修行と化してる。
こんな計算は、始める前に考えておくべき。
考えれば考えるほど、考えなしだったなーと、我に返ってしまう。
こう、やっちまってる進行形で、距離だ面積だと言い出しても、ひとつもいいことない。
一歩あたり30センチ強の歩幅を駆って、エリアを突き進みながら思う。
「わ、われながら、ネガティブ思考」
ぬぐった汗は、暑さのせいだけじゃない。
自分から始めておいて、いまさらだが。
生まれ変わってもマイナスな思考回路は、進歩しなかったようだ。
「ブランチェスさまは君をリーダーと買っている様子。どんなプランを描いているのだ」
聞いてきたのは、早歩きペースで5歩ほど後方にいる騎士さん。
知るか。自分の後悔だけで一杯いっぱいなんだよ。
踏み入れたエリアには、大人くらいの杉の木が一本目立っていた。
これまでどれもエリアの植物は、かならず刈り芝になってる。
不自然だ。不自然は危険。
駆ける勢いに載せ、バットを奮ってみる。
「ふ、ただの木を攻撃するとは、考えなしの子供の遊びだな」
何とでも言うがいい。
魔物かもしれないし、魔物でないなら俺の腕が痺れるだけ。
通り抜けざまに、不意打ちを食らうより1000倍もマシだ。
キィキィキ・ギギギ……
「当たりだっ!」
「な、トレント!」
木に発声器官はない。幹の擦れる音は、悲鳴の代りか。
杉の魔物は、左右の腕のような枝を2本残して消失する。
見た目より弱かった敵の落とし物を、足は止めず空中でキャッチ。
【アーキテクチャ】の窓をだし【設計】の画面でチェックした。
「”トレントの枝”か。まんまだな」
騎士さんは、魔物に詳しいようだ。
年齢制限がどうとか、言っていたし、勉強家タイプか。
【移動】を選ぶ。握っている”トレントの枝”は【アーキテクチャ】に取り込まれて、実態を消した。材料となりそうなものは確保していく。なにが貴重なのかわからないからな。木材として使えるだろう。
【コピー】して実体化するにしても、現物はいるのだ。形が異なっても、その代替えとなる”元素”は必需品だと、自室でなんども試してわかってる。作りつけの家具も、元々はタンスなんかを素材にしてる。
【アーキテクチャ】窓はそのままに、先の騎士さんの言葉に、返答する。
「走る! 果てにぶつかったら左へ2回方向転換! 魔物は倒してスキルの肥やし。以上! ぶげっ」
そこで、ちょうど茂みに弾かれて、背中からひっくり返った。受け身で素早く立ち上がる。
茂み茂みのままで、芝には変わらなかった。最初の100mの端に到達し、一回目のゴールで2回目の折り返しか。
左側に向いて足を進めた。よしよし。今度はちゃんと芝になった。そこをすぐ左に踏み込んで芝にする。2回目の開始だ。こんな直線をあと38回。体力ままに突進するわけだ。
「素晴らしく練りこまれたアイデアだ。素直に感嘆しよう」
「どうも。そちらも少しは役に立つところを見せてくれませんかね。じゃないと本気で置いていきますよ」
俺は走り出す。ゆるい徒競走の再開だ。
この人にも頑張ってもらわないと、現実問題、攻略はムズイ。
若くして騎士に叙勲されるほどだから、腕はいい……はず。
問題があるとすれば、魔物慣れしてないこと、だけ。
1対1の対決しか、経験してないんだろう。しかも対人技特化だ。
騎士さんは、中指をおっ立てた。てめぇのケツにキスしろ! かよ。
騎士に、もっというなら女性にあるまじき行動だ。
武道は心技体っていうが、”心”を占める悪意の割合がなあ。
1、2、3、エリアを進んでいく。
……5。
……7。
魔物だ。またトレントか。
「あれ?」
トレントがあらわれた
ルミナスはバット刀のこうげきした
トレントは枝でこうげきをさけた
トレントのこうげき
ルミナスはバット刀でよけた
バット刀がこわれた!
ルミナスはスキル【蹴り】でこうげき
かいしんのいちげき!
トレントはたおれた
一連の攻防を懐かしのゲーム風に表現してみました。
「ふぅ。まさか避けるとはな。木材のくせにやるもんだ」
トレントは消える前に”木の実”を落とした。
【アーキテクチャ】の窓で確認すると、”木の実”は食材。
何かステータスが回復するというものではなく、お腹を満たす食べ物。
腹がへったら食べよ。
それより俺は、バトル前に窓に表記された項目のほうが気になった。
トレントを倒すまで、”スキル【固定】”という文字が、示されていたのだ。
スキル【固定】か。
スキルが固定化するという意味ではないだろ。
じゃなくて、その場から移動しない効果のあるスキルだとニラむ。
これ快挙じゃね?
これまで、いつのまにか取得するのがスキルだと思っていたが、オーブのような物体として取得できるかもしれないのだ。持ち帰って誰かに使えるなら、利用幅は計り知れない。
”木の実”を落としたのも初めてのケースだった。可能性は高そうだ。
うーん。いやまて。
ロストを待つこともないな。
ゲット確率をかんたんに上げるなら、いっそ、盗みとる?
持っているのは魔物で人じゃない。犯罪にはならない、よな?
ちょっと楽しくなってきた。
【アーキテクチャ】で、どうにかならないか?
窓に表示されるくらいだから、【コピー】や【移動】でゲットできるたり?
いやーいくらなんでも、それは都合がよすぎるって。
きっと、別にあるんだろ。スティールとか強奪みたいなスキルが。
そう考えたほうが自然だし、落ち着く。
ゲットの見込みがあると知れただけでも、収穫だと思おう。
2つに折れたバット刀を【アーキテクチャ】に取り込む。
以前に設計してた”バット刀”を図面に表示。実体化、試しにふってみた。
「むんっ! おー具合は申し分なし。予想以上だな」
細剣を揺らした騎士さんが、目を丸くしつつ、並走してきた。
「い、一瞬で修理したっていうのか? 借りていいか?」
「いいよ」
「まさか、いや、どんなトリックだ。信じられない」
たかが棒とはいえ、ガッツリ折れたのが元通り。
所要時間は2秒ほど。そりゃ驚くよな。
修復したようにみえるだろうが、同じ部材での作り直し。
こわれていようが、素材さえあれば、何度でも直せる。
半永久的に使えてしまう、夢のスキルだ。
こんなにうまくいくとは、俺だってびっくりだ。
「君は優れた鍛冶師なんだな」
鍛冶師。いやバットは木製じゃね?
「なんでも治せるのか? 折れた剣でも?」
「やってみないとわからないけど」
設計図に起こしておけば、材料がある限りいけそうな気がする。
「幼い下級貴族なのに優秀なのだな。才あるものには礼をもって応じる。シンプレッド家の家訓だ。態度を改めねばならないようだ」
「いやまあ」
家訓か。堅い家柄に育った人のようだな。素直な性格なのかもしれない。
態度を変えたほうがよさそうだ。こっちも邪険すぎたかも。
「なんかすみません」
「なぜ謝るのだ?」
散切りショートヘアをフリフリ、本気で不思議がってるぜ。
こんなのも新鮮だな。とかいってると、魔物が現れる。今度はイモムシだ。
俺は足を止めた。柄を握って硬くなった、横のストライトをうながしてみた。
「初退治にはぴったりの相手ですが。やってみますか」




