38 二手のジャンケン
俺たちは、到着場所に立つ看板の、次なる指示を読んだ。
「2:直進3後、外部全踏破後、1-12 1:直進1後、内部踏破後、1-10 現在地9-2 同時終了」
はい?
看板じゃなくて立札か。
看板だとペラペラな金属板っぽいが、こいつは木製だ。
そこに、命令というほうが正しそうな、新たな指示。
曲解しないで、すなおに読みとれば、次のようになる。
2:直進3後、外部全踏破後、1-12
意味 3エリアを直進した後、外部のエリアを全部踏んで、1-12に到達しろ
1:直進1後、内部踏破後、1-10
意味 1エリアを直進した後、内部のエリアを全部踏んで、1-10に到達しろ
現在地9-2 同時終了
意味 現在いるエリアは9-2。1と2は同時に終了すること。
”2:”が外側で”1:”が内側。
わざわざ、2、1の順にしてるから、おそらく人数のことだろう。
中と外から同時に攻略完遂せよと。
道から外れたエリアに入ると、魔物は必ず出現してる。それも100%。
ルートにも魔物はいるが、出現率と数の危険度は比較にならない。
指示を厳守しろと宣告しているわけだ。さもなきゃ死ねと。
「どういうことなの? 私には二手に分かれろと読めるのだけれど」
「俺にも、そう読めた」
「同時に? 外と中から? どうやればできるの。別れて行動はできるとしても、叫びながら走り回れとでもいうの。声の届かない森の中を」
芝の地面に、さくっと音を立ててマス目を描いた板を降ろす
それから、現在地と到達地のマスを、人差指と中指で示す。
「それは、なんとかなるだろう。近いし」
ちょっと、混乱したが、”1ー10”とある数字は、西ー南の組み合わせらしい。
ちょっと考えて現在置を修正する。
イメージしていていた位置が違って、スタートが前回と違うじゃねーか。
怒っても仕方がない。出題者の気まぐれは絶対なのだ。
ヒントを示してくれただけありがたいと思うことする。
「よく見せて」
しゃがみ込んだブランの髪が、俺の耳にかかった。
シャンプーなど、無さそうな世界なのに、いい香りがした。
女子ってのは、基本的に良い匂いをまとってるんだな。
「ここ。最後のエリアは、エリア1つを挟んで上下に隣接してる。横から……西側に待機して声を張って待つことにすれば、攻略は同時にできる」
「うーん……そうね。うん。その案ならどうにかなりそうだわ。さすがわテルアキね」
よしよしと、頭を撫でられる。
叩かれるのは痛くてイヤだが、これも不本意だ。
「二手に別れるのね。ストライトが残るのよ」
「私がですか」
「そうよ。名誉挽回のチャンスをあげるわ。私とテルアキが、外を攻める。ストライトは言ったとおりに、中で待つ。早く終わっても、1-10には入らないこと。大声を上げるまで待機」
「ブランチェスさまと別の行動ですか。しかも幼いとはいえ殿方と一緒だと」
俺を視る騎士さん。
「承服しかねます。下級貴族の息子が残ればいいのです。お守りするのが私の役目です」
「守る? あなた魔物を倒せないじゃない」
「そ、それは。この身を盾にしてでも」
「盾ね。それであなたが死んだ後はどうするの? 私一人で広い迷路を制覇しろというの? 無責任な護衛があったものね」
「……星になった後も永劫に」
「話にもならないわ。行くわよテルアキ」
「いやブラン。俺たちは別行動にしよう。残るのは俺かブランのどっちかだ」
「どういうことよ」
詰問するブランに、手短に説明する。
といっても理由は単純。この中にも魔物は出現するってことだ。
今しがた倒したエリアは、紛れもない、この10マスの内部。
騎士さんが一人では、早々にやられる可能性が高い。
3人が2人に減ったとき、ダンジョンはどうでるか?
別の攻略図を示す可能性も、あるだろうが、パターンを変えてこない可能性もある。
攻略は詰んでしまう。
それよりも根本的な理由がある。
見知った人が死んでしまうのは、絶対に避けたいということ。
マルスの件で、どれだけ家族が嘆き悲しんだか。
薄情を自覚する俺にだって、多少の人間味はあるのだ。
俺とブラン。一人で残るのは、二人のうちのどっちかだ。
「仕方がないわね。ジャンケンできめるわよ」
「あるのかジャンケンが!?」
「ジャンケンを知らないなんて、どんな暮らしをしてるのよ」
「いやあ――」
石・ハサミ・紙のジャンケンでなく、土・水・草、だという。
力関係をモチーフ化し発達していて、木、火、土、金、水の五行占いに近い気がした。
世界に広がったジャパンカルチャーのジャンケンとは、とは違っていた。
複雑な気持ちになったが、成り立ちを聞いて納得。
手の形もかけ声も一緒らしく、不都合はない。
ジャンケン――。
「ということで外は俺。よろしくおねがいします騎士さん」
「よろしくするつもりはありません。せいぜい邪魔にならないよう――」
「テルアキが邪魔ですって?」
「あ……いえ。そういう意味では」
「テルアキ。エリアに到着するのは一人でもいいわよ。私の護衛が邪魔になるようなら……あとの心配はいらないから」
言外の意味に、さすがに青くなる騎士さん。
「なるようにしかならないさ。誰もダンジョンの意志には誰も逆らえないけど、二人で無事、攻略してみせるよ。なあ騎士さん?」
何度もいうが時間がない。
シンプルになった攻略手順に、これなら一時間以内になんとかなるかもだと、感謝しつつ、”2:直進3後、外部全踏破後、1-12”コースへとへ駆けだした。




