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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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39/83

39 不安な二手

修正しました

最初のちょっとした山を乗り越えて、俺は思う。

5歳児に、なにかの成果を求められても困る、と。


日本の幼稚園にあるグラウンドの規定は、3クラスある幼稚園で、400㎡。

正方形だとすると、一辺は20mに過ぎない。


対してこのダンジョンの距離は、1辺最大100m。

距離なら5倍。面積にすると25倍もあるのだ。


MPの代りが各スキルの回数で、それはHPも肩代わりもやってくれてる。

しかし数字には、ゲームにあるSTRやINTなどに該当するヤツがない。


ゆえに、気力体力は自前ってことなのに、体力ってものが致命的に不足してる。

こうしてる間にも、数字は下のほうから減っていってる。


「果てしない」


お昼寝の時間を削って、ダンジョン攻略?

親の目を盗んでゲーム機ピコピコとはワケがちがう。

自分の足で、歩きまわる修行と化してる。

こんな計算は、始める前に考えておくべき。


考えれば考えるほど、考えなしだったなーと、我に返ってしまう。

こう、やっちまってる進行形で、距離だ面積だと言い出しても、ひとつもいいことない。

一歩あたり30センチ強の歩幅を駆って、エリアを突き進みながら思う。


「わ、われながら、ネガティブ思考」


ぬぐった汗は、暑さのせいだけじゃない。

自分から始めておいて、いまさらだが。

生まれ変わってもマイナスな思考回路は、進歩しなかったようだ。


「ブランチェスさまは君をリーダーと買っている様子。どんなプランを描いているのだ」


聞いてきたのは、早歩きペースで5歩ほど後方にいる騎士さん。

知るか。自分の後悔だけで一杯いっぱいなんだよ。


踏み入れたエリアには、大人くらいの杉の木が一本目立っていた。

これまでどれもエリアの植物は、かならず刈り芝になってる。

不自然だ。不自然は危険。

駆ける勢いに載せ、バットを奮ってみる。


「ふ、ただの木を攻撃するとは、考えなしの子供の遊びだな」


何とでも言うがいい。

魔物かもしれないし、魔物でないなら俺の腕が痺れるだけ。

通り抜けざまに、不意打ちを食らうより1000倍もマシだ。


キィキィキ・ギギギ……


「当たりだっ!」

「な、トレント!」


木に発声器官はない。幹の擦れる音は、悲鳴の代りか。

杉の魔物は、左右の腕のような枝を2本残して消失する。

見た目より弱かった敵の落とし物を、足は止めず空中でキャッチ。

【アーキテクチャ】の窓をだし【設計】の画面でチェックした。


「”トレントの枝”か。まんまだな」


騎士さんは、魔物に詳しいようだ。

年齢制限がどうとか、言っていたし、勉強家タイプか。


【移動】を選ぶ。握っている”トレントの枝”は【アーキテクチャ】に取り込まれて、実態を消した。材料となりそうなものは確保していく。なにが貴重なのかわからないからな。木材として使えるだろう。


【コピー】して実体化するにしても、現物はいるのだ。形が異なっても、その代替えとなる”元素”は必需品だと、自室でなんども試してわかってる。作りつけの家具も、元々はタンスなんかを素材にしてる。


