37 ボコボコ攻略
投稿が途切れ途切れなのに、読んでくれる方がいます。
ブクマは、評価も。
ありがたいことです
「いッつぅ」
「私がなにを」
訝る騎士さんは正座で、俺はじぶんの頭を撫でていた。
脇に羽交い絞めされゴリゴリされたコメカミが痛い。
「胸に手を当てて、よおく考えなさい!」
「こんな不埒な仕打ち、生まれてこのかたありません」
「騎士さんは自業自得だ」
「君もです!」
「ちょっと検証しただけだろう。スキルゲットに付随するロマンだ」
「よぉゆぅの、あ~るときに、し・な・さ・いって、言ぃっているのー」
殺気を察し逃げようとしたが、そのまえに【蔓】でつかまる。
脇に抱えられて、再び、ぐりぐり。き、効きすぎる。
「スキルの乱用禁止! イででででテっ」
「反省した」
「あーーーわかった反省した。ばっちり肝に命じます」
「ウソ臭いけど。まあいいわ」
一筋の脂汗を流すのは騎士さん。
慣れない正座に劇痺れのはずなのに、表情にださない。
「無礼な下級貴族は言を俟たないですが、私は護衛としての責務を果たしてるだけです」
汗のみにとどめてる辛抱強さは、騎士の面目躍如か。
虚偽の謝罪で逃れた、自分がちょっとだけ恥ずい。
エア腕時計を確認して、気持ちをごまかす。
「ブラン時間がない。ルートに戻って先を急ごう」
「そのほうがよさそうね。反省色は足りないみたいだけど。ストライトもういいわよ」
「わ、た、私は責務を、たつっ」
おーおー。痺れジンジンの脚で、よく立ったな。
けどなあ。まだ解ってないんだよコイツ。俺と違った意味で。
「責務責務って。敵を増やし、護衛対象を危険にさらしたことが?」
「カマキリを呼び寄せたのが私だと? なんたる言いがかかり。ダンジョンには魔物はつきものです」
「看板指示のルートから外れると、魔物がでるんだよ」
「笑止! そのような戯言を誰が……」
「急ぐのでしょうテルアキ。それで――」
ゆるやかな木漏れ日を浴び、発展途上の胸をつんと突き出したブランが、
ストライト=シンプレッドの言葉をさえぎる。
「――次に曲がるまでの、エリア数は?」
騎士の主はスプラード公爵なのだが、この場の主格はブラン。
騎士の自分を無視してて、下級貴族には気安く話しかけるブランの行為。
騎士さんの口元がひきつる心中は、当惑か怒気か。
板のマスに印をつけた俺は、踏破したエリアを確認する。
最初の直進から、一回目の左折への途中。
”左10まま左10まま左9まま左8”に示された最終地はまだまだ。
10分経過の進捗は15エリア。
15もきたぜ! やったーーっ て、アホか。
これは、けっこうまずい数字なのではないかいな。
40×40 = 1600。
1時間で攻略してやるぜ! なんて強気な無謀さ。
どこでなにを勘違いしてたんだよ俺。
「あと3つ」
声には、つい不機嫌がでてしまう。
誰でもない、俺の早合点のせいとわかっちゃいるんだが。
じき始まるであろう、グルーム家中の騒ぎを想像すると、胃が痛い。
「……ブランチェスさま。本当に」
ようやく口を開いた騎士さん。
「私は命を落としかけたわ。テルアキが駆け付けてくれなかったら、死んでいたわね」
気をつけることよ。ブランはそう付け足して、次へのエリアに向き合う。
目も合わせない。見ようとさえしたことないのでは。
騎士の任務は、護衛だろう。もちろんそうだろうが、”監視”の比重が高うだな。
会話から察するまでもなく、決して近い間柄ではない。精神的に。
「背後の警戒お願いします。ダンジョンの魔物に正々堂々は、ないですから」
バックアタックは怖いからな。お願いしますよ。
肩を落としながら睨んでくる騎士さんを一瞥し、ブランに続いた。
板の印に沿って進む。
”左10まま左10まま左9まま左8”の完結までに、3度、単体の魔物に遭遇。
ゲジゲジが2匹、蜂が1匹。
ゲジゲジは、ブランの【水魔法】に切り裂かれ、蜂は俺のバット刀の餌食になった。
〔スキルを習得しました バット刀〕
女性の声が頭に響いき、ひさびさにスキルゲット。
”バット刀”ってまんまじゃねーか。
【バット刀】 (10/10)
せめて”剣”になんなかったのかね。
説明がつかないから、効果機能がわかんねーんだよ。
スキルじゃなくても、ふつーにぶん殴ればいいだけの気がする。
ブランはスキルを使いこなしきってる。それはもう見事に。
自室に引きこもっていたようだが、地道に研鑽していたのだろう。
【植物魔法】も【水魔法】も、熟練の域といっていいんじゃなかろうか。
俺の【コロボックル】の無能ぶりが、引き立つよなあ。
”左10まま左10まま左9まま左8”のゴールは、袋小路。
内向きにぐるぐるしてれば、当たり前の帰結だ。
内部にだって未踏エリアはまだある。
踏破エリアの何倍もだが、結局、は袋小路にいきつく。
超えてきた”踏破”エリアに進めって指示は、ありないとみてる。
攻略指示が前回に同タイプなら、だけど。
「さあて、ダンジョンはどう出るかな」
俺たちは、到着場所に立つ看板の、次なる指示を読んだ。
「2:直進3後、外部全踏破後、1-12 1:直進1後内部踏破後、1-10 現在地9-2 同時終了」
はい?