【アーキテクチャ】窓はそのままに、先の騎士さんの言葉に、返答する。


「走る! 果てにぶつかったら左へ2回方向転換! 魔物は倒してスキルの肥やし。以上! ぶげっ」


そこで、ちょうど茂みに弾かれて、背中からひっくり返った。受け身で素早く立ち上がる。

茂み茂みのままで、芝には変わらなかった。最初の100mの端に到達し、一回目のゴールで2回目の折り返しか。


左側に向いて足を進めた。よしよし。今度はちゃんと芝になった。そこをすぐ左に踏み込んで芝にする。2回目の開始だ。こんな直線をあと38回。体力ままに突進するわけだ。


「素晴らしく練りこまれたアイデアだ。素直に感嘆しよう」

「どうも。そちらも少しは役に立つところを見せてくれませんかね。じゃないと本気で置いていきますよ」


俺は走り出す。ゆるい徒競走の再開だ。

この人にも頑張ってもらわないと、現実問題、攻略はムズイ。


若くして騎士に叙勲されるほどだから、腕はいい……はず。

問題があるとすれば、魔物慣れしてないこと、だけ。

1対1の対決しか、経験してないんだろう。しかも対人技特化だ。


騎士さんは、中指をおっ立てた。てめぇのケツにキスしろ! かよ。

騎士に、もっというなら女性にあるまじき行動だ。

武道は心技体っていうが、”心”を占める悪意の割合がなあ。


1、2、3、エリアを進んでいく。

……5。

……7。

魔物だ。またトレントか。


「あれ?」


トレントがあらわれた

ルミナスはバット刀のこうげきした

トレントは枝でこうげきをさけた

トレントのこうげき

ルミナスはバット刀でよけた


バット刀がこわれた!

ルミナスはスキル【蹴り】でこうげき

かいしんのいちげき!

トレントはたおれた


一連の攻防を懐かしのゲーム風に表現してみました。


「ふぅ。まさか避けるとはな。木材のくせにやるもんだ」


トレントは消える前に”木の実”を落とした。

【アーキテクチャ】の窓で確認すると、”木の実”は食材。

何かステータスが回復するというものではなく、お腹を満たす食べ物。

腹がへったら食べよ。


それより俺は、バトル前に窓に表記された項目のほうが気になった。

トレントを倒すまで、”スキル【固定】”という文字が、示されていたのだ。


スキル【固定】か。

スキルが固定化するという意味ではないだろ。

じゃなくて、その場から移動しない効果のあるスキルだとニラむ。


これ快挙じゃね?


これまで、いつのまにか取得するのがスキルだと思っていたが、オーブのような物体として取得できるかもしれないのだ。持ち帰って誰かに使えるなら、利用幅は計り知れない。

”木の実”を落としたのも初めてのケースだった。可能性は高そうだ。


うーん。いやまて。

ロストを待つこともないな。


ゲット確率をかんたんに上げるなら、いっそ、盗みとる?

持っているのは魔物で人じゃない。犯罪にはならない、よな?

ちょっと楽しくなってきた。


【アーキテクチャ】で、どうにかならないか?

窓に表示されるくらいだから、【コピー】や【移動】でゲットできるたり?

いやーいくらなんでも、それは都合がよすぎるって。


きっと、別にあるんだろ。スティールとか強奪みたいなスキルが。

そう考えたほうが自然だし、落ち着く。

ゲットの見込みがあると知れただけでも、収穫だと思おう。


2つに折れたバット刀を【アーキテクチャ】に取り込む。

以前に設計してた”バット刀”を図面に表示。実体化、試しにふってみた。


「むんっ! おー具合は申し分なし。予想以上だな」


細剣を揺らした騎士さんが、目を丸くしつつ、並走してきた。


「い、一瞬で修理したっていうのか? 借りていいか?」

「いいよ」

「まさか、いや、どんなトリックだ。信じられない」


たかが棒とはいえ、ガッツリ折れたのが元通り。

所要時間は2秒ほど。そりゃ驚くよな。


修復したようにみえるだろうが、同じ部材での作り直し。

こわれていようが、素材さえあれば、何度でも直せる。

半永久的に使えてしまう、夢のスキルだ。

こんなにうまくいくとは、俺だってびっくりだ。


「君は優れた鍛冶師なんだな」


鍛冶師。いやバットは木製じゃね?


「なんでも治せるのか? 折れた剣でも?」

「やってみないとわからないけど」


設計図に起こしておけば、材料がある限りいけそうな気がする。


「幼い下級貴族なのに優秀なのだな。才あるものには礼をもって応じる。シンプレッド家の家訓だ。態度を改めねばならないようだ」

「いやまあ」


家訓か。堅い家柄に育った人のようだな。素直な性格なのかもしれない。

態度を変えたほうがよさそうだ。こっちも邪険すぎたかも。


「なんかすみません」

「なぜ謝るのだ?」


散切りショートヘアをフリフリ、本気で不思議がってるぜ。

こんなのも新鮮だな。とかいってると、魔物が現れる。今度はイモムシだ。

俺は足を止めた。柄を握って硬くなった、横のストライトをうながしてみた。


「初退治にはぴったりの相手ですが。やってみますか」



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